【ペドロ パラモ】ファン ルルフォ 感想その1

コマラにやってきたのは、ペドロパラモとかいうおれの親父がここに住んでいると聞いたからだ。おふくろがそれを教えてくれた。おふくろが死んだらきっと会いにいくと約束して、 そのしるしに両手を握りしめた。おふくろは息をひきとろうとしていた。
だから何でも約束してやりたい気持ちだった。「きっと会いに行っておくれよ」とおふくろはおれにすがるように言った。「父さんはこういう名前だよ。おまえに会えばきっと喜ぶよ」 するとおれは、 ああそうするよ、と言うよりほかはなかった。

だがその約束を果たす気は無かったがほんのついこの間、気が変わりペドロパラモという人間が期待となり会いに行くことに決めたコマラに来たのはその為なのだ。
八月の暑い中途中で会ったロバ追いにコマラの場所を聞き一緒に向かった、コマラには誰も来ないからお祭り騒ぎになるだろうとロバ追いは言った。何故コマラに来たか聞かれ親父に会いに来たと「親父さんの名前は?」「ペドロ パラモという名前しか知らないんだ」「なるほど」
しばらくしてロバ追いは言った、「俺もペドロ パラモの息子なんだ」
「ペドロ パラモはどんな人間だい?」「ありゃ憎しみそのものだ」と男は答えた。
ロバ追いは立ち止まって言った「ここから見える広大な土地は全てあの男のものだ俺たちはペドロ パラモの息子に違いないが産んでくれた母親連中はゴザの上っていう始末だ」
町に近づくと誰もいない聞いてみると本当に誰も住んでいないという、「じゃあペドロ パラモはどこにいるんだ?」「ペドロ パラモはとっくの昔に死んでいるのさ」
どの家もからの街を歩いているとショールをかぶった女を見かけた。幽霊かと思ったがちゃんと人間だった。「エドゥビヘスの奥さんの家はどこだい?」「あそこの橋のたもとの家だよ」

俺はコマラに残った。ロバ追いはそのまま行ってしまったがこう教えてくれた。「この先に俺の家がある、来るんなら歓迎するよ。ま 旦那がここに残るっていうならそれもいいだろうひょっとしたら誰か生きてる人間に会うかもしれないしな」「どこか泊まれる所はないかな?」「エドゥビヘスを探しな、まだ生きてたらの話だがね俺の紹介だって言えばいい」「それであんたの名前は?」「アブンディオ」姓の方は離れていて聞き取れなかった。

「エドゥビヘス ティアダだよ お入り」
俺が来るのを待っているようだった。「それであんたあの人の息子ってわけだね」「誰のだって?」「ドロリータスさ」「そうだが何で知っているんだい?」「あんたが来るってあの人が知らせてくれたのさ、それも今日来るってね」誰が知らせたんだって?俺のお袋だって?」「そうさ」「おふくろはとっくに死んじまったよ」「一人で寂しかっただろうよ、私達は大の仲良しだった私の事言ってなかったのかい?」「一度も」「私は何度も言ったわドロレスの子は私の子供になるはずだったんだって」
俺はこの女は気が狂ってるんじゃないかと思った。

便所の中でスサナの事を考えていた、母親がいつまでトイレに入ってるんだと注意する、おばあちゃんの所へ行ってトウモロコシ粒もぎの手伝いをしてこいと言われる。
手伝いに行くともう終わったからココア挽きをやってくれと言われたがココア挽きの機械が壊れていたから買いに行くことに、家から出る間際「ペドロ」と呼び止められるが彼には声は届かなかった、もうだいぶ遠くへ歩いていたのだ。

「そうなのさ私はもう少しであなたの母親になる所だったんだよ」「何も聞いてないよ、あんたの事を知ったのはアブンディオというロバ追いに教えてもらったからだ」「まだ私を覚えていたんだ客をうちに連れて来たらお金をあげていたんだ。でもいつの日か顔の近くで爆竹が爆発して耳が聞こえなくなりそれ以来あまり話もしなくなってしまったんだよ」「俺の言ってる男はちゃんと聞こえていたけどな」「じゃあ別人さアブンディオはもう死んでいるしね」「そうだろうな」
話に耳を傾けながら前の女を見た。顔は血の気がなく手はしなびていた、目は隠れて見えず首から聖母マリアのメダルがぶら下がり、罪人の避難所と書いた札がついていた。

「あんたに話そうとしてた話だけど ドロレスはペドロ パラモに夜家に来るように誘われていた日
有名な占い師に今日は月が荒れているから男には指一本触れさせてはならないと言われ 代わりにわたしにペドロ パラモの所へ行ってくれと頼んだんだ もちろん断ったが ドロレスはどうしてもというので渋々引き受けた でも本当はわたしもペドロ パラモのことを好きだったから本当は嬉しくて行ったんだ でもその日彼は前の日のどんちゃん騒ぎで疲れて一晩中いびきをかいて寝ていたよ 結局は何もなかった」「その次の年にドロレスとの子供ができたんだけど もしその日にわたしがしていたらあなたはわたしの子供だったのかもしれなかったんだよ」「きっとあなたの母さんは恥ずかしくてこの話をしたくなかったのかもしれないね」

あの人は結婚してペドロ パラモに受けたひどい扱いを恨んでいた。飲み物が冷めていれば怒鳴りつけたり夜明け前から食事の用意をさせられたりした。ある日耐えられなくなり姉さんの所に帰りたいと言うと遠慮しないでさっさと出て行けと言われ出て行きそれ以来戻ることはなかった。
いろんな目にあったよと俺は言った、ヘルトゥディスおばさんの所に厄介になったが何で亭主の元に戻らないのかとおふくろによく言っていたよ。その女は俺の話に耳を傾けていると思ったがふと見るとふと見ると遠くを見ていた。やがて口を開き「もう休んだら」

「どうかしたのか?エドゥビヘス」女は眠りから目を覚ましたように首を振った。「メディアルナを走るミゲルパラモの馬だよ」「メディアルナには誰か住んでいるのかい」「誰も住んじゃいないよ」「というと?」「馬が主人を探して行ったり来たりいつも走り回っているだけさ」「馬の走る音なんか聞こえない」「事の起こりはミゲルパラモだった、恋人に会いにコントラの街に行ったきり死んで戻ってこなかった、その時の馬が今も走っている、今も聞こえるだろう?」「何も聞こえないよ」
「さっきミゲルパラモが帰らなかったって言ったけどあの晩馬が通り過ぎたと思ったら部屋のドアを叩く音がして見に行くとミゲルパラモのだった、どうしたのと聞くとあの子に会いに行くと霧や煙が立ち込めてコントラの街がなかった、コマラの連中に話すと頭がおかしいと言われるからあんたに言いに来たと言った」「頭がおかしいんじゃなくて死んじまったんだよミゲル、あの馬はいつかあんたを殺すって言われてただろう」「俺はただ親父が作った石塀を飛び越えただけさ、どこまで行っても煙っててきりがないんだ」「あんたのお父さんは苦しむだろうねかわいそうだよ。さ ミゲルもうお行き安らかに眠っておくれお別れに来てくれてありがとうよ」
夜明け前にメディアルナから召使が来てこう言った「ペドロ様からのお願いでミゲルの若旦那が亡くなったので来て欲しいそうだ」ミゲルをかつぎ込んでだいぶたってるのかい?」30分とたってないこの事がわかったのはミゲル様の馬が一人で帰って来てそわそわしていたからだ」
メディアルナの使いは帰っていった
「あんた死のうめき声聞いたことあるかい?」
「いいや」「その方がいいのさ」

レンテリア神父はくるりと向き直りミサを終いにした「神父様あの人を祝福してやって下さい」「ダメだ あの男は悪人だった」ペドロパラモが近づいて来てそばにひざまずいた。
「せがれを憎んでいるのは承知していますあなたの弟殺しや姪ごさんに乱暴し神父さんにも何度も無礼をし憎まれても仕方のないことかもしれないだけどいまは忘れてもらえませんか、せがれを見捨てないで下さい」彼は一握りの金貨を置いて立ち去った「教会へのお布施です」
神父は祭壇に金貨を備えミゲルを地獄に落としてくれと祈った、それからうずくまり泣き続け終いにこう言った「わかりました主よあなたの勝ちだ」
家に帰り姪ごのアナに今日はミゲルの葬式だったと言うと「今はもう地獄のどん底にいるわね」神父はついわたしは許しを与えてやったのだと言う所だったが言わなかったこれ以上彼女を傷つけることはできなかったから、彼女の腕をとってこう言った「たくさんの悪さをしたあいつを連れて行ってくれた神様に感謝しよう、今天国にいるかもしれないがそれは問題じゃない」
レンテリア神父は眠れなかった、妹のエドゥビヘスを救ってくれと泣きついてきたマリアティアダの顔が頭から離れなかったのだ
「妹はいつも親切だった持ってるものは全部人にやった子供まで産んでやった優しい子だったからそれをいいことに男たちはそれを利用したんだ」「だが自分で命を絶ってしまった、神のみこころに背いたのだ、グレゴリオミサでもやればあるいはな、しかし金がかかる、このままにしておこう神のみこころにすがるしかない」「はい神父さま」どうして許してやらないのか天国や地獄について自分は何を知っているというのだ」

