【無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語】ガルシア マルケス 感想

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【無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語 】    ガルシア マルケス  感想

 

◉コロンビアのノーベル文学賞作家 ガルシア マルケスの中編小説

☆ ストーリー

厳しい祖母と屋敷に住む純粋無垢なエレンディラ。祖母の厳しいしつけと家事で、エレンディラはいつもクタクタ。立ったまま寝る事が普通にできるくらい疲れている。そんな中疲れ果て燭台を倒してしまい、住んでいた屋敷は燃え尽き何も無くなってしまう。

これに腹を立てた祖母は、エレンディラにこの罪を償わせる事にする。エレンディラに体を売らせて百万ペソ以上の損害を取り返すと息巻く。祖母には逆らわないエレンディラは、言われるがままにテントの中で、体を毎日の様に売り続ける テントには行列ができるまでになってしまう。途中ウリセスという若い純朴な少年と出会う、 恋仲になるがエレンディラはテントに人が集まらなくなれば、また土地を移動して歩くので、そのうちウリセスとは会えなくなる。

程なくして未成年に体を売らせているとは何事か、と修道僧に目をつけられる。エレンディラは修道僧に連れ去られ祖母と離れ、修道院にかくまわれる。体を売り続ける毎日から離れたそこでの生活にエレンディラは「わたし、しあわせだわ」 と自然と口にするようになる。

しかし祖母がいろいろと手を尽くしエレンディラに会いに行くと、結局また祖母と一緒に暮らす事を自ら選ぶ。

また体を売る過酷な日々に逆戻り。

いつかの少年ウリセスは、エレンディラをあきらめきれず、居場所を探し当てる。

エレンディラはウリセスに、祖母を殺す勇気があるかとサラッと言い放つ、私は家族だから無理だけどと付け加えて。

ウリセスは「君のためならなんでもやるよ」と 行動に移す。まずはケーキに毒を混ぜる、しかし祖母には全く効かない。エレンディラは「あんたは満足に人も殺せないのね」とウリセスに冷たく言い放つ。

次は家の中のピアノに爆弾を仕込む、しかし大爆発は起こらず祖母はピンピン。

ついにウリセスは肉包丁を持ち、祖母を切り殺す。その時、祖母から吹き出したのは緑色の血だった。

 

祖母の着ていた、 金の延べ棒のチョッキを手にして、エレンディラは走り出す。ウリセスが必死に呼びかけるが、まったく聞こえていない。

返事もせず 延々と走り去っていく。

 

◉感想

 

少女の成長譚であろう。

一見、残酷な祖母に束縛されているようにも見えるが、エレンディラ自身も祖母から離れようとしない。そこには親ばなれしたいのにできない、少女の姿が透けて見える。

そして少女は成長し自分の力でその殻を打ち破り、未来へ進んでいく。

その後の消息はわからないが、彼女の不運の証となるものは何ひとつ残っていない。

 

◉最初から最後までとにかく面白い。

この中編の物語りでエレンディラというヒロインがとにかく輝いている。

 

 

⭕️ラストが最高なのでメモ

 

彼女は、風に逆らいながら鹿よりも速く駆けていた。この世の者のいかなる声にも彼女を引きとめる力はなかった。彼女は後ろを振り向かずに、熱気の立ちのぼる塩湖や滑石の火口、眠っているような水上の集落などを駆け抜けていった。やがて自然の知恵に満ちあふれた海は尽きて、砂漠が始まった。それでも金の延べ棒のチョッキを抱いた彼女は、荒れくるう風や永遠に変わらない落日の彼方をめざして走りつづけた。その後の消息は杳としてわからない。彼女の不運の証しとなるものもなにひとつ残っていない。

 

 

 

エレンディラの過酷な人生からのこの走り出すラストの描写で  大きなカタルシスを得る

心に残り続ける とても素晴らしい作品だった。