【都会と犬ども】 マリオ・バルガス・リョサ 感想その2

【都会と犬ども】 マリオ・バルガス・リョサ

感想 その2

 

第一部は、士官学校での生活がどんな感じかと、そこでの人間関係が主に描かれる。

少年達の過剰なふざけ具合に少し疲れるが、第一部の最後に、奴隷の死という大きな出来事が起こる。これにより第2部からの話が大きく動き、今までバカ騒ぎしていた少年達の心に影を落とし、それぞれに思いを持ち、動きを見せる。ここからは読むのが止まらなくなり、ラストまでいっきに読み進んだ。

 

ジャガーの過去の話は、大分前から出ているのだが、〈僕〉という語り方だけで、名前が出てこない。それと、テレサの近所で、テレサの事がずっと好きだという事で、リカルドアラナ(奴隷)の話なのかと思って、読み進めていると、実はその過去の話はジャガーの過去で、ラストでジャガーテレサと再会し結婚したというところでジャガーの事だとわかる。

 

面白かったのは、やはり2部からの人物描写で、アルベルトは、奴隷の無念の死を晴らすため密告を決意し、ジャガーは密告者という裏切り者からクラスメイトを守るため奴隷を殺し、ガンボア中尉は軍隊の規律を忠実に守りぬくため昇進の道を蹴ってまで、事件の真相を解明しようとする。それぞれに、自分の思いに主張があり、それに向かって強くまっすぐに行動する。しかし、それぞれに自分の望むかたちにはならなかったのだが、物語はそこで終わりではなく、自分の行く末に悲観する事なくそれぞれの道を歩んでいく。

 

 

 

◉あとがきから 

リョサは、作家が小説を書くのは胸の奥に棲みついた悪魔達を追い払うためだと繰り返しのべていた。

実在する、レオンシオプラド士官学校を舞台にしてこの内容のため、当時、学校はこの小説を校庭に山と積み、燃やしたというが、2010年の追記によると今では士官学校のホームページには当時の制服姿のリョサの写真と「本校の元士官候補生、ノーベル文学賞受賞」という見出しが出ているという。

 

 

【緑の家】感想2 マリオ・バルガス・リョサ

◉面白かった所

P178

★ラリータが、フシーアが出て行ったきり戻って来ないので、心配で孤独を感じている所に、インディオのフムが戻って来る場面。

最後はフムが自分に好意を持っているのを知っていて関係を結んだかのような描写で終わる。

話している人物が説明もなくどんどん変わり一気に最後まで進む、勢いがありトリッピーな文章。 ラリータの心の不安定さを感じさせ 全体の書き方と違うので インパクトがある。

 

★アンセルモがアントニア(16)に近づいていく場面

 

始まりが 「事実は本来動かし難いものなのに、われわれは現実と自分の願望とを混同してしまうのだ。」から始まる要するに、自分の願望が第三者の様に自分に語りかけるような文章になっていてインパクトがある。

 

 

◉好きな部分

“これでいいのかどうか、最後にもう一度よく考えてみるのだ。人生とはこういうものなのかどうか、もし彼女がいなかったら、あるいは彼女とお前の二人きりだったらどうなっていたか、すべては夢だったのかどうか、現実に起こることというのはいつも夢とは少しばかり違うのかどうか、よく考えてみるがいい。そして、 これがほんとうに最後だが、お前はもう何もかも諦きらめてしまったのかどうか、そしてもしそうなら、それは、彼女が死んでしまったからなのか、それとも自分ももう齢なので、次に死ぬのは自分だと悟っているからなのかどうか、そこのところをよく考えてみるのだ。” 

 

 

◉あとがきから

緑の家はリョサが子供の頃実際にあった。

 

三人の楽団員と盲目のハープ弾きもいた。

 

ラクサのフム 神父もいた。

 

フシーアにもモデルがいる(実際に存在したかはわからないが)。

 

 

 

 

◉感想

前情報として読むのが難しいかと構えてしまったが、むしろ読みやすかった。 登場人物ごとに話が区切られる事とその区切りが割と短く続いていくので、ここまで読もうという目やすがつきやすく、むしろどんどん読み進めてしまう。840ページ(あとがき含め)10日くらいで気がついたら読み終わっていた。

 

面白い所は、文章が説明もなく改行もなく過去の人物が喋ったりするので、アレ?と思うのだけれど、慣れてくるとそれがすんなり読めるようになり、どこか中毒性がある。

 

