【エレンディラ】 ガルシア マルケス 感想 その2

【エレンディラ】 ガルシアマルケス その2


引き続き 面白かった後半2編の感想


◉奇跡の行商人、善人のブラカマン


☆ストーリー

奇跡を起こせると嘘をつき 物を売り歩く

インチキ行商人のブラカマン

ブラカマンに興味を持った貧しい子供が

親元からブラカマンに買われて行く。

ブラカマンは商売もうまくいかず 子供は

さんざん酷い扱いを受ける。最初は慕っていた子供もいつからか反発心を抱く様になる。

檻の中に閉じ込められた子供は様々な嫌がらせを受け身も心もボロボロに。食事の代わりに死んだウサギを与えて去っていくブラカマン、怒りに任せそのウサギを壁にぶつける子供、するとそのウサギが生き返る!突然病気や傷を治せる能力に目覚める。

そこから子供はその能力で料金を取り病気の人を治して行き 大金持ちになる。

ある日ブラカマンを見かける 死んでも生き返る奇跡を見せるとまたインチキ商売をしているが 失敗してブラカマンは本当に死んでしまう。

子供はブラカマンを救えるはずだが わざと助けない。

海の見える丘の上に皇帝のそれを思わせる

立派な墓を建てブラカマンを埋める

そして墓の中で生き返らせる。そして死ねばまた生き返らせる

「僕が生きている限り永遠に。」

で終わる。

ブラカマンは明らかに悪党だが 子供の方も

ラストはなかなかに残酷で、何が善で何が悪なのかは誰にもわからないというのが 話の大枠であろうか?

それとも単なる復習劇なのか?

まさに大人のための残酷な童話といったところ。


エレンディラは長くなりそうなので 

次に書く。






【エレンディラ】 ガルシアマルケス 感想 その1

エレンディラ】  ガルシアマルケス 100点/100点

 

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コロンビアのノーベル文学賞作家

ガルシアマルケスが大人の残酷な童話として

書いたと言われる 6つの短編と中編が1つ

百年の孤独と族長の秋の間に書かれている

短編集。

 

【気に入った 前半の2作品感想】

 

◉大きな翼のあるひどく年取った男

    ある朝 ぬかるみに倒れているひどく年取

     った男を見つけるが その男にはボロボロ 

      の翼が生えていた。

    その男を檻のなかに保護しておくが 噂を

    聞きつけた 村人たちが 大勢押しかけ

     大騒ぎに しかし村に蜘蛛女なる 自分の

    不幸な生い立ちを語る 本当に蜘蛛と

    人間が合わさった者が現れると物珍しさに

     行列を作って見物人の行列に

     

   村人たちは羽の生えた老人には見向きもし 

    なくなる。

   忘れ去られた老人は やがて 自然と羽も 

   綺麗に生え変わり 空に飛んで去っていく

     という話。

 

とても短い話だが 惹きつけられる物がある

まず朝起きてから“家にあがってきてしまう 蟹”

を殺さないといけないという 日常生活に びっくりさせられる。

そして 泥まみれの 羽の生えた老人を見つけるという入りで すでに物語に引き込まれる。

羽の生えた老人は 実際に天使であり 人間たちの求める物であり 自分達の生活に何か幸福をもたらしてくれるはずの物の象徴であろう。

しかし 実際には 天使であっても 老人はみすぼらしく 汚く 檻の中で うずくまっているだけで これといって身のなるような奇跡を起こしてくれるわけでもない 。

そんな最中 新しい目を引く物(蜘蛛女)が

現れれば 簡単にみんな忘れてしまう

そんな 人間の浅はかさを描いた ブラックユーモアの様に 思った。

期待した天使は何も起こさない、しかし

それは実際に天使だったのだ。

 

◉失われた時の海

 

☆ストーリー

海からバラの匂いがするが誰も信じない

そのうち村人全員がバラの匂いが わかる様になる。 村は、その珍しい 海からのバラの匂いによって 遠方からも人が押し寄せ 毎日お祭り騒ぎが始まる。そんな中 大金持ちのアメリカ人 ハーバートがやってくる。

