【子犬たち】マリオ バルガス リョサ 感想

1


その年はまだ、みんな半ズボンをはいていて、ぼくたちはタバコも吸わず、サッカーが何より好きで、波乗りの練習も始めたばかり、やっと〈テラサス・ クラブ〉 の飛込み台の二番目の板から飛び込めるようになり、腕白で、つるつるした肌をし、好奇心が強くて、ひどくすばしっこく、がつがつしていた。 クエリャルはその年、 シャンパニャ校に入学したのだった。

ある朝父親の手に引かれ彼(クエリャル)があらわれた。教室の間の僕らの間の席になった。
僕らとはチョート、チンゴロ、マニューコ、ラロの友達四人組。
クエリャルはガリ勉で最初クラスで5番目の成績をとった次の週は3番で次の週からあの事故までずっと首席を通した勉強を怠け成績が落ちたのはあの事があってからだった。
クエリャルは仲間としていい奴だった、テストの時は答えをそっと教えてくれるし、飴やキャラメルをおごってくれた、僕ら四人を合わせたよりたくさんの小遣いをもらっていた。
僕らはクエリャルをサッカーに誘うが父親に止められているからと先に帰ってしまう。しかし僕らは彼をチームに入れてあげたいと思っている。しかし物事を諦めないクエリャルはチームに入りたい一心でその夏、猛練習し翌年にはチームのセンターフォワードのポジションを獲得した。
ある日の練習後クエリャルがシャワーを浴びていると学校の檻で飼っているデーン種の犬のユダがシャワー室に現れ吠えていた。クエリャルの泣き声、悲鳴、咆哮、飛びかかる、音ぶつかる音、すべる音、そしてその後には犬の吠え声だけになり先生たちが駆けつけ、こいつは酷いと絶望の声を上げた。素っ裸のクエリャルは血まみれでトラックに乗せられ猛スピードで病院に運ばれた。その後先生はユダを追い詰め殺すかのように鞭を振るっていた。
学校では毎日クエリャルの回復が祈られた、しかし生徒同士でその話をしていると先生に殴られた。
授業を終えてお見舞いに行くと、顔も両手もどうもなっていなかった。クエリャルにどこを噛まれたのか聞く、ちんこかい?と聞くとそうだよと顔を赤らめていった、するとクエリャルのお母さんたちが部屋に入ってきてこの事は秘密にしてほしいらしく僕らは早々に帰された。
明日から始まるサッカーの試合に出れなくて可哀想にと僕らは思った。
2
ようやくクエリャルは学校に出てきてこれまで以上にスポーツに熱中した。それに引きかえ勉強にはちっとも身を入れなくなってしまった。
それもそのはずあの事件以来、クエリャルについてはどんなに低い点数を取ってもどんなに酷い宿題を提出しても全てパスという具合だった。その理由はクエリャルの父親が学校にうちの息子になんという事をしてくれたんだと怒鳴り込んだかららしい。それ以降デーン犬のユダがいなくなり白ウサギが4匹檻の中に入れられていた。
クエリャルを甘やかすようになったのは先生たちだけではなく彼の両親も同じだったサッカーをやっても怒らずむしろどっちが勝ったんだと聞いてくるようになり、欲しいものはなんでも買ってくれるし好きなようにさせてくれていた。
彼が〈ちんこ〉と呼ばれ始めたのは、事故後間もない頃だった。最初の頃クエリャルは泣いて先生に言いつけた、そして父親に言われた通り黙って言われるな、相手の鼻面をへし折れとの教え通り、言われた者には所構わず殴りかかった、しかし彼が嫌がるほどみんな面白がってちょっかいを出した。次第に街でも知られるようになりいたるところで〈ちんこ〉と呼ばれた。
たまに僕らも間違って〈ちんこ〉と言ってしまう事があると、クエリャルは僕がいないときにはみんなで行っているんだろうと、ものすごく怒った。
6年生の頃には彼も諦めあだ名にも馴染んでいき呼ばれても知らんぷりをするか時には冗談を言ったりするようになった。中等部の一年になると、クエリャルと呼ばれるとかえってからかわれているんじゃないかと思った。新しい友達には、初めまして僕〈ちんこ〉のクエリャルよろしく、と言って手を差し出すようにさえなった。
もちろんこれは男同士の事で女の子相手では話がまた違った。というのもその頃になるとみんなスポーツの他に女の子にも関心が出てきたから誰と誰がキスをしていたとかそのような事が話題の中心になるようになった。みんなで女の子を見てどの子がいいとかで騒ぎあったりしたそして僕らは前ほどサッカーをやらなくなっていた。
みんなで女の子とのパーティの為にダンスを練習し、タバコを吸う事を覚えた。
以前は世界で一番好きな事はスポーツと映画でサッカーの試合のためならどんな犠牲もいとわなかったものだが今やいちばんの感心事は、女の子とダンスに変わり何を差し置いても逃さない事は、土曜日に行われるパーティだった。パーティに行く前には酒場により一杯飲んでからだった。男なら一気に飲みほさなくちゃな僕みたいになと、〈ちんこ〉は言った。