女性達は(修道女 ラリータ ボニファシア etc)たくましく。

男達(フシーア リトゥーマ etc)は情けない。

 

◉文章はとてもシンプル。

 

過去と現在、たくさんの登場人物達が交錯していく様はまさに密林のよう。そしてその間を幾重にも走る川を抜けると、何にも代えがたい読後感と気持ちの良い余韻を残す。

とても面白かった。

 

◉最後に リョサの言葉

 

「人間の内面にこだわり、それを描き出そうとするやり方はあまり好きではない。自分はむしろ、行為、行動といった外に現われてくるものに興味があり、それを描くことで人物の内面を浮かび上がらせたいと考えている」 

 

 

まさにこの言葉通りで、多数の個性的な人物たちが各々に思いのままに行動する事によって物語がぐいぐいと進んでいき、結果登場人物の内面が徐々に浮かび上がり物語全体も深みを増していく。

 

リョサのやりたい事は、この作品で完璧に表現されていると思った。

 

 

 

 

 

 

【緑の家】感想1 マリオ・バルガス・リョサ

 

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◉あらすじ

《緑の家》を建てる盲目のハープ弾き、スラム街の不良たち、インディオを手下に従えて他部族の略奪を繰り返す日本人

ペルー沿岸部の砂の町とアマゾン奥地の密林を舞台に、様々な人間たちの姿と現実を浮かび上がらせる バルガス-リョサの代表作。

 

あとがきに訳者が書いてくれたちょうど良い

まとめがあるのでそれを

 

“作品の舞台は、 ペルー・アマゾンにある町イキートス、アマゾン源流地域にある町サンタ・マリーア・デ・ニエバ、 およびその周辺、 それにアンデス山脈の反対側にある砂漠の町ピウラになっていて、 そこで五つのストーリーが相互に関連し、絡み合いながら展開してゆくという設定になっている。 以下その五つのストーリ.ーを大まかに説明しておく”

 

◉1

 作品の冒頭に出てくる治安警備隊の隊員たちとシスターは、インディオの住む集落に向かっている。彼らはそこで原始的な生活を営んでいるインディオの少女を連れ去り、サンタ・マリーア・デ・ニエバの町にある修道院に住まわせて、キリスト教教育を授けている。ただ、そうして教育された少女たちも成長して修道院を出てゆく時がくると、後は裕福な家庭のお手伝いになるか、場合によっては売春婦に身を落とすしかなかった。拉致された少女の一人ボニファシアは、仲間の少女たちをそうした境遇から救い出そうとして修道院から逃すが、それが発覚して僧院を追われ、謎の多い女性ラリータの家に引き取られる。やがて彼女は治安警備隊の軍曹リトゥーマと知り合い、結ばれる。その後、リトゥーマは彼女を生まれ故郷のピウラの町にあるマンガチェリーア地区に連れ帰るが、ある事件(◉5に後述)を起こしたために牢に入れられ、その間にボニファシアは売春宿《緑の家》で働くようになる。

 

◉2

放浪の歌手アンセルモはピウラの町に流れ着き、しばらく暮らしたあと町外れに売春宿《緑の家》を建てる。一方、捨て子だった少女アントニア(トニータ)は農場主のキローガ夫妻に引き取られて幸せに暮らしていたが、夫妻が盜賊に襲われた時に彼女も瀕死の重傷を負い、目も見えなければロもきけなくなった。 洗濯女に連れられて毎日外に散歩に来るその少女に恋をしてしまい《緑の家》に勝手に連れて来る。アンセルモはやがて彼女を愛するようになり、 二人の間に子供ができるが、アントニアは出産直後に亡くなる。その事件を機に、 かねてから《緑の家》を道徳的頽廃の元凶とみなしていたガルシーア神父が、町の人たちをそそのかしてあの店を焼き討ちにする。アンセルモはその後楽士として生計を立て 《緑の家》の話はしなくなる。のちにアントニアとの間に生まれた子供ラ・チュンガが成長して、《緑の家》を再建し、そこで楽士として働くようになる。ボニファシアがラ・セルバティカの名で働くようになったのは再建後の《緑の家》である。