ハーバートは金の必要な人に 特技をやらせ

上手くいけば 金を渡した。

数日後 ハーバートは急に眠りだし 何日も起きない。 やがて 村もバラの匂いは消え 閑散とし いつもの 寂れた街に戻ってしまう。

そして ハーバートが目をさます 腹が減ったので海の底に おいしい ウミガメがいるから取りに行こうと主人公と海に潜る。

海に潜ると 白い家の立ち並んだ村が見える テラスには 花が咲き乱れている 今日の朝に水没した村らしい。そして村の老人の亡くなった妻が通り過ぎる その後ろには 世界中の花が帯状に続いており 世界中を回ってきたんだろうと ハーバートが言う。

そして海の中にバラが咲いているのを見つける。近くまで行くが ハーバートに止められ

ウミガメを捕まえて帰る。

ハーバートに海の中の事は誰にも話すなとくぎを刺される。

ハーバートは唐突に村を出て行くという。

「広い世界にはいろいろやる事がある」

「君たちも現実をしっかり見据えないといけない。」

「現実とはつまりあの香りは二度と戻ってこないという事だ。」

といって去っていく。

その夜 主人公は妻に 海の中に沈む村と バラの事を話す。 すると妻にバカな事を言わないでちょうだいと一喝される。

 

◉感想

まず海に入ってからの描写が感動的に美しく頭の中に広がった。 死体に続く世界中の花々なんてとても幻想的で美しい。

本文中の会話の中で 「海の中を知っているのは 死人だけなんですよ」や 「バラの匂いは死の前兆」 など 死に関するワードがいくつか出てくる。 

そうすると海の中をよく知っている ハーバートってなんだろう?と思うし 海の中の事を妻に話した時に妻に怒られる理由もよくわかる。 

ストーリーとしては、大きな翼のあるひどく年取った男と似た様に

何もない村に外部から何かが来て騒動が起こり

そしてそれが通り過ぎて行き 元に戻るというところは似ていると思った。

こちらのほうが 少し長く 描写も細かいので

とても面白く感じた。何回読んでも何か読み取れる物がある様に思う。

 

大きくとらえると 自分の身の回りで起こった 浮き沈みもすぎてしまえば あっけなく

ちっぽけなものだと

もっと大きくものを見て現実を見きわめ前に進まなければならない あの香りは二度と戻ってこないのだからと思った。

 

【バナナフィッシュ日和】 J.D サリンジャー

【バナナフィッシュ日和】   J.D サリンジャー

100点/100点




最初の話

バナナフィッシュにうってつけの日
バナナフィッシュ日和 そのほかいろいろ訳者によって いろんな題名がある。

ストーリーは
ネムーンに来ているシーモア グラースとその妻の1日を追った作品
妻は母親と部屋で電話 シーモアはビーチで出会った少女といろいろと会話して 部屋に帰って行く
そして
という流れ 

これだけの20ページの作品に心を動かされるのは
何故だろうか?
泣ける話とかではないが 時代を超えて評価され続ける物語の力を見せつけられた気がする。

ライ麦フラニーとズーイ、大工よ屋根の梁を、
を読んだけど、 これに一番惹きつけられた
サリンジャーの書きたい事ってなんだろう?とか
どんな人だろうと 気にせずにはいられなくなる

ライ麦など他のを読む前にこれを読んでおけばよかったと思った、他の作品にも表現されてるであろう、物語の中に漂う サリンジャーの個性を もっと感じれたと思う
 
戦争に行って神経衰弱で入院とか
ある時期から世の中とは交流を断ち家の周りに2メートルの壁があるとか
東洋思想への傾倒など
個人的にゾッとするのは
自分の娘にフィービーと名ずけようとした
これは キャッチャーインザライにおける主人公ホールデン
社会に馴染めなくて精神的に不安定な中
最後に救ってくれる存在として妹のフィービーが登場する…
おそらく自己を投影してる部分もあるであろうホールデン、その救世主として自分で作り出したキャラクターの名前を我が子につけるなんて

さすがに奥さんに反対されて 違う名前にしたらしいけど
 
サリンジャーの壊れっぷりをモーレツに感じます。

話をバナナフィッシュに戻す
この短編は何気ない1日を書いているようで
所々 違和感を感じる部分がある 

◉バスローブを着たままビーチで寝転んでいるシーモア
◉バナナフィッシュの話
◉自分の足をジロジロ見るなと急に怒り出すシ       ーモア
◉ビーチで会う少女が何回か発する
シーモアグラース(もっと鏡を見て)というセリフ