目がさめるとあたりはしんとしていた、扉が左右に開いた「エドゥビヘスかい?」「ちがうわダミアナよ、うちに泊まりにきなよ寝るところがあるから」「ダミアナ シスネロス?メディアルナに住んでいた?赤ん坊の時めんどうを見てくれたダミアナっていう人のことをおふくろに聞いた事がある」「そう私だよ、生まれた時からあんたを知ってるよ」「一緒に行くようるさくて寝れやしない」「ずいぶん昔トリビオ アドルテがここで縛り首にされたからさ、しかしここの扉を開ける鍵なんて無いのによく入れたね」「エドゥビヘスが開けたんだ」「エドゥビヘス ティアダ?」「ああ」「かわいそうなエドゥビヘスまだこの世をさまよっているんだね」

フルゴル セダノはトリビオ アドルテに対して訴訟を起こした「所有地の無断使用のかどで告訴します」二人はエドゥビヘスの酒場にいた、エドゥビヘスに奥の部屋を貸してくれと頼んだ「なあフルゴルさんよあんたの主人の大バカ野郎にはヘドが出るぜ」今でも覚えているがそれがあいつが口にした最後の言葉だった。

ペドロパラモの家のドアを叩いた、あまりにも
待たされたので帰ろうとした時ペドロパラモが現れた「入れよ、フルゴル」二人が会うのは2回目だった1回目はペドロパラモが生まれたばかりの時だったから知っているのはフルゴルだけだった。だから初めて会うのと同じだった。ところがどうだろう対等みたいな口をきくではないか。「座れよフルゴル」「立ってる方がいいのさペドロ」「好きなようにしろだけど〈さん〉をつけるのを忘れるな」奴の親父でさえ俺にそんな口は聞かなかった。
「あの事はうまくいっているのか」「ダメですな何も残っていない家畜も最後の一頭まで打っちまいましたからね」借金がどれくらいあるのか書類を見せてやろうと出し始めた時ペドロパラモの声にさえぎられた「額なんてどうでもいい知りたいのは誰に借金があるかって事だ」
「払う金なんぞありゃしないそれが問題です、あんたの家族が使い果たしたから」
「明日から一つずつ片付けていこうプレシアドの所から始めるぞ借りが一番多いといっていたな」「今は妹のドロレスが持ち主になってるあのエメディオって牧場だからそのドロレスに金を返さなきゃならない」「お前俺の代わりに明日ドロレスに結婚を申し込むんだ俺が首ったけで愛してると伝えてついでにレンテリア神父に式の用意を頼んでくれ」「座らねえか」「座りましょうペドロさんあんたが好きになってきましたよ」

あの小僧どこであんな抜け目のない手を覚えやがったんだろう亡くなったルカスの親父は使い物にならんといっていたのに。

ドロレスを口説き落とすのはわけなかった、目が輝き顔がほころんだ。急すぎるから八日間待ってくれと言われたが強引に明後日に約束して帰った。

ダミアナ シスネロスは俺にいった「ここへ来る途中お葬式の参列者の中から姉のシクスティーナが出てきた姉はあたしが12の時に死んだ一番上の姉だった、だから新しいこだまを聞いても驚いちゃいけないよファン プレシアド」「俺が来るのはおふくろから聞いたのかい」「ちがうよ、そういえば母さんは元気かい」「死んだよあんたにもわかってると思ってたけど」「どうしてわかるのさ」「じゃあどうして俺を探し当てたんだ」「……」「ダミアナあんたは生きてるのかい教えてくれダミアナ」突然自分だけがひっそりとした通りにたたずんでいた「ダミアナ」と俺は叫んだ。

男が横切った「すまないが」と声をかけた「すまないが」と自分の声が帰ってきた。
俺は引き返そうと思ったその時誰かが俺の肩に手をかけた「ここで何をしているんだい」父親を探しているんだ」「ま 入れよ」中に入る天井が半分落ちた家に1組の人男女がいた。
「あんたがた死んでるんじゃないだろうね」
女は微笑み男はじっと俺を見た。二人とも素っ裸だった、「呻きながら戸に頭を打ち付けているのが聞こえたから外に出たらあんたがいたんだ」「今は寝たいだけなんだ、ここで寝させてくれないか」

夜明けが少しずつ俺の記憶を消していった、それまで耳にしていた声には音がなかったことに気づいた夢で聞く言葉のように。
目が覚めた時真昼の太陽が輝いていた。「旦那はどこに行ったんだい」「兄さんなんだ、野生の子牛を探しに行ったよ」「ドロレス プレシアドを知らないか」「ドニスが知っているかもしれない」ドニスが帰ってきた「もといた所に帰りたいんだ、明るいうちに出かけるよ」「明日まで待ちなどの道も荒れてる明日俺が道を教えてやるよ」

夜になり男と女が出て行くと歳をとった女が部屋に入ってきて皮の箱を引っ張り出し探った後忍び足で出て行った男と女が帰ってきてそのことを話すとそうやって人の気を引こうとしている呪い師だと言われた。

男は子牛を狩りに出て行った「きっともう帰ってこないかもしれないみんなそうやって帰ってこなくなった、食べと物があるから食べなあんたのために都合してきたのさ姉さんがシーツと引き換えに持ってきてくれたんだよあんたを驚かしたのは姉さんだったんだよ」

聞こえるかいと小さな声で聞いてみた、するとおふくろの声が帰ってきた「どこにいるんだい」「母さんの町で母さんの知ってる連中と一緒だよ」「見えないね」

「ドニスは戻らないよ 誰か代わりの人が来たら出て行く機会をうかがっていたからね」

真夜中に息苦しくて目が覚めた女の体はぬかるみのなかに溶けるように崩れていくのだった、そのうち空気がなくなり苦しくなってきた、空気が欲しくて外に出たが暑苦しさは依然として体にまといついて離れなかった、というのも空気がどこにも無かったからだ気だるい淀んだ闇しかなかった。

吐いたり吸ったりしているうちに空気がだんだん薄れていった、とうとうかすかになった息まで指の間から漏れて永久になくなってしまった。泡立つ雲のようなものが頭上で渦巻くのを見た、やがてその泡に包まれてもやもやした物の中に溶け込んでいった、最後に見たのはそれだった。

「そんならファン プレシアドさんよ、お前さんは息が詰まって死んじまったっていうのかね、このわしがお前さんを見つけたのさそばにドニスがいて二人で引っ張ってきて埋めてやったのさ」「そういうことになるなドロテア、溶けていく女の家から出ると広場からざわめきが聞こえるから行ってみるとあたしたちのために神に祈ってくれよという声が聞こえた、それを聞いた時魂が凍ったそしてあんたたちは俺を見つけたのさ」「自分の土地を離れなきゃよかったのさ、なんでここに来たんだ」「ペドロパラモを探しに来たのさ」「もう怖がらなくていいよ楽しいことを考えるようにした方がいいずっとこの土の中にいなくちゃならんのだからね」

誰かが戸を叩いた フルゴル セダノだった ミゲルが殺されたと報告を受けた ペドロパラモは唖然としたが、明日馬を殺せ、それから泣いている女たちに俺のせがれくらいで大騒ぎするなと言ってくれとフルゴルに伝えた。

レンテリア神父はミゲルの死はペドロが親分風を吹かせ始めた時から始まっていたと思っていたミゲルの母がお産の時に亡くなり引き取るようにペドロの元に連れて行ったのは神父だったのだ。

墓の中で独り言を言う女の声が聞こえるのでドロテアに聞くとスサナという女でペドロパラモの最期の女房でペドロはスサナの事がとても好きだったらしい。

ペドロはスサナを手に入れたくていつも手紙を書いていたがスサナの父にいつも断られていたしかし世の中が物騒になるに連れてスサナの父はついに娘を連れてペドロの元に来ることになったペドロはこれを三十年も待っていて泣いて喜んだ。
スサナの父はペドロの家から鉱山まで働きに行きたいと行ったので鉱山に行っている時に始末する命令をフルゴルに伝えるスサナの父は殺され、スサナの元に幽霊として現れた。

どもりと呼ばれた男がメデイアルナにペドロパラモに会いたいとやって来た。
フルゴルが殺された、ペドロの土地をもらいに来たという革命家達に殺された

フルゴルの事はそんなに気にはならなかったいずれにしても棺桶に片足を突っ込んでいるのと変わりは無かったからだ、それよりスサナの事が気になった部屋に閉じこもり寝たきりで眠っているのか起きているのかすら分からなかった彼女がこの家に来てからずっとこうだった彼女を苦しめているのが何なのか知りたかった。