◉3

インディオの部族の長フムは、仲介人を通さず直接買手と交渉してゴムを売ろうとしてつかまり、拷問される。 一方、ブラジルで事件を起こして牢に入れられるが、脱獄してアマゾンの奥地に身を潜めた日本人フシーアは、 インディオを使って密輸や盜賊行為を行なっている。フムはそのフシーアのもとに身を寄せる。フシーアはやがて重い感染症にかかり、友人アキリーノのボートで奥地にある療養所に向かうが、小説の中ではこの二人の会話を通して過去の出来事が回想されていく。

 ◉4

 イキートスの町に住む政治家のフリオ・レアテギは地方ボスとして絶大な権力を振るっているが、陰では人を使ってゴムの採取を行なっているインディオを搾取し、密輸にも手を出して大きな利益を得ていた。 フムが傷めつけられた背後にはレアテギがいたし、彼はまたフシーアをつけ狙い、いつかつかまえてやろうと目を光らせていた。

 

◉5

ピウラの町のマンガチェリーア地区に住む若くて向こう見すなリトゥーマとその仲間たちの物語。 リトゥーマはその後治安警備隊の軍曹としてアマゾンの奥地に赴任し、そこでボニファシアと知り合い、 彼女を連れてピウラに戻ってくる。 その町でも治安警備隊員として働いていたが、 ある事件《農場主セミナリオと喧嘩になりロシアンルーレットをやり自殺に追い込んだ》がもとで逮捕され、 牢に入れられる。 ボニファシアはしかたなく《緑の家》で働くようになる。 この物語と平行して、 アントニアを失い今はハープ弾きとして働いているドン・アンセルモやガルシーア神父をはじめさまざまな人物たちにまつわる話が語られている。

最後はドン・アンセルモが死に セバーリョス医師、ガルシーア神父、リトゥーマたちとで アンセルモの死についていろいろと語り合う 最後は神父がミサとお通夜を引き受ける約束をし一旦家に帰るところで終わる。

 

◉印象に残った人物達

 

★フシーア 

フシーアはもともとフリオ・レアテギ(行政官)と密輸業をしていたが それがばれた時に フシーアが全ての罪を被り逃亡する事になる。その時 街で出会ったラリータという女を連れて行く。ラリータとフシーアは実際夫婦になるが度重なる悪事と病気で行く先のなくなったフシーアは老人アキリーノが探してきてくれた 身を隠せる療養地に向かう

療養地に住んで1年後アキリーノが訪ね

ラリータには新しい家族がいて幸せだと聞かされると おとなしくなってしまう。

 

★ラリータ

最初はフシーアに連れられて 密林の生活が始まる。フシーアがほとんど帰ってこなく夜の生活もなくなると 愛を感じれなくなり 船頭のアドリアンニエベスと島を逃げ出し結婚する。その時は自分の息子アキリーノとインディオから引き取ったボニファシアを育てていた。

しばらくすると主人のニエベスが警察に捕まり一人になる その後は治安警備隊員の〈デブ 〉と結婚したくさんの子供がいて幸せに暮らしている。最後は息子アキリーノの結婚式の為ラリータの故郷イキートスに行く。そこでニエベスが釈放されたことを聞く、かなり長い間捕まっていた事に驚く。

 

★アンセルモ

突然ピウラの街に現れ 村の人たちと親交を深める しばらくすると 街のはずれの砂漠の土地を買い取る 突然工事が始まると完成したのは緑に塗った建物だった。

村人も最初はわからなかったが 売春宿で経営者はアンセルモだった。街の女性やガルシーア神父には猛烈に反対される。しかしそれに反して《緑の家》は繁盛し 街も発展していった。アンセルモはハープの名手で楽団を組んでいた。しばらくするとアンセルモは少女アントニアに恋をしてしまい 家に連れ帰ってしまう そして彼女は妊娠し緑の家で出産させ様としたが失敗しセバーリョス医師を呼ぶが間に合わず 子供は取り上げたが アントニアは死んでしまう。 それを知ったもともと《緑の家》に反対していた人々とガルシーア神父に批判される。そして《緑の家》は誰がやったかはわからないが 燃えてなくなってしまう。

その後は浮浪者のように町をうろつき世捨て人のようになる。少しずつ回復し酒場などに雇われ 楽団として仕事をする そして火事でも助かった娘ラ・チュンガ が成長し 《緑の家》をまた建てる そこで楽団として働くようになる。アンセルモは昔から町を知っている老人としてみんなに好かれていた。最後は老衰で《緑の家》で亡くなる。

