【蜘蛛女のキス】 マヌエルプイグ 感想
100/90
1976年 アルゼンチン マヌエル プイグの作品
◉舞台は、ブエノスアイレスの刑務所の獄房の一室。
未成年に対する性犯罪で投獄されているゲイのモリーナと、社会改革を目指す若き活動家のヴァレンティンが徐々に心を通わせていく物語。
刑務所の監房で2人の人物が会話をしている
この時点では性別名前もわからない 1人は女性言葉で1人は男性言葉 黒豹女の映画の話を女性言葉の方が語って聞かせている。
映画の話に、男言葉が茶々を入れるので女言葉は話を途中でやめる。
モリーナはいつだってヒロインに感情移入するらしい。
次の映画の話が始まる
ナチスの将校とフランス人女の話
モリーナには妻子持ちのウェイターの彼氏がいたが面会には来たことはない。
食事が来るが
モリーナは腹痛で食べれない、紛らわせるために映画の続きを話す。
ヒロインは最後撃たれて死ぬ。
盲人と青年と醜いメイドの話。
今度は
バレンティンが腹痛で眠れず 映画のはなしをしてもらうが途中で弁を漏らしてしまい
モリーナが自分の毛布を使って丁寧に処置してくれる。
途中青年と母親、農場主、パリの女、娘の話が挟まれる(
バレンティンの自分の過去の回想?)
バレンティンは自分の過去の話を打ち明けようとするが
モリーナは知りたくないと拒む。
バレンティンの腹痛は収まらない、仲間から来た手紙を
モリーナに見せる。過去のことを語り涙する、また漏らすが
モリーナが処置してくれる 上流階級のマルタという女が好きだった。
政治犯バレンティンの尻尾をつかもうと食べ物の中に腹を壊すように何かを混ぜて与えていた。それによって何かを喋りだした場合、
モリーナはそれを伝える役目を担っていた。
その見返りに恩赦が受けれることになっている。
モリーナは
バレンティンが何も喋らないから伝えることはないと所長に伝える。母との面会ということにしているので 大量の差し入れを持って監房に帰る。
バレンティンはまだ調子が悪いので気を紛らわすために映画の話を頼む ゾンビの話。
バレンティンは精神的にも弱っていき、
モリーナに頼み、マルタという好きだった女に手紙を書いてもらう。
かいた後それを破り捨てる。
映画の話は途中で終わりつぎの日へ
バレンティンは具合が良くなる、 すると
モリーナに自分の行動をとやかく言われると腹が立ち怒りをぶつけてしまう。
モリーナは刑務所長と面談、
政治犯の件について、所長は大統領筋から圧力をかけられているらしい。
モリーナは自分が他の監房に移されることで何かをしゃべるのではないかと提案する。
戻って
バレンティンに監房を移ることを話すと、頭が混乱したから横になるという。
ゾンビの話のラストはハッピーエンドで終わる。
モリーナは急に悲しくなり喉が痛いというと
バレンティンがさすってくれる すると2人はそのままセックスをする。
映画の話 新聞記者と元女優と富豪の夫の話
所長は電話をしていて もう待てないから
モリーナを出所させたうえでアジトを密告したと新聞に載せ、組織を誘い出す作戦を立てる
映画の続きを話す、 最後の夜2人はセックスする
モリーナは前回してくれなかったキスをしてほしいという。
バレンティンは搾取される人生を繰り返すなと告げる、そして
モリーナは伝言を仲間に伝えることを決断する。
出所から二週間の尾行と盗聴の記録が語られる。組織が
モリーナと接触する可能性をつかみ
モリーナの密告を新聞に載せる作戦は中止になる。
25日目 何者も接触のない場合は
モリーナを検挙する命令が出ていた。
誰も現れないので警察が検挙すると、走行中の車から発砲があり
モリーナは死亡
過激派は
モリーナの自白を防ぐため行動を起こし射殺した。