日が陰る頃革命家の男達が現れた、ペドロパラモは夕食を振る舞った後ろにはティルクアテが隠れて様子を伺っていた、金と三百人の人手を渡して協力しようとペドロは言うと約束を破ったらただじゃおかないと言い革命家達は喜んで帰って行った。
ティルクアテに金と人を預け奴らに合流しろと命令した「後はどうすればいいかお前にはわかってるだろう?」

墓の中のファン プレシアドは女の声を聞いた。
女はある日男の帰りが遅かった晩誰かが足を温めてくれていると思ったら朝足に新聞紙が巻かれていた。起きると人が来て男が死んだと知らせた。女の入っている棺が壊れる音が聞こえた。

ティルクアテはビヤ派の人間と渡り合ってやられたとの噂が、詳しい事は分からなかった。

ダマシオが戻って来るとビヤ派と揉めたが今は組んでいると言うしかし金がなくなったのでペドロパラモに借りに来たもう貸す金はないからコントラの街を襲えと言って返すと男達が一人残らずいなくなっているのに気がついた、後に残ったのは彼だけだった。

スサナは暗いのが怖いために三年間部屋の明かりを点けっぱなしにしていたが、明かりが消えていて死んだんじゃないかと町で噂になった。

レンテリア神父はスサナが死を迎え入れる準備が出来るようにスサナの元へ来ていた、自分のいう祈りをくり返させた。周りには臨終を見届ける者達がいた。

「わしはスサナの死ぬのを見たんだよ」
「今なんて行った?ドロテア」
「スサナが死ぬのを見たって言ったんだ」

明け方になって教会の大鐘がなった、三日間なり続きみんなの耳がおかしくなった。「スサナが死んだんだとさ」鐘に誘われて方々から人が集まり祭日と変わらない賑わいだった。

ティルクアテは相変わらずいろんな連中と手を組んで争いをしていた。

ロバ追いのアブンディオ マルティネスは妻が死にお金が必要なので酒場で酒をあおりふらふらの状態でペドロパラモの元へ向かった。死んだ女房を埋めたいから恵んでくれと言い ペドロパラモを刺し殺した。ペドロパラモは「これが俺の死だ」と呟いた「とにかく新たな夜が来なければいいと思った」

肩を叩かれたので、体を起こして、身構えた。
「あたしですよ、旦那さん」とダミアナが言った。「昼ごはんを持って来ましょうか?」
ペドロパラモは答えた。
「あっちへ行くさ。いま 行くよ」
ダミアナ・シスネロスの腕につかまって歩こうとしたが、 二、三歩進んだところで倒れた。心の中で何かを哀願するようだったが、ひと言もその口からは洩れてこなかった。乾いた音をたてて地面にぶつかると、石ころの山のように崩れていった。

【子犬たち】マリオ バルガス リョサ 感想

1


その年はまだ、みんな半ズボンをはいていて、ぼくたちはタバコも吸わず、サッカーが何より好きで、波乗りの練習も始めたばかり、やっと〈テラサス・ クラブ〉 の飛込み台の二番目の板から飛び込めるようになり、腕白で、つるつるした肌をし、好奇心が強くて、ひどくすばしっこく、がつがつしていた。 クエリャルはその年、 シャンパニャ校に入学したのだった。

ある朝父親の手に引かれ彼(クエリャル)があらわれた。教室の間の僕らの間の席になった。
僕らとはチョート、チンゴロ、マニューコ、ラロの友達四人組。
クエリャルはガリ勉で最初クラスで5番目の成績をとった次の週は3番で次の週からあの事故までずっと首席を通した勉強を怠け成績が落ちたのはあの事があってからだった。
クエリャルは仲間としていい奴だった、テストの時は答えをそっと教えてくれるし、飴やキャラメルをおごってくれた、僕ら四人を合わせたよりたくさんの小遣いをもらっていた。
僕らはクエリャルをサッカーに誘うが父親に止められているからと先に帰ってしまう。しかし僕らは彼をチームに入れてあげたいと思っている。しかし物事を諦めないクエリャルはチームに入りたい一心でその夏、猛練習し翌年にはチームのセンターフォワードのポジションを獲得した。
ある日の練習後クエリャルがシャワーを浴びていると学校の檻で飼っているデーン種の犬のユダがシャワー室に現れ吠えていた。クエリャルの泣き声、悲鳴、咆哮、飛びかかる、音ぶつかる音、すべる音、そしてその後には犬の吠え声だけになり先生たちが駆けつけ、こいつは酷いと絶望の声を上げた。素っ裸のクエリャルは血まみれでトラックに乗せられ猛スピードで病院に運ばれた。その後先生はユダを追い詰め殺すかのように鞭を振るっていた。
学校では毎日クエリャルの回復が祈られた、しかし生徒同士でその話をしていると先生に殴られた。
授業を終えてお見舞いに行くと、顔も両手もどうもなっていなかった。クエリャルにどこを噛まれたのか聞く、ちんこかい?と聞くとそうだよと顔を赤らめていった、するとクエリャルのお母さんたちが部屋に入ってきてこの事は秘密にしてほしいらしく僕らは早々に帰された。
明日から始まるサッカーの試合に出れなくて可哀想にと僕らは思った。
2
ようやくクエリャルは学校に出てきてこれまで以上にスポーツに熱中した。それに引きかえ勉強にはちっとも身を入れなくなってしまった。
それもそのはずあの事件以来、クエリャルについてはどんなに低い点数を取ってもどんなに酷い宿題を提出しても全てパスという具合だった。その理由はクエリャルの父親が学校にうちの息子になんという事をしてくれたんだと怒鳴り込んだかららしい。それ以降デーン犬のユダがいなくなり白ウサギが4匹檻の中に入れられていた。
クエリャルを甘やかすようになったのは先生たちだけではなく彼の両親も同じだったサッカーをやっても怒らずむしろどっちが勝ったんだと聞いてくるようになり、欲しいものはなんでも買ってくれるし好きなようにさせてくれていた。
彼が〈ちんこ〉と呼ばれ始めたのは、事故後間もない頃だった。最初の頃クエリャルは泣いて先生に言いつけた、そして父親に言われた通り黙って言われるな、相手の鼻面をへし折れとの教え通り、言われた者には所構わず殴りかかった、しかし彼が嫌がるほどみんな面白がってちょっかいを出した。次第に街でも知られるようになりいたるところで〈ちんこ〉と呼ばれた。
たまに僕らも間違って〈ちんこ〉と言ってしまう事があると、クエリャルは僕がいないときにはみんなで行っているんだろうと、ものすごく怒った。
6年生の頃には彼も諦めあだ名にも馴染んでいき呼ばれても知らんぷりをするか時には冗談を言ったりするようになった。中等部の一年になると、クエリャルと呼ばれるとかえってからかわれているんじゃないかと思った。新しい友達には、初めまして僕〈ちんこ〉のクエリャルよろしく、と言って手を差し出すようにさえなった。
もちろんこれは男同士の事で女の子相手では話がまた違った。というのもその頃になるとみんなスポーツの他に女の子にも関心が出てきたから誰と誰がキスをしていたとかそのような事が話題の中心になるようになった。みんなで女の子を見てどの子がいいとかで騒ぎあったりしたそして僕らは前ほどサッカーをやらなくなっていた。
みんなで女の子とのパーティの為にダンスを練習し、タバコを吸う事を覚えた。
以前は世界で一番好きな事はスポーツと映画でサッカーの試合のためならどんな犠牲もいとわなかったものだが今やいちばんの感心事は、女の子とダンスに変わり何を差し置いても逃さない事は、土曜日に行われるパーティだった。パーティに行く前には酒場により一杯飲んでからだった。男なら一気に飲みほさなくちゃな僕みたいになと、〈ちんこ〉は言った。
みんな長ズボンを履くようになり髪の毛はポマードで梳かしつけ体もぐんと大きくなった。特にクエリャルは五人の中で一番チビてひ弱だったのが一番のっぽで力も強くなっていた〈ちんこ〉くんターザンになったな、1日1日いい体になっていくみたいだぜと僕らは言った。
3最初にガールフレンドが出来たラロは喜んでみんなに報告するとクエリャルはイライラし、酒を飲みへべれけになりラロに絡んだ。もう自分達とは付き合わず彼女とだけになるんだろうと怒っていた、酔いすぎているのでみんなでクエリャルの家に送って行った。クエリャルは翌日ラロに酔っ払って絡んでごめんよと謝り、ラロもそれを許した。
しかし何かあったのは事実だった。クエリャルがみんなの注意を引こうと突飛な行動に出るようになったのだ。僕らは彼に逆らわないように盛んに機嫌をとった。
車で無茶な運転をしたり喰い逃げをして見せたり散弾銃で家の窓ガラスを吹き飛ばした。ラロに当てつけているんだ彼女が出来た件を忘れずによほど憎んでいるんだなと僕たちは言い合った。
四年生の時、チョートとマニューコにも彼女が出来た。クエリャルは一ヶ月間家に閉じこもり学校でも挨拶しなかった。
けれどだんだんと諦めグループに戻ってくると嫉妬と苛立った感じで、彼女とは楽しんだのか?口でか?手か?スカートに手は入れたか?指は入れたのか?と嫌がらせの様にずっと聞いてきた。怒ったラロが喧嘩をした。みんなで仲直りさせたが日曜日事に同じ事の繰り返しが続いた。たっぷり楽しんだかい?さあ話せよ。
5年生の時チンゴロにも彼女が出来た。クエリャルは黙って隅の椅子に座り寂しげに酒をあおっていた。突然立ち上がり疲れたからと帰ってしまった。僕たちは協力してクエリャルに彼女を作ってやろうと考えた、あいつがいなけりゃ寂しいしあいつの事が好きだからとクエリャルの為に乾杯した。
それからクエリャルは日曜日や祝日は一人で出かけ夜の間だけみんなで合流した。日曜日はどうだった?僕は楽しかったぜでも君たちは最高に楽しかったんだろう?
しかし夏には怒りも収まり両親からプレゼントにもらった車で海に出かけた、僕らのガールフレンドとも仲良くなると女の子達はクエリャルはなんで好きな子に告白しないのかと聞き彼をおおいに悩ませたが結構仲良くやっていた。
女の子達はクエリャルの事を好きな子を知っているから告白しろと話すが自由な方がいいとはぐらかす。私たちのパーティにもなんで来ないの前はどのパーティにも顔を出して派手に騒いでダンスだってあんなに上手だったのに一体どうしたの?と問い詰める。ちゃんとした家の子は苦手ですれっからしの子じゃないとダメなのかと言うと突然クエリャルは口ごもり試験があって時間が無いと言い出す。そこで僕たちが助け舟を出し、彼には彼の計画や秘密があるんだ放っておけよいくら説得しても無駄だと言った。さあ急げ 海岸までフォードを飛ばしてくれよ。4組のカップルが砂の上で甲羅干しをしている間、クエリャルは波乗りが達者な事を披露した。女の子達はあんなに波乗りも上手で感じもいいしハンサムなのにどうしてガールフレンドがいないのかと不思議がった。みんなは目配せしラロがニヤリと笑うと、女の子は何かあるなら教えてくれというが何も無いと僕らは言った。
今は女の子達も知らないけどそのうちわかってしまうとチンゴロは言った。他人の目をそらすためにも彼女でも作れば良いのに作らないのだからばれた時も自分のせいだと言った。
日が経つにつれてクエリャルは女の子達に無愛想になり避ける様になった。
クエリャルはマニューコの彼女の誕生日パーティに一連のねずみ花火を窓から投げ込んでぶち壊しマニューコと殴り合いの喧嘩をした〈ちんこ〉がマニューコをノックアウトした。
一週間かかって二人を仲直りさせた。クリスマスのミサにへべれけになって現れ、ラロとチョートが外へ連れ出すと離せとわめきリボルバーで人を撃つと言い出す、ある日曜日には競馬場の芝地に車を乗り入れ逃げ回る人々を車で追い回した。
カーニバルでは女の子は彼から逃げ回った。嫌な匂いのするものを投げつけたり、泥やインクくつずみなどを塗りつけたりするからで野蛮人人でなし、けだものと毛嫌いされた。あるいは杖を片手にアベックの足をすくって床に転ばせたりもした、殴り合いになり彼は殴られ僕たちも加勢する事もあったがちっとも懲りなかった。こんなとをしているといつかは殺されてしまうぜ。
正気の沙汰とは思えない行いで悪い評判が立ってしまい女の子達はもうクエリャルと一緒は嫌だと言っていた、僕たちが忠告しても時には寂しそうに反省するが険しい表情で、お高くとまっている連中に言われても構わないと言った。