 

 

人物の描写がしっかりしているので 全員がとても印象に残るし よりストーリーに入り込める。

 

ざっとストーリーとキャラクターの覚え書き。

長いので感想は次に        つづく

 

【コレラの時代の愛】 ガルシア マルケス 感想

コレラの時代の愛】 ガルシア マルケス 感想

100/87


百年の孤独】とはまた違った壮大な時の流れを描く愛の物語。


◉ストーリー

序章

老齢の医師フベナル ウルビーノ とその妻

フェルミーノ ダーサ の話から始まる。

ある日家から逃げ出したオウムを捕まえようと木に登ったウルビーノ博士は梯子が倒れ落下そのまま死んでしまう。

悲しみに暮れるフェルミーノの前に現れた

老人 フロレンティーノ アリーサは フェルミーノに対してこう言う。「わたしはこの時が来るのを待っていた。もう一度永遠の貞節と変わることのない愛を誓いたいと思っている。」

それに対し怒ったフェルミーノは二度とこの家の敷居をまたがないでくれと追い返す。

しかしその夜すすり泣いて眠りながら亡くなった夫のことよりもフロレンティーノ アリーサのことを考えていることに気づく。


郵便局で通信技師をするフロレンティーノ アリーサ 18歳 は 偶然見かけた フェルミーノ ダーサ15歳 の美しさに一目惚れする。

フロレンティーノは彼女の気を惹こうと

彼女の通学路で目につく場所で読書するふりをして存在を認めさせる。

そのうちタイミングを見計らい手紙を渡す。

最初は抵抗していたフェルミーノも彼の執拗なアプローチに気持ちが彼の方に傾いていく。

しかしフェルミーノのは父親に厳しく育てられていて 行動するのもいつも叔母と一緒

なので 絶対にバレないように手紙のやり取りで二人の関係はスタートする。

しかしその関係は父親にばれてしまい

二人は引き離される。

父親はフロレンティーノを連れてラバに乗り過酷な旅に出る 遠い街の親戚の家で過ごすことに、その間 実はフロレンティーノはその執念でなんとかフェルミーノに手紙を届けていて。 関係性は保つことはできていた。

1年半が過ぎ 父親はもう娘も忘れているだろうと思い 家に戻ることに。

17歳になったフェルミーノは久しぶりにあったフロレンティーノを見て

以前の心の震える愛情ではなく底知れぬ失望を感じ ぞっとした 「そして、お願いですから忘れて下さい」と告げる。

そして「今日、あなたにお会いして、わたしたちのことは所詮幻想でしかないと気がつきました。」と書いた手紙を届ける。

そしてそれからは 二人きりで会うことも 二人きりでしゃべることもない 51年9ヶ月と4日 彼女が未亡人となる最初の日まで。


◉フベナル ウルビーノ博士

28歳のフベナル ウルビーノ博士はパリ帰りの優秀な医者で若い女性の憧れの的である。

しかし彼もフェルミーノの庶民的な魅力に

惹かれ猛烈なアタックをかける 最初は拒否していた フェルミーノもその熱意にほだされていく。もちろんフェルミーノの父も優秀な博士との結婚には賛成で結婚することに。

そしてパリへ2年の新婚旅行へ


フロレンティーノは立ち直れないほど打ちのめされ 癒しの旅に出る事に その間初めて女を知る。しかし旅も途中に街に戻る事に決める。 あてもなくフラフラしているが未亡人と出会い半年間常軌を逸した恋をする。

その未亡人を最初にして彼は〈彼女たち〉と題したノートをつける それは25冊に及び

622人にのぼる女性との関係が記録されていた。


フェルミーノは博士とのパリの旅行で とても幸せに過ごし 別人のようになって帰ってくる。世間知らずだったフェルミーノは海外で奔放に過ごしとても成長しそして子供を身ごもって帰国した。