警察の調書には
モリーナは過激派とともに逃げるか、抹殺されるか覚悟を決めていたとみられると書かれている。
激しく衰弱している。医務室で
モルヒネを打たれる 。幻覚の中で 愛するマルタが現れる
マルタと話す 、
モリーナには満足して死んだのであってほしいと思っている。 マルタは自分から殺されたと、決して正義のためではないという。
蜘蛛女の話を語る
バレンティン 蜘蛛女は自分の蜘蛛の巣に絡まり動けない、 微笑んでいるのに涙(ダイヤの涙)している。蜘蛛女は山のような食べ物をあたえてくれた、
それを食べた後急激な眠気に誘われた
マルタの事がどれくらい好きか語る
マルタはこの夢は短いけれどハッピーエンドの夢だという。
終わり
あとがき含め461ページ 地の文が一切なくて
会話がほとんどなので すらっと読める
一週間かからずに読めた。
プイグは小説家の前は、ローマに留学し映画の製作に関わっていたらしい、だからなのかこの小説自体が映画や舞台の脚本を読んでいるよう。
◉映画の話の語り方がとても面白い
特に気に入ったのは、新聞記者の青年と元女優と富豪の夫の話のラストで、 元女優を心から愛していた青年が病気で死んでしまう。
それを悲しんだ元女優は青年の故郷に行くと
そこでは、青年が作った元女優に対する愛の歌が漁師に歌い継がれていてみんなが歌っていた
そして沈みかけたタ日を見つめながら、独りで歩いて行くんだわ、すると聞えてくるの、
〈…ぼくは幸せだ、そして君も 君はぼくを愛してる ぼくの愛はそれ以上 。君を深く愛するぼくは、過去のことは忘れてしまった そして今日、ぼくは幸せを味わっている、なぜなら君が …ぼくのために …泣くのを…見たから〉
もう暗くなりかけていたんで、彼女の姿はシルエットにしか見えないの、それがはるか彼方を、当てどなく、歩き続けるのよ、彷徨える魂のようにね。そのとき急に、彼女の顔がアップになったわ、目には涙が溢れているの、でも口許には微笑みが浮んでるのよ。これでこの話はおしまい」
本当にある映画の話なのかわからないが
終わらせ方が秀逸。
◉モリーナは釈放の前にバレンティンと話した会話以降、本人の語りは一切ないのでモリーナの心象というのは謎になっている。
彼にとって無念の死だったのか、 決意していたのか、それは彼にしかわからない。
ラストの蜘蛛女のくだりはモリーナの事を語っている。
モリーナの死後、バレンティンがモルヒネを打ってからのマルタとの幻覚での会話は、バレンティンの思いを語っているがこのシチュエーションがないと地の文がないだけに、心象を語ることをができないところだが、うまく設定しているなと思った。
映画も見たが 原作の面白さにはかなわなかった。
全体にとても綺麗にまとまっていて、いわゆるラテンアメリカ文学の他の作者とは違った面白さがあった。
個人的には ラテンアメリカ文学の土の匂いを感じるような 土着的な空気感にあてらてしまったので多少ライトに感じた部分もある。
◉序盤の印象深い会話
序盤では 普通の会話のやり取りに思えるが、 悲しい結末を迎えるモリーナを知った後に読み返すと、 とても印象深く モリーナの生き方をシンプルに表す素晴らしい会話だと思った。
「あんたは誰のつもりなんだい? イレーナそれとも女建築家?」
「イレーナよ、何考えてんのよ。ヒロインなのよ、バカみたい。あたしはいつだってヒロインのつもりよ。」
最初の黒豹女は、禁断のキスをすることで悲劇の結末を迎えてしまった。
モリーナも出所の前 バレンティンにキスを頼んだ、 何よりもヒロインに憧れていたモリーナは その時 自分に悲劇の結末が訪れるかもしれないことを決断していたのかもしれない。