卒業パーティ
礼服着用オーケストラが2組入ってカントリークラブで行われた。クエリャルはただ一人欠席した。僕たちがクエリャルに女の子はを探すからどうしても来いというがクエリャルは断った。その代わりその後に仲間で集まろうと言った女の子を家に送り届けその後飲みに行く約束をした。
4
翌年、チンゴロとマニューコが工学部の一年、ラロが医進課程に入りチョートがワイズ商会で働き始めラロのガールフレンドがチンゴロのガールフレンドになり、チンゴロのガールフレンドがラロのガールフレンドになった頃、街にテレシータ・アラルテがやって来た。クエリャルは彼女にあって少なくとも一時は変わった。乱暴したり皺くちゃの洋服で出歩くのもやめた。スーツを着てネクタイを締めてプレスリー風に仕上げた髪の毛にピカピカの靴を履いた。テレシータが好きなのか?と尋ねると、そうかもしれない。
子供の頃と同じくらいに付き合いが良くなり日曜日のミサにも訪れる様になった。ミサが終わるとテレシータに声をかけデートをしたスケートしたりボウリングしたりと楽しそうだった。
好きな子もできたのでクエリャルは手術を受けにニューヨークに行くかもと言ったが手術は難しくて出来ないと手紙が届いた。僕たちは、クエリャルはもう諦めていたのに好きな子が出来て焦っているクエリャルがかわいそうだと思った。クエリャルは諦めきれずドイツやパリでは無理なのか父親に何回も確認した。
そうこうしている間にもまたパーティにも出席する様になり、悪い評判を綺麗に洗い流すかの様に模範青年として振舞った。テレシータが近くに現れると秀才の振りをして彼女を攻めおとそうとしていた。外交官に将来なるんだとテレシータに言うとまあ素敵と彼女は喜んだ。
しかし周りの女の子達は不思議に思った、二ヶ月経っても何の進展も無いのだ、女の子達はテレシータがOKなのを知っていたし彼女はいつ言ってくれるのかと待っていた。
ある日ラロが何とかしてやろうと動いた。テレシータに気持ちがあるかどうか確かめに行った。しかし彼女の方が一枚上でそんな話は知らないと言う、クエリャルはテレシータに好きだと言っているだろうと聞くと、彼は何も言わないと言う、追いかけ回してるとしても友達としてだろうとテレシータは言った。僕らは告白されたらOKするだろうと聞くと、わからない彼のことは好きだけど友達として
でも何であんなアダ名が付いているの?と不思議がった。
クエリャルは決心がつかず相変わらずだったある日クエリャルを誘って車で海岸まで行ってバーに入った。
ラロはテレシータに熱くなっているんだろうと聞く、彼は体を震わせ寂しげに笑い聞き取れない様な声で、う、うん どうしたらいいかわからない、と言った。愛していると気持ちを打ち明ければいいとラロ、そうじゃないんだ イエスというかもしれないさでもそしたらそのあとはどうしたらいいんだい?後のことは後のことさ今は言ってしまえばそれでいいのさ、とラロ。もしかしたらそのうち治せるかもしれないじゃないかとチョート。もしテレシータがあの話を知っていたらとクエリャル。僕達がもう白状させたんだけどテレシータも君に熱くなっているのさ。僕に熱くなっているのかい?
打ち明ける決心をしたクエリャル。でもそうなったらどうしたらいいんだい?手を握って、キスをして、撫でてあげればいいんだ。それから?とクエリャルみんなは大きくなったら彼女と結婚するのかとクエリャル。そんなこと今から考えられないいつか追っ払ってしまえば良いのさ、とラロ。クエリャルは彼女を愛しているからそれは出来ないと言った。しかしビールが10本目になった頃、君たちの言うことはもっともだ彼女に打ち明けてしばらく付き合って追い払うことにする。それが一番いい方法さ。
しかし、一週間、二週間と過ぎていき、決心がつかず見たことも無いほど苦しんでいた。こうしているうちに危機症状が始まった。難癖をつけて誰かれ構わず喧嘩を売り、涙をこぼして明日告白するか、しなければ自殺すると言ったり、ぐでんぐでんになるまで飲み、誰でもいいから殺してやりたいと言った。僕たちは彼に付き合い家まで送り届けしっかりしろいい加減に彼女に言えよと励ました。あんな風では気が変になってしまうのが落ちだ。
冬が終わり再び夏がやって来ると、街に建築を勉強していて高級車を乗り回す若者が現れ僕らのグループに近づいて来た。カチートという若い男だった。最初はみんな嫌がったがテレシータは私の隣に座ってと誘った。僕たちはクエリャルに早くしないと取られるぞと言った、クエリャルは構わない好きなんてことは無いと言った。
1月末にカチートはテレシータにガールフレンドになってくれる様に申し込み彼女はOK。かわいそうな〈ちんこ〉何ということだろう僕たちは同情した。あの女よくも裏切ったなと僕らは言い合ったところが女の子達はこれでいいのよ悪いのはクエリャルの方だと言った。こんなに待たせてテレシータがかわいそう、カチートはハンサムで感じも良いそれに比べてクエリャルは臆病もので意気地なしだと言った。
5
クエリャルはそれからまた無頼の生活が始まった。海に入ろうとする者なんて誰もいない日に10メートルもある波にのったのを見た。テレシータの彼に恥をかかせようとしてやったに違いない。