なんかいろいろありそうだし サリンジャーの抱えてる何かがにじみ出てる様な気がしてならない
 そしてグラース家のストーリーにはシーモアが大きな影響を与えてる事は間違いないと思うし
当然彼について詳しく書いていたり もしくは主人公にした作品があるのかとおもいきや
本人が直接登場するのはバナナフィッシュ日和だけで
他はエピソードなどが他の作品に間接的に書かれているだけ
バナナフィッシュ日和を読んで、なんでこんな結末になるんだろう?彼の人となりを詳しく知りたいと思う読者にとっては  肩透かし。 だけど
おそらくそこがいいんだと思う、謎めいて。 次男のバディがシーモア序章などで語ってくれるのだが  話があちこち行って 煙に巻かれたような感じを受ける。
そしてバナナフィッシュ日和の中に他に読み取れる何かがあるんじゃないかと思い また読んでみる
ことになる

きっと 隠された何かがあるのかもしれないし
何もない のかもしれない

 心を揺さぶられ  サリンジャーの凄さを思い知ったとしか言いようがない

ナインストーリーズは他にも笑い男 テディなど 他もかなり面白かった。

そしてサリンジャーの作品は寡作にもかかわらず
いまだに毎年、数十万部売れているらしい

恐るべし サリンジャー

マンハッタン ウディアレン 映画感想

マンハッタン  ウディアレン  100点/100点

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 ◉ウディアレンは やっぱり 良い
 
トーリーは、40過ぎの放送作家の中年男が、17才女の子と付き合っているが、現実的ではないから俺には本気になっちゃだめだよとか言いつつ(やることはヤッてる)元カノにたまたま会って 復縁と思いきや 振られ  17才のところにまた戻る
大体はこんな感じ。
 
何が良かったって 4分間のオープニングが
最高にかっこ良い
ガーシュウィンのラプソディー イン ブルーをバックにして モノクロで映し出すマンハッタンの映像 さらに4分間、作家になりたくて本も書いている主人公(アレン)がマンハッタンについての短文をレコーダーに吹き込んでいて 細かいニュアンスに納得できず 何回もやり直している音声が、映像と音楽に合わせて流れる。 
本当に何回見ても感動するしウディアレンのセンスに平伏するしかない。
 
細かいストーリーに関しては 正直アニーホールの方が深みがあるけど、 映像表現の部分では完全こっちが好み。 とにかく見終わって時間たっても 頭に残ってるシーンが結構多い 
 
◉雨の中駆け込む自然史博物館での 
     二人の影を写す会話シーン。      
                   
 ◉リバービューテラスのベンチ
 
◉あと会話の時に横向きに、向かい合って話してるけど一人は壁に見切れて見えないとか、
タイプライターを打つ時に手元を写さないで
少し半身の背中しか写ってない等(記憶で書いてるから間違ってるかも)
とにかく見ながら感心したことが頭に残っている。
 
そこでいろいろ調べると出てくるのは、撮影監督ゴードンウィリス。 ゴッドファーザーやアレンの黄金期主要作をこの人がとっていた。
そんな時、たまたまとある映画評を見ていたら
映画は撮影監督でほぼ決まると書いていたのを見かけた   なるほど
ゴードンウィリスの凄さを思い知らされた
 
ウディアレンのいい意味で コミカルでシニカルな
都会の大人の恋愛話に ゴードンウィリスの力のある白黒のニューヨークマンハッタンの映像が うまく溶けあって  とても良い
何回見ても映像のかっこよさにしびれる
 
話としては 優柔不断なおっさん(アレン)が
あっちへこっちへフラフラ いろんな不満を言い放ち 最期もまあ劇的なハッピーエンドやバッドエンドってわけじゃないんだけど それがまたいい味わい。
 
 
 
恋愛映画は苦手だけどウディアレンの作品を面白く観れるのは、人生や人間関係についてそんな劇的なことってないよ。みたいなことを さらっと自虐的なユーモアに乗せて 見せてくれるから 見た後に何か深みを感じれるんだと思う、あと会話劇のうまさがとにかく秀逸。
 