フロレンティーノは博士がいずれ死ぬと決めつけ その時に彼女にふさわしい人間になろうと心に固く決め、その第一歩を踏み出す

叔父のカリブ海河川運輸会社でなんでもいいから仕事をくれと頼む。

そして仕事でも忙しく過ごし数々の女性と関係を持ち 未亡人たちは夫の死後どれくらい幸せに暮らしているか 知ることができた。


フェルミーノは結婚したものの 姑との関係で悩み暗い日々を過ごす。

そして30年が過ぎ そしてフェルミーノは姿を消す いとこの住む村で暮らしていた。

博士が不倫をしていた事を知ってしまったから。


フロレンティーノは河川運輸会社の後継者になる

親戚に世話するように預けられた遠縁の小学生の女の子アメリカ ビクーニャと恋をして 性的関係を持つ。フロレンティーノはもう、老年になっているにもかかわらず


そして 博士が死ぬ


フェルミーノのところにまたアプローチを始める。

最初は避けていたフェルミーノもついには陥落する。

そして2人は船旅に出る 道中2人は理解し合い結ばれる そんな中 フェルミーノに連絡が入る アメリカ ビクーニャが死んだ 成績の不振が原因で自殺したらしい 実際はフロレンティーノが相手をしてくれなくなったショックからの自殺。


2人は船旅を続ける 途中に停泊した港でコレラの検査のため長い時間拘束されるが フロレンティーノは無視して先に進もうと船長に命令する


船長はフロレンティーノに

「川を上り下りするとしても、いったいいつまで続けられるとお思いですか?」と聞かれる。 53年7ヶ月11日前から答えを用意していた。

「命の続く限りだ」と彼は言った。



◉面白かったところ


フェルミーノ結婚後初夜の描写

そとのきは彼女がイニシアティヴをとり、恐怖や苦痛を感じることなく、外洋を航海する冒険者のように楽しそうに身を任せ、あとには名誉のバラのような血のしみがシーツに残されていた。



☆パリ滞在時のフェルミーノ

彼女は、またスペイン語でどこの誰とでも

意思を通じ合わせることができた。〈言葉というのは何かを売ろうとすれば、覚えなければいけないけど〉と彼女はからかうように笑いながら言った。〈何かを買う場合は、何を言っても通じるものなのよ。〉


☆アメリカビクーニャに誘惑される場面

通りを歩いているあわれな盲人の手引きをするように、ベッドまで手を引いて導いてやり、悪意のこもったやさしさで彼を料理しはじめた。好みの量の塩と胡椒をふりかけ、ニンニクひとかけ、みじん切りにしたタマネギをまぜ、レモン汁をしぼり、ローレルの葉を一枚加える、大皿で味をなじませている間に、オーブンがいい温度に温まった。

家には誰もいなかった。


☆海に沈む難破船を見た少年の話

帆が完全に残っている船が何隻かある、多分船が沈んだ6月9日午前11時の陽射しが射している

300年生きている大ダコがいて大砲の筒先からうでを伸ばしている。

軍服を着た司令官が横向きになって漂っていた。

◉感想

10代の時に会った女性をずっと思い続け

70歳過ぎて 未亡人になってからまた思いを打ち明けに行くという。 普通にはありえない幻想的な恋という大枠を リアリズムの文体で構築してある 作品。


100年の孤独とは逆の発想で書いているような気がする。


安っぽくならないユーモアのセンスがよい


フロレンティーノは老齢まで初恋の人を思っている純愛の人かと思うが、実際には622人の女性と関係を持ち日記につけるは、途中 娼館を経営するは、 小学生の子供と関係を持ちしまいには自殺させてしまうなど

相当な変態なのだが それがまた人間味を感じありきたりのラブストーリーにならず

まさしくマルケスオリジナルの味わいのある作品になっている


最後の質問に対する答えはフロレンティーノのフェルミーノへの一途の愛に対する答えにもなっているのだろう。


最後まで面白く読めた。











エレンディラ 映画 感想

エレンディラ 映画感想   100点/90点

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105分 

1983年 フランス メキシコ 西ドイツ合作

ルイ グエッラ監督

 

ガルシア マルケス原作のエレンディラに相当な感銘を受け、どうしても見たいのでVHS借りてきての鑑賞。

 

あらすじ

ガルシア マルケスの中編小説を映画化。因業な祖母(パパス)に、奴隷のようにこき使われ、やがて旅の娼婦に仕立て上げられる少女エレンディラ。そんな彼女の生活も、天使を思わせる美青年ユリシスの登場で大きく変わろうとする……。

 

1983年といえば、E.T.スターウォーズジェダイの復讐、フラッシュダンスランボーなど  80年代には入り割と映像も綺麗な映画が多くなってきた時代

しかしエレンディラはいい意味で80年代を感じさせず、古い時代の土埃が舞う辺境の砂漠の雰囲気がよく出ていい感じだった。

もちろんVHSの画質の粗さも多大にある…

 