みんな長ズボンを履くようになり髪の毛はポマードで梳かしつけ体もぐんと大きくなった。特にクエリャルは五人の中で一番チビてひ弱だったのが一番のっぽで力も強くなっていた〈ちんこ〉くんターザンになったな、1日1日いい体になっていくみたいだぜと僕らは言った。
3最初にガールフレンドが出来たラロは喜んでみんなに報告するとクエリャルはイライラし、酒を飲みへべれけになりラロに絡んだ。もう自分達とは付き合わず彼女とだけになるんだろうと怒っていた、酔いすぎているのでみんなでクエリャルの家に送って行った。クエリャルは翌日ラロに酔っ払って絡んでごめんよと謝り、ラロもそれを許した。
しかし何かあったのは事実だった。クエリャルがみんなの注意を引こうと突飛な行動に出るようになったのだ。僕らは彼に逆らわないように盛んに機嫌をとった。
車で無茶な運転をしたり喰い逃げをして見せたり散弾銃で家の窓ガラスを吹き飛ばした。ラロに当てつけているんだ彼女が出来た件を忘れずによほど憎んでいるんだなと僕たちは言い合った。
四年生の時、チョートとマニューコにも彼女が出来た。クエリャルは一ヶ月間家に閉じこもり学校でも挨拶しなかった。
けれどだんだんと諦めグループに戻ってくると嫉妬と苛立った感じで、彼女とは楽しんだのか?口でか?手か?スカートに手は入れたか?指は入れたのか?と嫌がらせの様にずっと聞いてきた。怒ったラロが喧嘩をした。みんなで仲直りさせたが日曜日事に同じ事の繰り返しが続いた。たっぷり楽しんだかい?さあ話せよ。
5年生の時チンゴロにも彼女が出来た。クエリャルは黙って隅の椅子に座り寂しげに酒をあおっていた。突然立ち上がり疲れたからと帰ってしまった。僕たちは協力してクエリャルに彼女を作ってやろうと考えた、あいつがいなけりゃ寂しいしあいつの事が好きだからとクエリャルの為に乾杯した。
それからクエリャルは日曜日や祝日は一人で出かけ夜の間だけみんなで合流した。日曜日はどうだった?僕は楽しかったぜでも君たちは最高に楽しかったんだろう?
しかし夏には怒りも収まり両親からプレゼントにもらった車で海に出かけた、僕らのガールフレンドとも仲良くなると女の子達はクエリャルはなんで好きな子に告白しないのかと聞き彼をおおいに悩ませたが結構仲良くやっていた。
女の子達はクエリャルの事を好きな子を知っているから告白しろと話すが自由な方がいいとはぐらかす。私たちのパーティにもなんで来ないの前はどのパーティにも顔を出して派手に騒いでダンスだってあんなに上手だったのに一体どうしたの?と問い詰める。ちゃんとした家の子は苦手ですれっからしの子じゃないとダメなのかと言うと突然クエリャルは口ごもり試験があって時間が無いと言い出す。そこで僕たちが助け舟を出し、彼には彼の計画や秘密があるんだ放っておけよいくら説得しても無駄だと言った。さあ急げ 海岸までフォードを飛ばしてくれよ。4組のカップルが砂の上で甲羅干しをしている間、クエリャルは波乗りが達者な事を披露した。女の子達はあんなに波乗りも上手で感じもいいしハンサムなのにどうしてガールフレンドがいないのかと不思議がった。みんなは目配せしラロがニヤリと笑うと、女の子は何かあるなら教えてくれというが何も無いと僕らは言った。
今は女の子達も知らないけどそのうちわかってしまうとチンゴロは言った。他人の目をそらすためにも彼女でも作れば良いのに作らないのだからばれた時も自分のせいだと言った。
日が経つにつれてクエリャルは女の子達に無愛想になり避ける様になった。
クエリャルはマニューコの彼女の誕生日パーティに一連のねずみ花火を窓から投げ込んでぶち壊しマニューコと殴り合いの喧嘩をした〈ちんこ〉がマニューコをノックアウトした。
一週間かかって二人を仲直りさせた。クリスマスのミサにへべれけになって現れ、ラロとチョートが外へ連れ出すと離せとわめきリボルバーで人を撃つと言い出す、ある日曜日には競馬場の芝地に車を乗り入れ逃げ回る人々を車で追い回した。
カーニバルでは女の子は彼から逃げ回った。嫌な匂いのするものを投げつけたり、泥やインクくつずみなどを塗りつけたりするからで野蛮人人でなし、けだものと毛嫌いされた。あるいは杖を片手にアベックの足をすくって床に転ばせたりもした、殴り合いになり彼は殴られ僕たちも加勢する事もあったがちっとも懲りなかった。こんなとをしているといつかは殺されてしまうぜ。
正気の沙汰とは思えない行いで悪い評判が立ってしまい女の子達はもうクエリャルと一緒は嫌だと言っていた、僕たちが忠告しても時には寂しそうに反省するが険しい表情で、お高くとまっている連中に言われても構わないと言った。

