【騎士団長殺し】村上春樹 感想

面白かった。

ねじまき鳥クロニクルがよりシンプルにスリムになった印象。
何かを失ってしまった画家の男(幼い頃妹を病気で無くしていて最近妻に離婚を突きつけられた)が「騎士団長殺し」という不思議な絵を見つけたことから始まる。夜中に鈴の音が聞こえる祠を掘り返し深い穴を見つけ、不思議な白髪の紳士、無愛想な13歳の少女との出会い、イデアの登場からメタファーと“顔なが”の存在 、過去に起こったウィーンでのナチス高官暗殺事件。
そして暗闇の中に引き込まれていきながらも、本来の自分を取り戻していくという 村上春樹おなじみのテーマながらも最後まで面白く読めた。
もともとねじまき鳥が村上作品の中でも好きだったのでアップデート版のようなこの作品はとても面白く読め、あっという間に読み終えた。

ラストの方で、主人公はこの一連の不思議な出来事をついこの間のように思っているが、少女は成長が早くその事をかなり前にあった出来事のように思っており、もうあまり気にしてはいないという対比が面白かった。

村上春樹の2000年以降の作品では短編含め現作品が一番面白かった。村上春樹は好きな作家だったが少し丸くなって来て楽しめなくなって来たなと思って来ていた所で、良い意味でこちらの予想を裏切られた。「女のいない男たち」からこの作品の流れは村上春樹健在を力強く感じさせられた。

しかし村上作品に限ったことではないが デビューして3、4作目辺りの力加減っていうのが面白い作品が多いと思う。
ある意味でねじまき鳥(ねじまきは5作目だが)の少し読みづらいような部分も今思えばそれが魅力だったなぁと思う。



⭕️イデアのありがたいお言葉



「歴史の中には、そのまま暗闇の中に置いておった方がよろしいこともうんとある。正しい知識が人を豊かにするとは限らんぜ。客観が主観を凌駕するとは限らんぜ。事実が妄想を吹き消すとは限らんぜ」

「絵に語らせておけばよろしいじゃないか」と騎士団長は静かな声で言った。「もしその絵が何かを語りたがっておるのであれば、 絵にそのまま語らせておけばよろしい。隠喩は隠喩のままに、暗号は暗号のままに、ザルはザルのままにしておけばよろしい。 それで何の不都合があるだろうか?」