◉配役が何より最高、エレンディラの無垢な美しさと 恐ろしい祖母はイメージを崩さず とても良い。

 

正直あまり知らない俳優だから良かったと思う。

 

◉ガルシア マルケスが脚色しているので ストーリーの中にうまく他の短編のエッセンスを

組み込んである。

 

☆「愛の彼方の変わることなき死」の金の貞操帯の部分と

☆「大きな翼のある、ひどく年取った男」

の蜘蛛女の部分

 

☆「奇跡の行商人、善人のブラカマン」

ブラカマンが行商をしている場面

など他にも小ネタとして入ってる部分は幾つかあると思う。

エレンディラの短編集を読んでいたので楽しめた。

 

◉残念だった所

ウリセスが祖母にとどめをさすシーンがスローモーションでなんか 安っぽいホラー感

が過ぎて ちょっとガッカリ

それ以外はおおむね好感触

最後まで面白く観れた。

 

原作の良さを超えるのは難しいが

雰囲気を映像でうまく表現してあり

とても良かった。

VHSだと字幕がボケて見えない所が多いので

やはりDVD化を求む。

 

 

 

 

【百年の孤独】感想1 ガルシア マルケス

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文句なしの名作 自分のオールタイムベストの中には必ず入る 一作

 

◉ストーリー

ホセ アルカディオ ブエンディア とウルスラ

の夫妻が作り上げた町 マコンド 

その町とブエンディア一族の隆盛と 滅亡 の100年を 描いたストーリー。

 

◉序章

フランシスドレイクがリオアチャを襲撃した時 そこに住んでいたウルスラの曽祖父は山奥の集落に逃げる事にした。

そこにはドン ホセ アルカディオ ブエンディアという人物が住んでいた。

ウルスラの曽祖父とドンホセは一緒に組んで商売をし大きな財産を築く

時は過ぎ その玄孫にあたるウルスラとホセアルカディオ ブエンディア が結婚しようとする。 二人はいとこ同士。 しかしこの結婚は反対される 二人の叔父と叔母が近親婚をして生まれた子供が お尻に軟骨が大きく飛び出した(豚のしっぽ)子供だった。

それを聞いて恐れたウルスラは結婚はするが

性交渉を拒む その事を 村人にからかわれた 

ホセアルカディオは その村人を殺してしまう。 すると毎夜その死んだ村人がめのまえに現れ惑わされ 罪悪感も感じ 二人は その村を後にする。

そして自分達の見つけた土地にマコンドという名前をつけ そこで生活を始める。

 

その土地で3人の子供を作る 

 

ホセアルカディオ、アウレリャノ、アマランタ、の三兄妹  町を発展させてきたホセアルカディオ(父)は、ジプシーの錬金術師 メルキアデスに影響を受け いろんな研究を始め それに没頭し家から出なくなる。

そのうち発狂するようになり 村人20人に抑え込まれ栗の木の下にくくりつけられる事になる。

◉第二世代

★ホセアルカディオ

ジプシーとともに 一度町を出て行き 時を得てからまた町に戻ってくる タトゥーだらけで酒飲みの自堕落な男になっていた レベーカと結婚する そして自宅で謎の死を遂げる(レベーカが撃ち殺したのかも?)

★アマランタ

自分の意中の男を手に入れそうになりながら自分から何もない事にしてしまい、その相手は自殺する。そのあともいい人がいながら自分から遠ざける。そして引きこもり、のちに死んでしまう。

★アウレリャノ

村のものを引き連れ、自由党の大佐として 共和党と戦争を起こす。

37回の反乱を起こしその都度 敗北した。

戦争は終わりに近づき大佐は捕らえられ 死刑執行のため マコンドに戻ってくる。

死刑の当日ホセアルカディオに救われる

そこからまた新しい戦争に向かう。

しかし戦争に意味を見出せなくなり和平の調停を結ぶ事に そしてピストル自殺を図るが 

生き延びてしまう。その後は引きこもり 金細工の魚を延々と作り続け 最後は老衰で

父親の栗の木の下で 死亡。

★アルカディオ (ホセアルカディオ息子)