海が大荒れの日クエリャルが抜けてカチートが加わったメンバーで海にいると、クエリャルが車で現れた。こちらに近づいて来てこれから波にのるというがみんなはびっくりした。何てこと無いとクエリャルは海に向かいみんながハラハラと見守る中、大波にのった。こんな風にまた始まったのだ。
その年の半ばクエリャルはおじさんの工場で働き始めた、これでちゃんとした青年に戻るだろうと人々は噂したが結果は反対だった、夜は飲みあるき博打をしいかがわしい安飲み屋に通った。しかし土曜日はいつもみんなと一緒に過ごした。小話では〈ちんこ〉がいつもチャンピオンだった。食事が終わるとみんなで売春宿で楽しんだ。
そんな土曜日のある晩、僕らがホールに戻るとクエリャルがいなくなっていた、通りに出てみると車にもたれて泣いていた。


何があったんだい?何でもないよ、いやちょっと淋しい気持ちになっただけさ、と彼。人生いうことなしの坊主の頭だっていうのに、なんでまた?いろんなことでさ、とクエリャル。 たとえば、どんなことだい? とマニューコ、たとえば人間がこんなに神の怒りを買うってこととか、何だって? 何のことだい? とラロ、とても罪深いってことかい、とチョート、うん、 そうさ。 それに、ほんとにおかしいけど、たとえば、人生がこんなにつまらないものだということとか、と彼。 つまらないなんてことないじゃないか、いうことなしなのに、とチンゴロ、働いたり、酒を飲んだり、ばか騒ぎをしたり、毎日毎日、同じことの繰り返しで、気が付いたら年を取っていて、死んでしまう、ばかげているじゃないか、なあ、とクエリャル。 ナネットの所でそんなことを考えていたのか? 女たちの前でそんなことを? そうさ、それで泣いたりしたのか? うん、それに貧乏人や、盲人や、足の悪い人や、ウ二オン大通りで物乞いをして歩く乞食たちや、クロ二力紙を売り歩く新聞売り子だとか、ばかげてるだろ、な? サン・マルティン広場の靴磨きの連中なんかが気の毒になってさ、おかしいだろ? ばかげてるよ、ほんとに、でももう済んだんだろう? とぼくたち、そうとも。もう忘れたろう? もちろん。よし、その言葉を信じるために笑って見せろよ、ハハハ。飛ばそうぜ、〈ちんこ〉、 アクセルを一杯に踏んでさ、今、何時だい? ショウは何時に始まる? 知らないなあ、まだあのキューバ人の混血女が出ているかなあ? 名前は何ていったっけ? アナさ、仇名は? 雌わにさ、おい、〈ちんこ〉、もう大丈夫ってところを見せてくれよ、もう一度笑ってさ。ハハハ。
6
マニューコとチンゴロが工学士になったその年ラロが恋人と結婚したときには、クエリャルは何度か事故を起こしていて車はボロボロだった。今に命を落とすと両親も心配していた。僕達ももうジャリと遊びまわる年じゃないと言った。というのもヤクザと賭け事をしたり飲み歩いたりする様になっていたから。
仕事もしているかわからず昼間から派手な格好で歩きジャリの一団をひきつれていろいろな所に出没した。みんながあいつと一緒にいるところを見られたくないと思いだした。
ある日公道を物凄いスピードでレースをして警察に捕まった。これで懲りるかと思ったが、二、三週間後には、手をハンドルに縛り付け、目隠しをしたまま死の横断をして最初の大きな事故を起こした。二回目はその三ヶ月後、ラロの独身送別会の晩のことだった。みんなを車に乗せてクエリャルはカーブで滑りたいと言って聞かなかった。僕らは付き合ってられないから降ろしてくれといったが聞かず、タクシーにぶつかり、ラロは無事だったがマニューコとチョートは顔を腫らしクエリャルは肋骨を3本折った。僕らは喧嘩別れしたがしばらくするとクエリャルから電話をかけてきて仲直りして一緒に食事にいったが、この時ばかりは僕達と彼の間に気まずいしこりが残って二度ともとの様にはなれなかった。
それ以降会うことも稀になってマニューコが結婚式の時には、通知は出したが招待状は送らずパーティにも姿を見せなかった。チンゴロが二人の子供を連れて合衆国から帰ってきた時にはクエリャルはもう山岳地帯に行ってしまっていた。山岳地帯でコーヒー栽培をするという話だった。たまたま通りで会っても挨拶もそこそこに、元気かい?まあまあさ、それじゃあな。

ミラフローレスに帰って来たって話だぞ、すっかりイカレちゃってさ、死んだそうだぜ、北部へ行くところだったって。何で? 衝突さ。どこで? ピサマヨの危険なカーブ続きの個所だってさ。かわいそうになあ、埋葬の席で僕らは話した、ずいぶん苦しんだ、つらい人生だったろうな、でも、この最期だけは自業自得だ。

その頃にはみんなすっかり一人前の大人になっていて女房も車もあり、 子供たちはシャンパニャ校やインマクラーダ学院、サンタ・ マリア学院などに通っており、アンコンやサンタ・ローサ、 スールの海岸などに別荘を建築中で、ようやく太り始め、白髪もちらほら、腹もせり出して、筋肉はたるみ、字を読むときには眼鏡を使い、食べたり飲んだりした後はどうも気分が悪く、肌にはそばかすや小皺も目につくようになっていた。



◉感想
あとがきから
クエリャルを語る声が多声的(ポリフォニック)になっていてクエリャルを複眼的に語ることができ物語に奥行きを感じる。
例えば四人いる仲間の“誰が”、とは言わず“僕達は”と引いた視点で語られる
個人感想
段落の終わりがセリフ調で終わることが多い。

物語の内容だけでは無く会話の書き方や文章の締め方などが単調ではなくテンポが良いのでとても読みやすい

序文と終わり方が素晴らしいのに外れなし

一人一人の心象を深く掘っているわけではないのだが思春期の悩みや葛藤が痛いほどに伝わってくるのはなかなかだと思う。すべての物事を書ききらなくてもとても深い物語に感じることができる所がとても面白いと思った。

リョサの小説観
〈内容と形式(あるいは、テーマと文体、物語の配列)を分けて考えるのは不自然であり、何かを説明したり、分析する場合をのぞいて、やるべきではありません。というのも、小説の中で語られている内容は、それが語られている語り口と分かちがたく結びついているからです〉