 
◉まとめ
こんなメガネでハゲの小さいおっさんのどこがいいのかと思っていたけど そのセンスの良さを見せつけられた作品 スコセッシなどが撮る70年代ニューヨークももちろんいいけど ウディアレンはまた違うニューヨークを映してくれる、どの監督にもないオリジナルを作ってくれるとても好きな監督になった   つまらないのもあるけど マンハッタンは単純に映像がいいから字幕なしで、 垂れ流しで観てても満足できる 
最後にキネ旬のアレン特集でも締めに使ってた
アレンの名言を忘れないように
書いておこう
 
◉「夢見たことで叶わなかった事は何もない、でもこんなにも人生の落伍者の気分なのは
何故だろう?」 ウディアレン
 
おもしろい おっさんだ 尊敬します。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ガルシアマルケス 【予告された殺人の記録】 感想

100点/100点

【予告された殺人の記録】 ガルシア マルケス


コロンビアのノーベル文学賞作家 

有名な百年の孤独よりあとに書かれた作品


書き出しが最高


“自分が殺される日、サンティアゴ ナサールは、司教が船で着くのを待つために、朝、五時半に起きた”

から始まる。


◉内容

裕福な家庭のイケメン 息子 サンティアゴ ナサールがなぜ殺されたのかをめぐる話。


この事件は題名の通り予告され街の皆も知っていたにもかかわらず サンティアゴが殺される件について 主人公が街の人たちに証言をとっていくような感じで進む


◉殺された理由は

島に移住してきた金持ちが、島の貧しい家の娘を嫁にもらおうとして結婚まで たどり着くが 結婚の直前で 処女ではないとわかり(婚前交渉禁止の宗教?)破談になる。

その相手は誰だと聞くと サンティアゴ ナザールだという。

金持ちの嫁に行けたはずの妹を傷ものにした サンティアゴに対して 娘の双子の兄弟が憤慨し

殺人を計画する(屠殺用ナイフを持って待ち伏せ)がそれをみんなにふれまわっており、街の誰もが知っていたのにもかかわらず結局は殺されてしまう。

しかも 実はサンティアゴが娘と関係があったかは実はわからず 何十年もあとに主人公が娘に確認しても 濁されて真実はわからない

果たしてどっちだったのか?

 

しかもその娘は島に来た金持ちと結婚するのが嫌で 処女ではないと嘘をついたのに

中盤ではあとからその金持ちの事を忘れられなくなり、猛烈に手紙でアピール(2,000通‼︎)して、その甲斐あり 再会を果たす 


いわゆるサスペンスになりそうな話が

読み終えるとそうではない。

本当にあった事件を元に書いてるそうで、 まるで作者が事件の真相を知っているのではないかと話題になり 警察に取り調べをうけた というのが 当時、話題になったようだ。


しかしその様なリアリティの部分というよりは、 フィクションとして単純に面白いし 物語の中に何か、人間の本質についていろいろ書かれているような気がしないでもない

そこが面白い。

◉終わり方も秀逸

サンティアゴが内蔵飛び出したまま 百メートル以上歩き

つまづいて転ぶが すぐに起き上がり 腸に泥がついたのを気にして手でゆすって落としていたっていうのも なんか 独特の表現で面白い。

それで倒れて死んで終わり そのあとは何もなし


娘の言ったことは嘘だったのか?とかそういうところはあえて明らかにせず終わるが

その感じがとてもよく 気持ちの良い読後感

読み手にいろいろ考えさせてくれるようなところが とても面白かった。

雰囲気として土っぽさや生活感がにじみ出ているところも魅力的 


このあともマルケスをいろいろ読んでみよう



職業としての小説家 村上春樹 感想

100点/80点

職業としての小説家

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村上春樹の小説 エッセイなどある程度読んできたが、今までの本とは異なる内容 が書かれているのではないかと期待し購入。


この本にも書いてあるし、前から本人も言っているように 昔から言ってることが変わらないから 同じような話がまた出てきてるけどすいません みたいな、まさしくそんな内容 エッセイ関係のエピソードがほとんどだった。


彼は勝手に海外で人気が出たわけではなく自分で海外で売りたい為に 行動を起こした結果として 世界でのセールスにつながっていった事、 つまり売るための努力もしていたというそのような彼の積極性は意外だったし、ただ才能だけで世界的人気には結びつかなかったんだろうなと思った。


