【LAヴァイス】トマスピンチョン 感想
100点/100点
【LAヴァイス】トマスピンチョン
最高に面白かった、分厚いし時間かかるかなと思ったが グイグイ引き込まれて 一気に読んだ
この感じは久しぶりで興奮した
朝目覚めたらそのまま本を手に取り一時間読むなんて 最後はいつだったかも思い出せない。
それぐらい楽しめた。
装丁もかっこいい
☆ストーリー
おそらく60年代が終わり70年代突入したあたりの
LAの物語
マリファナジャンキーの私立探偵ドックのもとに
元彼女のシャスタが突然現れる。
シャスタは ミッキーウルフマンという不動産王と不倫していて ミッキーの奥さんもまた若い男と不倫している そしてその奥さんが不倫男と共謀して
ミッキーを精神病院に入れようと計画を立てているらしい
それをどうにか阻止して欲しいとシャスタがやってきた事で物語は幕を開ける
そして捜査を始めていくと程なく殺人事件に巻き込まれ、腐れ縁のベテラン警察官につつかれ
ビーチの住人(仲間)達とあーだこーだしながら
捜査は進んでいき 思いがけない所へ
という話
話の全体の筋としては
探偵物の定番の形で進んでいく
それをこの小説は ヒッピーの探偵 を主人公に
当時の音楽やテレビ番組などのポップカルチャーなどをマニアックに詰め込んでいく
2009年に発刊された70年代の話なので 割と最近にかかれてる、ここにも読みやすい理由はあると思う
☆時代背景
「舗道の敷石の下はビーチ!」
一九六八年 五月 パリの落書きより
これをエピローグにして 物語は始まる
パリはこの時、五月革命 若者たちが権力に立ち向かい 舗道の敷石を剥がして 機動隊に投げつけていた
その敷石の下には「自由」と言う名のビーチが
広がっていると信じて。
参加している若者には 政治的側面だけでなく
フリーセックス 自由恋愛 古い価値観を壊す新世代の台頭という意味で参加していたものも多いといわれている
☆そしてアメリカ
1974年に「ウォーターゲート事件」により 辞任
任期中に辞任した唯一のアメリカ大統領に
【チャールズマンソン】
マンソンファミリーは1968年頃には ほぼ完成
シャロンテート殺害事件が1969年で 1971年
に有罪判決
【ヒッピー文化】
60年代後半から 70年代初頭まで
ベトナム戦争のの終焉 ドラッグ規制強化により
衰退していく
などなど LAヴァイスの時代は いろいろとあった時代 カオスが渦巻き 70年代という新しい時代にだんだんと切り替わってく
混沌の中消えるように終わっていく60年代に対しての寂しさも感じさせる。
☆魅力的なキャラクターたち
主人公ドック. 憎めないマリファナジャンキー
ビッグフット. 強面だけど 心優しい 刑事
シャスタ. 自由奔放で魅力的な元カノ
コーイ. 失踪したミュージシャン 頼りない
ソンチョ. ドックの友達であり海事専門弁護士
テレビや映画などのウンチクがす
ごい。オタクっぽい。
そのほか出てくるキャラ全て個性的
いかがわしい店に勤めるアジア系の女の子。
顔に鉤十字のタトゥーの男。 ジャンキーの歯医者。
ネットの起源といわれるArpaネットを使って情報を集めるドックの友人。東洋思想にハマる友人。
キャラクターたちがみなユニークで飽きない
キャラが多すぎてこんがらがると言う人もいるが
一人一人個性的だから 印象に残るし 覚えやすい
こんがらがるときは、翻訳者のサトチョンのサイトに人物ガイド(名前だけで細かくはあえて書いてない)があり役立った
☆面白かったところ
【カルトウォッチ】
ドックをジャンキー歯医者など四人で車に乗っていると警察に止められる、警官にわざとらしくドックが「何か事件でもあったんですか?」
すると「新しいプログラムだよ」と 〈カルトウォッチ〉というプログラムで
1 .三人以上の市民が集まっている場合潜在的なカルト集団とみなすことになった
2.運転中の危険行為
3.肩あるいはそれ以上に髪を伸ばしている男性
みんなあなた方にあてはまります 書類に記入してくださいと言われる
笑えるし本当にこんなバカバカしい事があったのか気になるところ。
【コカインを組織に返す】
闇の組織(黄金の牙)の20キロのコカイン、を 無理やり持たされたドックは、コーイの自由と引き換えに
コカインを返す事に、誰もいない空き地で待ち合わせ 待っていると ビュイックエステートワゴンに乗った カリフォルニアの健全なるブロンド家族があらわれる。 健康的な父 母と 6歳くらいの男の子と8歳くらいの女の子
そしてせっせとコカインを自分の車に運び 去っていく、こういうひとけのない場所での取引ってハードボイルド物などにはよくあるシチュエーションだし大体がシリアスな場面になるけど
この脱力感
逆にインパクトがすごいし笑える。
☆インヒアレント ヴァイス(内在する欠陥)とは?