卒業パーティ
礼服着用オーケストラが2組入ってカントリークラブで行われた。クエリャルはただ一人欠席した。僕たちがクエリャルに女の子はを探すからどうしても来いというがクエリャルは断った。その代わりその後に仲間で集まろうと言った女の子を家に送り届けその後飲みに行く約束をした。
4
翌年、チンゴロとマニューコが工学部の一年、ラロが医進課程に入りチョートがワイズ商会で働き始めラロのガールフレンドがチンゴロのガールフレンドになり、チンゴロのガールフレンドがラロのガールフレンドになった頃、街にテレシータ・アラルテがやって来た。クエリャルは彼女にあって少なくとも一時は変わった。乱暴したり皺くちゃの洋服で出歩くのもやめた。スーツを着てネクタイを締めてプレスリー風に仕上げた髪の毛にピカピカの靴を履いた。テレシータが好きなのか?と尋ねると、そうかもしれない。
子供の頃と同じくらいに付き合いが良くなり日曜日のミサにも訪れる様になった。ミサが終わるとテレシータに声をかけデートをしたスケートしたりボウリングしたりと楽しそうだった。
好きな子もできたのでクエリャルは手術を受けにニューヨークに行くかもと言ったが手術は難しくて出来ないと手紙が届いた。僕たちは、クエリャルはもう諦めていたのに好きな子が出来て焦っているクエリャルがかわいそうだと思った。クエリャルは諦めきれずドイツやパリでは無理なのか父親に何回も確認した。
そうこうしている間にもまたパーティにも出席する様になり、悪い評判を綺麗に洗い流すかの様に模範青年として振舞った。テレシータが近くに現れると秀才の振りをして彼女を攻めおとそうとしていた。外交官に将来なるんだとテレシータに言うとまあ素敵と彼女は喜んだ。
しかし周りの女の子達は不思議に思った、二ヶ月経っても何の進展も無いのだ、女の子達はテレシータがOKなのを知っていたし彼女はいつ言ってくれるのかと待っていた。
ある日ラロが何とかしてやろうと動いた。テレシータに気持ちがあるかどうか確かめに行った。しかし彼女の方が一枚上でそんな話は知らないと言う、クエリャルはテレシータに好きだと言っているだろうと聞くと、彼は何も言わないと言う、追いかけ回してるとしても友達としてだろうとテレシータは言った。僕らは告白されたらOKするだろうと聞くと、わからない彼のことは好きだけど友達として
でも何であんなアダ名が付いているの?と不思議がった。
クエリャルは決心がつかず相変わらずだったある日クエリャルを誘って車で海岸まで行ってバーに入った。
ラロはテレシータに熱くなっているんだろうと聞く、彼は体を震わせ寂しげに笑い聞き取れない様な声で、う、うん どうしたらいいかわからない、と言った。愛していると気持ちを打ち明ければいいとラロ、そうじゃないんだ イエスというかもしれないさでもそしたらそのあとはどうしたらいいんだい?後のことは後のことさ今は言ってしまえばそれでいいのさ、とラロ。もしかしたらそのうち治せるかもしれないじゃないかとチョート。もしテレシータがあの話を知っていたらとクエリャル。僕達がもう白状させたんだけどテレシータも君に熱くなっているのさ。僕に熱くなっているのかい?
打ち明ける決心をしたクエリャル。でもそうなったらどうしたらいいんだい?手を握って、キスをして、撫でてあげればいいんだ。それから?とクエリャルみんなは大きくなったら彼女と結婚するのかとクエリャル。そんなこと今から考えられないいつか追っ払ってしまえば良いのさ、とラロ。クエリャルは彼女を愛しているからそれは出来ないと言った。しかしビールが10本目になった頃、君たちの言うことはもっともだ彼女に打ち明けてしばらく付き合って追い払うことにする。それが一番いい方法さ。
しかし、一週間、二週間と過ぎていき、決心がつかず見たことも無いほど苦しんでいた。こうしているうちに危機症状が始まった。難癖をつけて誰かれ構わず喧嘩を売り、涙をこぼして明日告白するか、しなければ自殺すると言ったり、ぐでんぐでんになるまで飲み、誰でもいいから殺してやりたいと言った。僕たちは彼に付き合い家まで送り届けしっかりしろいい加減に彼女に言えよと励ました。あんな風では気が変になってしまうのが落ちだ。
冬が終わり再び夏がやって来ると、街に建築を勉強していて高級車を乗り回す若者が現れ僕らのグループに近づいて来た。カチートという若い男だった。最初はみんな嫌がったがテレシータは私の隣に座ってと誘った。僕たちはクエリャルに早くしないと取られるぞと言った、クエリャルは構わない好きなんてことは無いと言った。
1月末にカチートはテレシータにガールフレンドになってくれる様に申し込み彼女はOK。かわいそうな〈ちんこ〉何ということだろう僕たちは同情した。あの女よくも裏切ったなと僕らは言い合ったところが女の子達はこれでいいのよ悪いのはクエリャルの方だと言った。こんなに待たせてテレシータがかわいそう、カチートはハンサムで感じも良いそれに比べてクエリャルは臆病もので意気地なしだと言った。
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クエリャルはそれからまた無頼の生活が始まった。海に入ろうとする者なんて誰もいない日に10メートルもある波にのったのを見た。テレシータの彼に恥をかかせようとしてやったに違いない。