〈物語とは語られている言葉そのものなので
す〉

まさにその通りの作品でありリョサの面白さはこの説明で全てが納得できる。

深い傷を負い大人になりきれず悩める思春期の話なので何となくサリンジャーを思い出す。

ラテンアメリカ中編の中ではベストに入る。

かなり良い。






【別荘】第二部 ホセ ドノソ 感想

【別荘】 第二部 ホセ ドノソ 感想

第二部 帰還
第八章 騎馬行進
1
大人達のハイキングは期待を遥かに上回る夢のような体験だった、しかし日が暮れると皆子供達が心配で不安になったテレシオは召使いが歌を口ずさんでいるのがこの不安の原因と決めつけ庭師の助手と言うファンペレスという男を馬車から降ろす。金を与え彼をおいていった。
2
いつも小休止する礼拝堂の廃墟にたどり着き夕食をとる事にする。一家の領地のため人はいないはずが気配を感じるので、テレシオは様子を見に行くが数分経っても戻ってこない。馬車で礼拝堂の中に入っていくとテレシオの怒り狂った声が聞こえた。中にいたのはカシルダだった子供の人形を抱いていて自分の子供だという。
エルモへネスは人形を取り上げ井戸の中に捨てる。「私の息子をどうしたの?」と尋ねるカシルダ、今やカシルダの気が狂っていることは誰の目にも明らかだった。
ファビオがカシルダと自分はここで一年も飢えをしのいできたという。大人達は今朝出発したばかりなのにおかしなことを言うなと思う。ベレニセ(大人)は「侯爵夫人は5時に出発した」の遊びでは一時間を一年と計算することがよくあるという。大人達はこれもたわいのない遊びの一部だと笑い飛ばす。カシルダはこれ以上自分達に作り話を吹き込もうとしても無駄だと告げる、エルモへネスはなにも変わっていない、変わったのだとしたらそれは人食い人種の仕業
だという、カシルダは「人食い人種なんていない自分達の悪徳を正当化するためあんた達がでっちあげた話だ」と言ったエルモへネスとリディアがカシルダ達をとらえ押さえつけた。
ファビオは12時間前に金を盗んだことを話した、原住民と一緒に金を運んでいたがカシルダとファビオが疲れて寝ている間に金とイヒニオとマルビナが原住民とともにいなくなっていた。ファビオとカシルダを問い詰め人食い人種が攻撃の準備を始めていること、別荘の子供達も人肉を食べている事、無知な大衆が無計画な反乱を起こしている事を突き止めると2人を箱馬車に入れてカーテンを閉めた、その後の2人の消息を知るものはいない。
ファビオとカシルダが語った話が本当かどうか、エルモへネスは別荘にはすぐに戻らずに仲介者を立てようと考える。問題は原住民が銀山の仕事を放棄して武装を始めベントゥーラ一族の領地を再征服しようと試みる事。金の生産が終われば一族のこれまでの生活も全て終わりになってしまう。まず召使い達に別荘に向かわせ自分達は首都へ向かいマルビナとイヒニオに金の売却をさせない事と考える。
ファンペレスが提案する、ご主人達には手を汚させない自分達使用人が別荘へ戻り子供達を守り人喰い人種を一網打尽にするので武器を渡してくれという。お前の役割は?とエルモへネスが聞くとファンペレスはエルモへネスに何か耳打ちした。エルモへネスはペレスの言う通り全ての元凶はアドリアノだと思ったしかしなぜペレスがアドリアノに恨みがあるのか疑問に思った。ペレスはアドリアノに認めてもらいたく毎年召使いとして働きに来ていたが無視され一向に気づいてもらえないため人格を否定された気分になっていた。しかしアドリアノは塔に幽閉され手の届かない所に行ってしまった、あの男を排除しない限り自分が自分になる事はできないと考えていた。
ファンペレスは戦いを始めるにはたしょうのぎせいもやむなしと言う。何かあったとしても今の別荘を引き払いハイキングで行った楽園に新しく建てればいいと言うと一族の賛同を得た、そう言えば午後に誰かが同じ事を言っていた事を思い出す。
あそこに別荘を建てれば悪い噂は全て根も葉もないデマとして片付けられるだろう。
3
執事達の部隊は最高級の馬、武器、食料を持ち出発した。今や全ては執事達の手中にあった。エルモへネスは身分の低い庭師を引き連れ礼拝堂から現れた。テレンシオ オレガリオ アンセルモ シルベストレは先頭の馬車に乗り込むエルモへネスを助けていた庭師の男の顔に重要な意味があった事に気付いた。
第9章 襲撃
1
ベントゥーラ一族が、結婚したばかりのアドリアノ ゴマラを始めて別荘に招待した時石段の横にいつも立ち続けている男を不思議におもい家族にたずねた「コローの風景画のようにあそこに赤い点があると緑の庭が引き立つから」だという、人間を飾り物のひとつに変えるこの一族を軽蔑したものか称賛したものかアドリアノにはわからなかった。
この事を理解できないアドリアノは一族から危険人物とみられていた。
ファンペレスは馬車の中でエルモへネスが井戸に捨てた子供は人形ではなく本当の子供だったと言った。1年たっているが1日と嘘をつきそうする事で使用人に払う給料も少なくできるからだという。一年たてば子供達も堕落しており収拾のつかない無法地帯と化しているだろう人喰い人種もデマではなく実際に存在する危険な存在である、今まで日の目を見なかった使用人だが今こそ武器をとって戦う時だと言い士気を上げた。
執事達は別荘の前の集落に近づき彼らを観察した。子供は皆原住民と同じ格好をしていた。子供はいまは原住民の言う事を聞くしかないと思っていた。ファンペレスは全ての子供達を区別して名前を覚えており性格まで全て分析していた。ファン ボスコは危険人物、原住民は普通に言葉を話せるが普段はわからないふりをしている。フベナルの持つ食料庫の鍵についてメラニアとファン ボスコは鍵を取り合って喧嘩していた。ウェンセンスラオは沈黙を貫き、マウロはアドリアノに熱を上げおかしくなっていた。
子供達が喧嘩をしている最中、ファンペレスは銃を発砲した、その瞬間隠れていた執事達は集落に突進した、驚くほど簡単に原住民を拘束した。子供達はメラニアとフベナルを覗いて使用人達の腕に飛び込みキスの嵐を浴びせた。メラニアとフベナルは救世主となった使用人達はこの後どんな要求をしたくるのか不安になっていた。
使用人達はここから急いで別荘の奪還に向かうと説明した。するとメラニアは使用人が先頭の車両に乗るのは許されない自分達を先頭に乗せろと言った。彼らを先頭に乗せ銃を持たせ別荘に向かった。
2
別荘は今や全く違う様相を呈していた。
原住民と子供達が農作業をしていたが執事達の一団に気付きみな武器をとっていた。アドリアノが彼らに叩き込んだのは、遅かれ早かれ一族の大人達がやってくるので体を張って戦わなければならない事を教え込んでいた。使用人達は別荘に踏み込んだ原住民達を次々となぎ倒しながら前進した、マウロとウェンセンスラオも原住民側で戦っていた。原住民の部隊は貧弱で敵ではなかった、ウェンセンスラオもとらえられた、父が危険人物とあげるファンペレスの事は知っていた。ファンペレスは弟のアガピートにどこかに閉じ込め見はれと命令した。ファンペレスは30名の兵士を従えアドリアノの塔に向かった。実際に現れたアドリアノは人間的なものへの信頼と平和を求める心に貫かれたものが持つ凄まじい神秘が浮き上がっていた。しかし部下達の銃弾で一瞬で蜂の巣になった。マウロと原住民達にも止めを刺した。