ソンチョが答える
「どうしても避けられない事」「海上保険会社がカバーしたがらない事ね。普通は積荷が対象だけど 割れる卵とか 船自体が対象になる事もある。
船底から水を汲み出さなくちゃいけないとしたら、その船には 内在する欠陥がある」
ドックはサンドレアス断層やヤシの木の上に住むネズミもそうだよなと聞く
「LAを、厳密な理由によって船に見立てて、その海上保険契約を書くとしたら、そういう事になる」
☆終わりに向けて少し切ない場面
ドックがコカインを(黄金の牙)に返した時
そのコカインを乗せた車のあとをつけていく一台の車が、おそらくビッグフットの車であるらしい
そこでドックは この尾行によってビッグフットはいったい何処に行きたいのだろうか?
相棒殺しの黒幕を最後まで辿って行きたいのか?
黄金の牙の正体を突き止めたいのか?いずれにせよ そこに何の意味があるのだろうか?と考える
あの高圧的なビックフットにもいろいろあるんだなと思わせる 少し切ない
☆最終章に出てくるスパーキー
ドックの仲間のフリッツ(まだ出たてのコンピューターを操る)が最近新入りを雇った、そいつの名前がスパーキーで、まだ夕飯に遅れそうになるとかあちゃんに電話しないといけないような年齢らしい。
そいつはいわゆる新世代でフリッツよりもネットをバリバリ使いこなす
ドックとたわいもない会話をする
ずいぶん古い曲を聴くんだなと言われれば
ただのデータでしょ、イチとゼロの並びでしょ
とか、ドラッグはやらないけどフリッツがネットをしてるとドラッグやったような感覚になるって言ってたよとか
まさに新しい時代がすぐそこに来てるような
それがまさにスパーキーのキャラクターそのもののような…
☆終わり方が好き
ドックは前も見えないような霧の中 ハイウェイを車であてもなく走る
走り続けてガス欠になるだろう そうしたら路肩につけて待たなくてはならない 何を?何であれとにかく待つ どこかからハッパがひょいと出てくるのを ブロンド女が退屈しのぎにドックを乗せてくれるのを、霧が晴れ また別の何かが出現するのを
って感じで終わる
☆まとめ
この小説が「ピンチョンも年取って簡単なのを書くようになった」など言われるのに対して円城塔という作家が 「本質は変わっていない、隠れたものを書くには全てを書いてしまうしかない。結果が分かりやすく見えるのは、隠れる方でもよりうまく隠れるすべを学んだからだ」
と書評に書いた なるほど
非常にポップで読みやすいが何か内包されてるものはひしひしと感じるし、そこが面白いところ
ドックはまさに時代の象徴のように感じた
三つ揃いのスーツにソフト帽の探偵より 親近感があり 序盤からガッツリ ドックのファンになった
読みやすかった事の一つに訳が非常に良かったと思った、間違ったら軽すぎるキャラクターばかりになりそうな所を軽いノリながらも
人間味のあるキャラクターを感じられるし
スラングなど訳すのが難しい所もあると思うけど
とにかくすんなり読めた
でもタイトルはそのままが良かったなと思った。インヒアレントヴァイスはとても重要なワードだから
トマスピンチョン おもしろかった
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