海が大荒れの日クエリャルが抜けてカチートが加わったメンバーで海にいると、クエリャルが車で現れた。こちらに近づいて来てこれから波にのるというがみんなはびっくりした。何てこと無いとクエリャルは海に向かいみんながハラハラと見守る中、大波にのった。こんな風にまた始まったのだ。
その年の半ばクエリャルはおじさんの工場で働き始めた、これでちゃんとした青年に戻るだろうと人々は噂したが結果は反対だった、夜は飲みあるき博打をしいかがわしい安飲み屋に通った。しかし土曜日はいつもみんなと一緒に過ごした。小話では〈ちんこ〉がいつもチャンピオンだった。食事が終わるとみんなで売春宿で楽しんだ。
そんな土曜日のある晩、僕らがホールに戻るとクエリャルがいなくなっていた、通りに出てみると車にもたれて泣いていた。


何があったんだい?何でもないよ、いやちょっと淋しい気持ちになっただけさ、と彼。人生いうことなしの坊主の頭だっていうのに、なんでまた?いろんなことでさ、とクエリャル。 たとえば、どんなことだい? とマニューコ、たとえば人間がこんなに神の怒りを買うってこととか、何だって? 何のことだい? とラロ、とても罪深いってことかい、とチョート、うん、 そうさ。 それに、ほんとにおかしいけど、たとえば、人生がこんなにつまらないものだということとか、と彼。 つまらないなんてことないじゃないか、いうことなしなのに、とチンゴロ、働いたり、酒を飲んだり、ばか騒ぎをしたり、毎日毎日、同じことの繰り返しで、気が付いたら年を取っていて、死んでしまう、ばかげているじゃないか、なあ、とクエリャル。 ナネットの所でそんなことを考えていたのか? 女たちの前でそんなことを? そうさ、それで泣いたりしたのか? うん、それに貧乏人や、盲人や、足の悪い人や、ウ二オン大通りで物乞いをして歩く乞食たちや、クロ二力紙を売り歩く新聞売り子だとか、ばかげてるだろ、な? サン・マルティン広場の靴磨きの連中なんかが気の毒になってさ、おかしいだろ? ばかげてるよ、ほんとに、でももう済んだんだろう? とぼくたち、そうとも。もう忘れたろう? もちろん。よし、その言葉を信じるために笑って見せろよ、ハハハ。飛ばそうぜ、〈ちんこ〉、 アクセルを一杯に踏んでさ、今、何時だい? ショウは何時に始まる? 知らないなあ、まだあのキューバ人の混血女が出ているかなあ? 名前は何ていったっけ? アナさ、仇名は? 雌わにさ、おい、〈ちんこ〉、もう大丈夫ってところを見せてくれよ、もう一度笑ってさ。ハハハ。
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マニューコとチンゴロが工学士になったその年ラロが恋人と結婚したときには、クエリャルは何度か事故を起こしていて車はボロボロだった。今に命を落とすと両親も心配していた。僕達ももうジャリと遊びまわる年じゃないと言った。というのもヤクザと賭け事をしたり飲み歩いたりする様になっていたから。
仕事もしているかわからず昼間から派手な格好で歩きジャリの一団をひきつれていろいろな所に出没した。みんながあいつと一緒にいるところを見られたくないと思いだした。