アウレリャノに戦争の際にマコンドを任せたと言われ 自分勝手に村を統率し不正を働き自分の家を建てるなどの横暴をはたらく。

ウルスラにもみはなされ自由党の敗北時に

死刑にされ死亡。

サンタ ソフィア デ ラ ピエダとの間に子供を作りそれが 第3世代になる

◉第3世代

★ホセ アルカディオ セグンド

闘鶏などに打ち込み自由に暮らす そのうち

労働組合を作り バナナ会社にたいして デモをして回っていた 大規模なストが始まり

バナナ会社はダメになっていく。

駅前の大きなデモ 目の前には軍隊がいる。

この場を去れとの命令に背いたデモ隊に向けて14箇所の機関銃が火を吹く 三千人の死者を出す 大事件に。死体を乗せた二百両の列車がうみに向けて走っていく 生き延びたホセアルカディオセグンド 誰にこの話をしても誰も信じない。バナナ会社もなくなり

虐殺も全てない事になっている。

身を隠すために 家にこもり メルキアデスの書の解明に没頭し その知識を最後のアウレリャノ バビロニア に教え込む。

★アウレリャノセグンド

フェルナンダと結婚するが 不倫相手の ペトラの家に入り浸る。ペトラと関係をもつと家畜が増え 商売が繁盛しお金に困ることがない そのため お金を使いまくり パーティーざんまいの生活。 デモの後 バナナ会社がなくなったあと四年一ヶ月と2日雨が降り続く 家畜も育たなくなり生活に困窮し マコンド自体もどんどん衰退していく。 そしてアルカディオが死んだ時 アウレリャノも喉の痛みで同時期に死ぬ。

 

★小町娘 レメディオス

絶世の美女だが白痴 彼女にアプローチする男はもれなく死に至る

ある日突然  畳もうとしたシーツと共に空に飛ばされてしまい その後はわからない。

 

四年の雨は止むが 10年の干ばつが始まる

マコンドは廃墟になり 衰退していく。

 

第四世代

 

★ホセアルカディオ 

法王の修行のため 若い頃ローマに行く。フェルナンダの死後にマコンドに戻る ウルスラが遠い昔に隠した金の入った袋をたまたま見つけお金には困らなくなったが それを同じく知っていた子供達に殺され 金も奪われてしまう。

★メメ (レナータ レメディオス

フェルナンダに厳しく育てられるが バビロニアという若い男に夢中になってしまい隠れて 密会していた それを知ったフェルナンダに殺されるように仕向けられ バビロニアは死んでしまう。その罰で メメは修道院に送られ そこで アウレリャノ バビロニアを出産。

★アマランタ ウルスラ

若い頃 勉強のため ブリュセルに、フェルナンダの死後 夫のガストンと共に マコンドに戻ってくる。しかしアウレリャノ バビロニアの猛烈なアプローチにより 関係を持ち 二人はこれ以上にない 深い愛欲に溺れる。

アウレリャノとの間に子供ができ 出産と共に出血が止まらず 死亡。

★アウレリャノ(バビロニア

メメがフェルナンダに反対されていたバビロニアとの間に作った子供 そのため 出生を偽り、川から拾ってきた子供として 育てられる。アウレリャノはホセ アルカディオ セグンドが研究するメルキアデスの書物に関する知識を受け継ぎ ほとんどメルキアデスの部屋から出ない生活を送って育つそのため膨大な知識がつき 少しずつ メルキアデスの羊皮紙の解明に近づく。

アマランタが帰ってきた頃少しずつ 外の生活と関わりを持つようになり アマランタに抑えきれない思いを抱くようになる そして

子供を作る。

子供が生まれたが アマランタの死のショックで そのまま外出してしまう。しばらくして 子供を置いてきた事に気付き急いで帰る

すると死んだ子供が蟻の大群によって運ばれていた。その時 

“驚きのあまり体がすくんだというのではなかった。その素晴らしい一瞬に、メルキアデスの遺した最後の鍵が明らかになり、人間たちの時間と空間にぴたりとはめ込まれた羊皮紙の題辞が眼前に浮かんだからだった。

 

〈この一族の最初の者は樹につながれ、最後の者は蟻のむさぼるところとなる〉

 

 

そしてアウレリャノは羊皮紙には自分の運命が記されているのを知り 読み進める。

全てが書いてあり 

“フランシス・ドレイクがリオアチャを襲撃したのは、結局いりくんだ血筋の迷路のなかでふたりがたがいを探りあて、家系を絶やす運命をになう怪物を産むためだったと悟った"。