全体的には、作家の卵たちに公演しているかのような感じで書かれているので物書きを目指す人などには 参考になる部分も多いと思う 。


最後に、僕はこの人の本を読むたびに、生活を正そうとそういう気持ちにさせられるのでそういう意味でも 自分には 価値があったかなと 思う。

また 走るのと筋トレを始めよう…かな。

【LAヴァイス】トマスピンチョン 感想

100点/100点

【LAヴァイス】トマスピンチョン

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最高に面白かった、分厚いし時間かかるかなと思ったが グイグイ引き込まれて 一気に読んだ

この感じは久しぶりで興奮した
朝目覚めたらそのまま本を手に取り一時間読むなんて 最後はいつだったかも思い出せない。
それぐらい楽しめた。
装丁もかっこいい

☆ストーリー

おそらく60年代が終わり70年代突入したあたりの
LAの物語
マリファナジャンキーの私立探偵ドックのもとに
元彼女のシャスタが突然現れる。
シャスタは ミッキーウルフマンという不動産王と不倫していて ミッキーの奥さんもまた若い男と不倫している そしてその奥さんが不倫男と共謀して
ミッキーを精神病院に入れようと計画を立てているらしい
それをどうにか阻止して欲しいとシャスタがやってきた事で物語は幕を開ける
そして捜査を始めていくと程なく殺人事件に巻き込まれ、腐れ縁のベテラン警察官につつかれ
ビーチの住人(仲間)達とあーだこーだしながら
捜査は進んでいき 思いがけない所へ
という話


話の全体の筋としては
探偵物の定番の形で進んでいく
それをこの小説は ヒッピーの探偵 を主人公に 
当時の音楽やテレビ番組などのポップカルチャーなどをマニアックに詰め込んでいく

2009年に発刊された70年代の話なので 割と最近にかかれてる、ここにも読みやすい理由はあると思う

☆時代背景

「舗道の敷石の下はビーチ!」 
一九六八年 五月 パリの落書きより

これをエピローグにして 物語は始まる

パリはこの時、五月革命 若者たちが権力に立ち向かい 舗道の敷石を剥がして 機動隊に投げつけていた
その敷石の下には「自由」と言う名のビーチが
広がっていると信じて。
 
参加している若者には 政治的側面だけでなく
フリーセックス 自由恋愛 古い価値観を壊す新世代の台頭という意味で参加していたものも多いといわれている

☆そしてアメリカ

1968の大統領選に勝利しニクソンが1969から大統領に就任 ベトナム戦争からの完全撤退に貢献し
1974年に「ウォーターゲート事件」により 辞任
任期中に辞任した唯一のアメリカ大統領に

【チャールズマンソン】
マンソンファミリーは1968年頃には ほぼ完成
シャロンテート殺害事件が1969年で 1971年
に有罪判決

【ヒッピー文化】
60年代後半から 70年代初頭まで
ベトナム戦争のの終焉 ドラッグ規制強化により
衰退していく

などなど LAヴァイスの時代は いろいろとあった時代 カオスが渦巻き 70年代という新しい時代にだんだんと切り替わってく 
混沌の中消えるように終わっていく60年代に対しての寂しさも感じさせる。

☆魅力的なキャラクターたち

主人公ドック. 憎めないマリファナジャンキー

ビッグフット. 強面だけど 心優しい 刑事

シャスタ.   自由奔放で魅力的な元カノ

コーイ.  失踪したミュージシャン 頼りない

ソンチョ. ドックの友達であり海事専門弁護士
                 テレビや映画などのウンチクがす       
                  ごい。オタクっぽい。

そのほか出てくるキャラ全て個性的
いかがわしい店に勤めるアジア系の女の子。
顔に鉤十字のタトゥーの男。 ジャンキーの歯医者。
ネットの起源といわれるArpaネットを使って情報を集めるドックの友人。東洋思想にハマる友人。
 
キャラクターたちがみなユニークで飽きない
キャラが多すぎてこんがらがると言う人もいるが
一人一人個性的だから 印象に残るし 覚えやすい
こんがらがるときは、翻訳者のサトチョンのサイトに人物ガイド(名前だけで細かくはあえて書いてない)があり役立った 

☆面白かったところ

 【カルトウォッチ】

ドックをジャンキー歯医者など四人で車に乗っていると警察に止められる、警官にわざとらしくドックが「何か事件でもあったんですか?」
すると「新しいプログラムだよ」と 〈カルトウォッチ〉というプログラムで 
1 .三人以上の市民が集まっている場合潜在的なカルト集団とみなすことになった
2.運転中の危険行為
3.肩あるいはそれ以上に髪を伸ばしている男性
みんなあなた方にあてはまります 書類に記入してくださいと言われる
笑えるし本当にこんなバカバカしい事があったのか気になるところ。