3
アドリアノ ゴマラの死は一瞬にして別荘全体に広まり銃声もほとんど聞こえなくなった。
ウェンセンスラオはどこかに逃げ出しており姿をくらませた。執事はメラニアの部屋をノックし何点か確認したい事があると言う。
第10章 執事
1
上の階に閉じこもった集団は下へ降りていく事をせず、いつもの高慢な態度に磨きをかけていた。この一団を構成していたのはメラニアとフベナルだった。使用人達に騒動の後始末をさっさと終わらせ快適に過ごす空間を確保しろと命令した。
柵を元どおりに戻すが銃弾も底をつきそうな今槍を全て戻すと身を守るぶきがなくなるとファンペレスは考え、こっそり槍を何本か隠しておいた。部下達に屋敷をくまなく捜索させたが危険の兆候は一切見つからなかった。外を見ると2人組が逃げていくように見えたが妄想なのか現実なのかわからなかった。
いつまでたってもウェンセンスラオとアガピートの居どころがつかめず原住民が2人の逃亡を助けているとみられファンペレスに痛めつけられた。ベントゥーラ一族が新しい使用人を連れてそろそろ帰ってくると噂された。1年分の給料を1日分でごまかしているのだから一戦交えないわけにはいかなかった。
ウェンセンスラオが別荘に不穏な噂を流しているとファンペレスは読んでいた。これを突き止め2人を捕まえたいと思っていた、そうすればウェンセンスラオの伝説に対して下級使用人の自分が黒い伝説として恐怖の的になれると思った。
2
執事はベントゥーラ一族がハイキングに出発してからこの別荘には時間の経過は存在しないのだと言う。これ以降時の経過について話す事は反逆罪とされ、屋敷の窓を全て閉め光も影もなく昼と夜の区別もなくしご主人様達が帰るまで歴史を止めろと命令した。
そしてテーブルには常に食事を用意しておき子供達に時間という概念をもてないようにしようと考えた。しかし料理長はそんな事より料理が底をつきそうな今いざという時のために人肉料理のレシピを人喰い人種に聞いておきたいと告げると執事は猛烈に怒りツボを投げまくって怒った。
3
全て閉め切った暗闇の中で子供達を生活させ四六時中監視した。子供達も原住民の話を持ち出すのは危険と判断しその話題には一切触れずやがて記憶から消し去った。
侯爵夫人(メラニア)は5度目の再婚を望んでいてコスメ(15)♂に目をつけた。コスメを呼んで料理をご馳走しその話を持ちかけるとコスメは自由が欲しいからと断るすると自分につれなくした仕返しにこの料理は人肉でそれを食べさせたとコスメに告げる。上の階に住んでいないものはこれまでも毎日人肉を食べさせていたと言ったコスメは嘔吐し図書館に逃げるとアラベラが中に入れてくれた。「侯爵夫人は5時に出発した」に参加してないものはみんな人肉を食べさせられていたとアラベラに伝えた、震え上がったアラベラは他の子供達にも伝えた。それ以降子供達は絶えず吐き気に悩まされ痩せ細り精神を病んでいった。数日後コスメは姿を消した。
その夜4人の男がアラベラの手足を縛り何処かへ連れ去った少なくともそれがアラベラがいなくなった事のいとこ達の憶測だった。
この後変わり果てた姿で集落の小屋の丸太に縛られた状態で目を覚ました。拷問され他人の力を借りなければ歩けなくなっていた視覚も完全に失い二度と本も読めない事に気付いた。
この事実をまえにアラベラの怨念はむっくりと起き上がり激しい憎悪に包まれた彼女は自分がこのまま生き続けられると確信した。
第11章 荒野
1
使用人達の住んでいた暗闇の地下は寝とまりのためだけに作られたのではなくこの別荘の地下には主人達にも想像しえない時間と空間の限界をはるかに凌駕する歴史と広がりがあった。
先祖がこの地に屋敷を建てたのは塩山の上に居を立て当時通貨の代わりになった塩の流通を一手に握ろうとしたためである。その後通貨は金に代わり塩山の価値が無くなると地下のトンネルや洞窟の事は次第に忘れられ年数が経ちその後のもの達はなぜこんなところに別荘が建っているのかも知らないようになった。
地下は使用人のすみかとして利用されるようになるがその陰鬱な場所に住むことを皆が拒んだ、指揮官達は働きぶりによって地上で生活できることを約束し小部屋の奥につながる地下通路を全て塞いだ。トンネルを塞ぐのに問題になったのは、打ち捨てられた隠花植物園を残すか塞いでしまうかだった。料理人は食べることも可能なこの植物園を塞ぐ事に反対した。隠花植物は人肉の味の様に偽装することができそれを子供達に人肉だと吹き込んで食べさせ吐き気を催させ子供達の罰に使えるからだった。
アガピートとウェンセンスラオは地下の暗闇で生活していた。傷を負ったアガピートは動く事が出来ない。アマデオが毎日パンを差し入れてくれていた。地下の封鎖は今日始まる。
コスメは顔の半分と片目を硫酸で焼かれていた、ウェンセンスラオはアガピートの看病を続けていた、親達が帰って来れば使用人達に仕返ししてやる事ができるだろう。上に向かうとまさに通路を塞いでいる最中だった。
昔、アドリアノ ゴマラは原住民の為に犠牲を払う覚悟があるのなら自分の息子を捧げろと言われる。息子の首にナイフを刺そうとしたが原住民が一斉に唸り声をあげてそれをやめさせたそれ以来ウェンセンスラオとアドリアノの絆は完全に絶たれていた。
今や通路は塞がれたがそこは昔、父や妹達ときた洞窟であり、集落に抜ける道があると考える。途中に差し入れのパンがあり 集落で待っていると書いてあった。
2
ファンペレスはウェンセンスラオと同じく 主人達が帰ってくると予想し、それが一番厄介な事と考えていた。しかし今は亡きアドリアノ ゴマラに全てを押し付け、彼が年の功を盾に子供達とマルランダを支配下に置きすべてを混沌とさせたと言えばそれで済むだろうと考えた。
だが屋敷内の動揺を感じていた子供達は使用人達が何を恐れていたのかよくわかっていた。
原住民達は子供達に綿毛の襲来による窒息を避ける方法を伝授していた。子供達は、1年前綿毛の被害を経験しておりその恐怖をよくわかっていた。ウェンセンスラオ、アガピート、アラベラ、アマデオは合流し集落へ向かった。
アマデオとアラベラがいなくなった事に気付いた使用人達が捜索を始めた。
執事にばれてはまずい使用人達は隠れている4人のそばを荒々しく駆け抜けた。4人はグラミネアの間を這うように進み見つからずに開けたところまでたどり着いた、だが何処へ向かっていいのか全く見当もつかず、自分達が生きていくのに必要な力すら残っていなかった。
3
朝起きると近くに塩水が湧いていた、ウェンセンスラオ、アガピート アラベラは体を洗い水を飲んで生き返った。アマデオがいないのでアガピートは辺りを捜索した、すると血だらけのアマデオが見つかった、心臓はまだ動いていた。アマデオはこの先食料は見つからないだろうから自分を食べてくれと言って息を引き取った。