ある日公道を物凄いスピードでレースをして警察に捕まった。これで懲りるかと思ったが、二、三週間後には、手をハンドルに縛り付け、目隠しをしたまま死の横断をして最初の大きな事故を起こした。二回目はその三ヶ月後、ラロの独身送別会の晩のことだった。みんなを車に乗せてクエリャルはカーブで滑りたいと言って聞かなかった。僕らは付き合ってられないから降ろしてくれといったが聞かず、タクシーにぶつかり、ラロは無事だったがマニューコとチョートは顔を腫らしクエリャルは肋骨を3本折った。僕らは喧嘩別れしたがしばらくするとクエリャルから電話をかけてきて仲直りして一緒に食事にいったが、この時ばかりは僕達と彼の間に気まずいしこりが残って二度ともとの様にはなれなかった。
それ以降会うことも稀になってマニューコが結婚式の時には、通知は出したが招待状は送らずパーティにも姿を見せなかった。チンゴロが二人の子供を連れて合衆国から帰ってきた時にはクエリャルはもう山岳地帯に行ってしまっていた。山岳地帯でコーヒー栽培をするという話だった。たまたま通りで会っても挨拶もそこそこに、元気かい?まあまあさ、それじゃあな。

ミラフローレスに帰って来たって話だぞ、すっかりイカレちゃってさ、死んだそうだぜ、北部へ行くところだったって。何で? 衝突さ。どこで? ピサマヨの危険なカーブ続きの個所だってさ。かわいそうになあ、埋葬の席で僕らは話した、ずいぶん苦しんだ、つらい人生だったろうな、でも、この最期だけは自業自得だ。

その頃にはみんなすっかり一人前の大人になっていて女房も車もあり、 子供たちはシャンパニャ校やインマクラーダ学院、サンタ・ マリア学院などに通っており、アンコンやサンタ・ローサ、 スールの海岸などに別荘を建築中で、ようやく太り始め、白髪もちらほら、腹もせり出して、筋肉はたるみ、字を読むときには眼鏡を使い、食べたり飲んだりした後はどうも気分が悪く、肌にはそばかすや小皺も目につくようになっていた。



◉感想
あとがきから
クエリャルを語る声が多声的(ポリフォニック)になっていてクエリャルを複眼的に語ることができ物語に奥行きを感じる。
例えば四人いる仲間の“誰が”、とは言わず“僕達は”と引いた視点で語られる
個人感想
段落の終わりがセリフ調で終わることが多い。

物語の内容だけでは無く会話の書き方や文章の締め方などが単調ではなくテンポが良いのでとても読みやすい

序文と終わり方が素晴らしいのに外れなし

一人一人の心象を深く掘っているわけではないのだが思春期の悩みや葛藤が痛いほどに伝わってくるのはなかなかだと思う。すべての物事を書ききらなくてもとても深い物語に感じることができる所がとても面白いと思った。

リョサの小説観
〈内容と形式(あるいは、テーマと文体、物語の配列)を分けて考えるのは不自然であり、何かを説明したり、分析する場合をのぞいて、やるべきではありません。というのも、小説の中で語られている内容は、それが語られている語り口と分かちがたく結びついているからです〉

〈物語とは語られている言葉そのものなので
す〉

まさにその通りの作品でありリョサの面白さはこの説明で全てが納得できる。

深い傷を負い大人になりきれず悩める思春期の話なので何となくサリンジャーを思い出す。

ラテンアメリカ中編の中ではベストに入る。

かなり良い。