 

 

読み進める最中 家は崩れてゆき 最後の行に達するまでもなくこの部屋から出れない事を悟ったそして 百年の孤独を運命付けられた家系は二度と地上に現れず人間の記憶から消えていく事を知る。

 

忘れないように あらすじ的に追ったが

長くなりすぎたので 細かい感想は 次に

 

 

 

【無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語】ガルシア マルケス 感想

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【無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語 】    ガルシア マルケス  感想

 

◉コロンビアのノーベル文学賞作家 ガルシア マルケスの中編小説

☆ ストーリー

厳しい祖母と屋敷に住む純粋無垢なエレンディラ。祖母の厳しいしつけと家事で、エレンディラはいつもクタクタ。立ったまま寝る事が普通にできるくらい疲れている。そんな中疲れ果て燭台を倒してしまい、住んでいた屋敷は燃え尽き何も無くなってしまう。

これに腹を立てた祖母は、エレンディラにこの罪を償わせる事にする。エレンディラに体を売らせて百万ペソ以上の損害を取り返すと息巻く。祖母には逆らわないエレンディラは、言われるがままにテントの中で、体を毎日の様に売り続ける テントには行列ができるまでになってしまう。途中ウリセスという若い純朴な少年と出会う、 恋仲になるがエレンディラはテントに人が集まらなくなれば、また土地を移動して歩くので、そのうちウリセスとは会えなくなる。

程なくして未成年に体を売らせているとは何事か、と修道僧に目をつけられる。エレンディラは修道僧に連れ去られ祖母と離れ、修道院にかくまわれる。体を売り続ける毎日から離れたそこでの生活にエレンディラは「わたし、しあわせだわ」 と自然と口にするようになる。

しかし祖母がいろいろと手を尽くしエレンディラに会いに行くと、結局また祖母と一緒に暮らす事を自ら選ぶ。

また体を売る過酷な日々に逆戻り。

いつかの少年ウリセスは、エレンディラをあきらめきれず、居場所を探し当てる。

エレンディラはウリセスに、祖母を殺す勇気があるかとサラッと言い放つ、私は家族だから無理だけどと付け加えて。

ウリセスは「君のためならなんでもやるよ」と 行動に移す。まずはケーキに毒を混ぜる、しかし祖母には全く効かない。エレンディラは「あんたは満足に人も殺せないのね」とウリセスに冷たく言い放つ。

次は家の中のピアノに爆弾を仕込む、しかし大爆発は起こらず祖母はピンピン。

ついにウリセスは肉包丁を持ち、祖母を切り殺す。その時、祖母から吹き出したのは緑色の血だった。

 

祖母の着ていた、 金の延べ棒のチョッキを手にして、エレンディラは走り出す。ウリセスが必死に呼びかけるが、まったく聞こえていない。

返事もせず 延々と走り去っていく。

 

◉感想

 

少女の成長譚であろう。

一見、残酷な祖母に束縛されているようにも見えるが、エレンディラ自身も祖母から離れようとしない。そこには親ばなれしたいのにできない、少女の姿が透けて見える。

そして少女は成長し自分の力でその殻を打ち破り、未来へ進んでいく。

その後の消息はわからないが、彼女の不運の証となるものは何ひとつ残っていない。

 

◉最初から最後までとにかく面白い。

この中編の物語りでエレンディラというヒロインがとにかく輝いている。

 

 

⭕️ラストが最高なのでメモ

 

彼女は、風に逆らいながら鹿よりも速く駆けていた。この世の者のいかなる声にも彼女を引きとめる力はなかった。彼女は後ろを振り向かずに、熱気の立ちのぼる塩湖や滑石の火口、眠っているような水上の集落などを駆け抜けていった。やがて自然の知恵に満ちあふれた海は尽きて、砂漠が始まった。それでも金の延べ棒のチョッキを抱いた彼女は、荒れくるう風や永遠に変わらない落日の彼方をめざして走りつづけた。その後の消息は杳としてわからない。彼女の不運の証しとなるものもなにひとつ残っていない。

 

 

 

エレンディラの過酷な人生からのこの走り出すラストの描写で  大きなカタルシスを得る

心に残り続ける とても素晴らしい作品だった。