 【コカインを組織に返す】

闇の組織(黄金の牙)の20キロのコカイン、を 無理やり持たされたドックは、コーイの自由と引き換えに
コカインを返す事に、誰もいない空き地で待ち合わせ 待っていると ビュイックエステートワゴンに乗った カリフォルニアの健全なるブロンド家族があらわれる。 健康的な父 母と 6歳くらいの男の子と8歳くらいの女の子
そしてせっせとコカインを自分の車に運び 去っていく、こういうひとけのない場所での取引ってハードボイルド物などにはよくあるシチュエーションだし大体がシリアスな場面になるけど
この脱力感
逆にインパクトがすごいし笑える。

☆インヒアレント ヴァイス(内在する欠陥)とは?

ソンチョが答える
「どうしても避けられない事」「海上保険会社がカバーしたがらない事ね。普通は積荷が対象だけど 割れる卵とか  船自体が対象になる事もある。
船底から水を汲み出さなくちゃいけないとしたら、その船には 内在する欠陥がある」
ドックはサンドレアス断層やヤシの木の上に住むネズミもそうだよなと聞く
「LAを、厳密な理由によって船に見立てて、その海上保険契約を書くとしたら、そういう事になる」


☆終わりに向けて少し切ない場面

ドックがコカインを(黄金の牙)に返した時
そのコカインを乗せた車のあとをつけていく一台の車が、おそらくビッグフットの車であるらしい
そこでドックは この尾行によってビッグフットはいったい何処に行きたいのだろうか?
相棒殺しの黒幕を最後まで辿って行きたいのか?
黄金の牙の正体を突き止めたいのか?いずれにせよ そこに何の意味があるのだろうか?と考える
あの高圧的なビックフットにもいろいろあるんだなと思わせる 少し切ない

☆最終章に出てくるスパーキー

ドックの仲間のフリッツ(まだ出たてのコンピューターを操る)が最近新入りを雇った、そいつの名前がスパーキーで、まだ夕飯に遅れそうになるとかあちゃんに電話しないといけないような年齢らしい。
そいつはいわゆる新世代でフリッツよりもネットをバリバリ使いこなす
ドックとたわいもない会話をする
ずいぶん古い曲を聴くんだなと言われれば
ただのデータでしょ、イチとゼロの並びでしょ
とか、ドラッグはやらないけどフリッツがネットをしてるとドラッグやったような感覚になるって言ってたよとか
まさに新しい時代がすぐそこに来てるような
それがまさにスパーキーのキャラクターそのもののような…

☆終わり方が好き

ドックは前も見えないような霧の中 ハイウェイを車であてもなく走る
走り続けてガス欠になるだろう そうしたら路肩につけて待たなくてはならない  何を?何であれとにかく待つ どこかからハッパがひょいと出てくるのを ブロンド女が退屈しのぎにドックを乗せてくれるのを、霧が晴れ また別の何かが出現するのを

って感じで終わる
 
☆まとめ

まさにLAを大きな船に見立てて 海上保険契約を書いたら 内在する欠陥(インヒアレントヴァイス)が存在する と そういう話

この小説が「ピンチョンも年取って簡単なのを書くようになった」など言われるのに対して円城塔という作家が 「本質は変わっていない、隠れたものを書くには全てを書いてしまうしかない。結果が分かりやすく見えるのは、隠れる方でもよりうまく隠れるすべを学んだからだ」
と書評に書いた なるほど


非常にポップで読みやすいが何か内包されてるものはひしひしと感じるし、そこが面白いところ
ドックはまさに時代の象徴のように感じた

三つ揃いのスーツにソフト帽の探偵より 親近感があり 序盤からガッツリ  ドックのファンになった
 
読みやすかった事の一つに訳が非常に良かったと思った、間違ったら軽すぎるキャラクターばかりになりそうな所を軽いノリながらも
人間味のあるキャラクターを感じられるし
スラングなど訳すのが難しい所もあると思うけど 
とにかくすんなり読めた

でもタイトルはそのままが良かったなと思った。インヒアレントヴァイスはとても重要なワードだから

トマスピンチョン おもしろかった
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