3人はアマデオを順番に食べた。

(作者)この小説の草稿ではこの後3人は荒野に姿を消して二度と物語には戻ってこない予定だった。しかしウェンセンスラオの存在感によってこれは不可能だと決めた。

3人は遠くにプラチナ色の雲が見えた段々近づいてくるとそれはベントゥーラ家の一団だった、3人は「お母さん、お母さん」と近づいて叫んだ。
第十二章 外国人達
1
(作者)ある朝私は、小説【別荘】の決定稿を抱えてエージェントに向かっていた、すると顔見知りの紳士に声をかけられる。シルベストレ ベントゥーラだった。エルモへネスの所にこれから行く途中だという。久しぶりなんだから祝杯をあげようとバーに誘われる、2人の関係は創造する側と、される側という仕事上の付き合いである。
今持っている原稿は彼等一族の物語だと告げるとシルベストレは、マルランダを鉱山も含めて買いたいと言う外国人がいるので一週間後エルモへネスとマルランダに行くという、売ってはいけないと作者は言う。
自分の小説を読んで聞かせ、感想を聞くと「さっぱりわからなかった」と言われた。
マルランダはそんなに大きく無いしそんなに大量の使用人を雇ったことも無い、屋敷だってありきたりの建物で俺たちはそんな罪人でも無いし悪人でも無いし愚か者でも無いとシルベストレは言った。
作者は君達に認められるために書いているのでは無いし自分の文学理念を曲げてまで書こうと思っていないと言った。
シルベストレはエルモへネスの事務所に向かった、エルモへネスは妻のリディアもシルベストレも誰も信用していない。偽装と隠蔽と詐欺で
この難局を乗り切ろうとしていた。
2
原住民は使用人達に見張られ金の採掘の仕事をしていた。荒野の片隅に追いやられた別荘は、崩れて威厳を失った贅沢品のようになっていた。
ファンペレスは古き良き時代はまだ終わっていないとでも言うようにバルコニーを囲む手すりをいつまでも磨き続けていた。ファンペレスは地平線の遠くに主人達の一団を見つけた、敗北という名の自由を感じた、ベントゥーラ一族は新しい使用人達と外国人を乗せていた。
シルベストレは外国人を庭に案内すると「人里離れた場所にしては悪くないが残念ながら少し狭い」と言われる。シルベストレは我が国で最も広い庭園だと憤慨する。外国人の女が「あなた達の領地がこんなに狭いとわかっていればこんな廃墟同然の家にわざわざ長旅をしてこなかった」と言った。
目の前にある集落には人喰い人種がいるのだろうと外国人そうならば根絶するとベントゥーラ家に告げる。
外国人は鉱山が我々が考えるほど豊かなものであればそれを買い取り人喰い人種と綿毛は全て排除すると告げた。
テラスの下でウェンセンスラオが「お母さん」とバルビナを呼んでいた。それに気づいたファンペレスはすぐに駆け下りた。
3
ファンペレスと使用人達はウェンセンスラオを捕まえて巻き毛のかつらと女の服を無理やりに着せていた。ウェンセンスラオは抵抗した。
先頭にファンペレスそして召使いを従えその後ろにウェンセンスラオがついて歩いた。
親戚のいる部屋に近づいたウェンセンスラオは踊りながら真ん中に躍り出た。「公爵夫人は5時に出発した」の遊びにふけっていた子供達が仮装したままダンスホールになだれ込み踊り出しフベナルがチェンバロを演奏した。
ウェンセンスラオとコスメはバルビナの眼の前まで近づいた、バルビナはコスメの潰れた顔を見てバルビナは仮面を取れと言った。
屋敷は廃墟同然だし服もボロボロでみんな痩せこけてしまい一体どうしたのとバルビナが余計な事をしゃべりすぎてしまいそれについて他の者は外国人に釈明した。これは「公爵夫人は5時に出発した」の遊びに夢中になるあまり時々妄想が行き過ぎてしまうと説明した。エルモヘネスは狭窄機を持ってこさせアドリアノを幽閉していたあの塔に2人を連れて行った。
第十三章 訪問
1
男達の計画としては鉱山を見せて売買契約を結び綿毛の嵐が来る前に帰路につく。綿毛の嵐が外国人を襲うような事があれば彼らは契約書をその場で破り捨てるであろう。
エルモヘネスは外国人達にこの地域の歴史と地理を説明させようとアラベラをさがすがなかなか見つからない。執事がアラベラを連れて来たがボロボロの服に熱に震える体のまともにも立っていられないアラベラだった。外国人は心配してアラベラを支えた、執事は説明した心配ありません「公爵夫人は5時に出発した」の遊びをしていただけですと説明した。外国人の女はアラベラを連れて隣の部屋に姿を消しその一時間後にアラベラは息を引き取った。
ルドミラが外を見るとプラチナ色の雲がこちらに押し寄せてきた、それはマルビナの馬車の行列だった。彼女は最早少女ではなくとても贅沢な衣装を着ていた。マルビナは親達との話を軽く切り上げ外国人との話に集中した。
ベントゥーラ一族はその会話には入れなかった、マルビナはメラニアを見つけると懐かしいと言っていつも仲良しだったかのように抱き合った、他の子供達には目もくれずメラニアの手を取って離さなかった。
2
ファビオ、カシルダ、マルビナ、イヒニオで金を持って馬車で逃げた時に話を戻す。
ファビオとカシルダを置き去りにしてイヒニオとペドロ、クリソロゴ原住民7名で憔悴し痩せこけた姿で首都にたどり着いた。イヒニオは次第に病んでいった。彼に打撃を与えたのは行程を重ねるうちに鉄の女と化していったマルビナだった。首都に着くと彼女は原住民に報奨金を与え何処へでも消え失せるように命じた。
外国人のたむろするバーに行き金の取り引きを持ちかけた、外国人の用意した家に向かい入れられ奇抜な現代風な成り金として頭角を現し始めた。外国人達には片付けておかなければならない事があと一つあった、イヒニオの始末だった。ベントゥーラ一族の人間を殺すことはリスクがあるので、外国への旅を提案し彼を送り出した、マルビナはこれで自らの脱皮を心おきなく出来ることになった。出身、階級、名前、年齢までを跡形もなく消し去った。いつも横にいたのはペドロ クリソロゴだった。売春宿や賭博場を買いあさり外国人から受け取った代金以上の代金を手にして2人の原住民をマルランダへ派遣して別荘の様子を調べに行かせていた。
ベントゥーラ家の大人達が出発して少したった頃アドリアノ ゴマラは南側のテラスに何本もの槍に貫かれた自分の顔の落書きに気づく、マウロの仕業に違いないと考えた、そしてベントゥーラ一族逃亡の知らせを受けて山から下りてきた。原住民集団を受け入れないとアドリアノが主張したためマウロはそれに反対し姿をくらませた。ウェンセンスラオは父は自分の招いたことですっかり頭が混乱しているように見えた、上の階のメラニア達に食料庫の鍵を渡せと言いに行くが拒否される。翌日上の者達を幽閉し食料庫に向かい鍵を破壊し中の食料を必要な者で分けた、食料庫は開けっ放しの為原住民や子供達が殺到し食料を食い漁った。
これに気づいたアドリアノは入り口に兵士を置き配給制を取ったが食料は減り続けた。コロンバはこうなった以上食料管理に長けた自分に管理を任せてくれとアドリアノに直訴し再び台所は機能を始めた。
上の階の者の幽閉を解いたことにマウロは怒り、別荘へ踏み込み部屋に居座った。その間大半の従兄弟達はいつも通り原住民と一緒に過ごした。ある時商品満載の馬車に乗って帰ってきた原住民達に話を聞くとマルビナの名前が出てきた、アドリアノはウェンセンスラオとフランシスコ デ アシスと三人でマルビナと連絡を取り世界市場を相手に商売しようと考える。
先ほどの原住民に手紙を託しマルビナのもとに送る、しばらく時が経つとアドリアノの注文した品を乗せ原住民達が帰ってきた、そしてまた金を積み首都へ向かった。自分達の知らない事に不穏な空気を感じ取った上の階の者はマルビナとアドリアノとの取引を絶つためにメラニアとアグラエーに悲劇的一日のヒロインを演じろと命令する。メラニアとアグラエーがウェンセンスラオを引きつけている間、馬を野に逃がし馬車を見つからない所に隠し取引を続けられないようにしてその後行商人2人を捕まえて幽閉した。これでマルビナへの伝言を持って旅立ったと思わせることが出来た。行商人2人が首都へ向かっていると思われていた間マルランダでは再び取り引きが始まると金の生産を増大させた。アドリアノはせわしなく動き回り果樹園の整備など取り行った。例外は上の階の者達だけで次第に忘れ去られていった。父の命令に心から従うことが出来なくなっていたウェンセンスラオはする事もなく事の成り行きを見守っていた。行商人が戻ってくる時間が長引くにつれ、父は足元から崩れていき信頼感も薄れていった。結局ベントゥーラ一族が巨大な力を入れ見せつけ戻ってきた時、アドリアノの計画には何の解決方法もなかった。ある時マウロが縛られた2人の行商人を見つけアドリアノに報告した。結局は自分達で首都に行かないといけないとマウロは提案した、しかしお尋ね者である自分は行くことは出来ないとアドリアノはいった。マウロは上の階の者達をみすぼらしい部屋へ幽閉し朝から晩まで強制労働させた。別荘に次々と助けを求めてくる原住民達にも対応できなくなっていき食料も底をつきアドリアノには、なす術もなかった。マルビナはその後使者を送らなかった、望むのはベントゥーラ一族の帰還であり帰ったら一族の権力を他人の手に委ねプライドをずたずたにする計画があった。
3
ベントゥーラ一族と外国人は湖岸へのピクニックに妻達を下ろし男達は鉱山へ向かい帰りに妻達を拾って帰る計画の旅に出発した。執事の横に座っていたのはファンペレスではなく見知らぬ御者だった。その頃ファンペレスはアガピートに押さえつけられていた。数分経つまで何者かに裏切られたと気付かなかった主人達は服はずたずたにされ馬車から叩き落とされた。彼らの権威は完全に失墜した。
しばらくして敷地に戻った者達の前に埃の仮面を付けたような一団が近づいて来た。彼らは敵ではなく自分達と同じくらい憔悴しきっていた。それはマルランダの子供達だった、子供達は大人達に手を差し伸べ助け起こした。
第十四章 綿毛
1
綿毛の襲来に湖まで逃げようとしたが馬車もなく馬もなく逃げられない、全てはマルビナと外国人と執事が計画的に仕組んだ罠だった、しかしティオ アドリアノの馬車が残っていて全員その中に避難した。ウェンセンスラオは湖は存在しないしぼやぼやしてると綿毛の突風で命を落とす事になると言った。ファンペレスは助かる方法を教えてくれと言った、ウェンセンスラオはこの地域について我々よりよく知っている人々に教われと言った。ファンペレスはウェンセンスラオの顔に鞭を打ち馬車から子供達を下ろし馬車を走らせた。悪党ファンペレスを乗せて進んだ馬車はすぐに綿毛に飲まれて姿を消した。
2
ファンペレスとベントゥーラ一族は荒野で窒息死した。(作者登場)登場人物達がこの後どうなったかはもう一冊書かなければ書き切れない現実と芸術を混同しないと決めていたが登場人物との別れが辛い。原住民が引き連れる一行はダンスホールに辿り着いた事で横たわり綿毛の襲来をしのいだが、セレステはテラスでずっと綿毛を浴びていた。オレガリオを待っていたのだ、オレガリオはテラスに出てセレステと共に嵐の中に消えた。

終わり

感想
あとがき含め500ページ超 読みづらくはなくスラスラと読める。が、しかし【夜のみだらな鳥】に衝撃を受けてしまった後では物足りなく感じてしまう。しかしこれは他の作家でも同じ事なのでしょうがない。

面白い所

作者が語る部分を最初の所からちょくちょく出しておいて、後半に作者がまさにこの物語を執筆終えて編集社に持って行く途中街中でベントゥーラ一族の者と偶然出会い作品の感想を聞いたりする所は印象に残った。

実は親達がハイキングに行っていた数日の話のはずが1年以上経っていなければありえないような展開に知らず知らずのうちに巻き込まれるような展開。

読みやすくはあったが、ものすごく衝撃を受けるような作品でもなかった。

80点


【別荘】 第一部 ホセ ドノソ 感想

【別荘】第一部 ホセ ドノソ 感想 80/100

第1部 出発
1
私がこの小説の中心に据えようとしているハイキングは夜明けと同時に出発するのが絶対条件。(この物語を書いている作者が語っているという。表現が使われている。)
親達は33人の子供達を残してハイキングに出かける計画を立てている。
別荘の周りに出没するという人喰い人種 毎年マルランダに避暑に来ると大人達が不機嫌な顔で触れる程度だったが ウェンセンスラオ(9)♂が不吉なことばかり口走るせいで現実味が帯びてきた。

あの夏、我々がこの物語の出発点として想像した夏、一家がマルランダの別荘に腰を落ち着けるや否や子供達が何かわるだくみを張り巡らせていることに気づいた。大人たちは首を切られナイフで刺される夢を見た。ハイキングに出かけるという計画はあまりの不安に苛まれていたベントゥーラ一家が言葉を失いかけていたちょうどその時だった。子供達が何を企んでいるにせよこれほどよい口実はなかった。
大人たちは原住民に景勝地の存在を確認し計画を立てた、不愉快なことを忘れピクニックの計画を立てる事に夢中なった。他方子供達は自分たちを見捨て安全地帯に逃げる親達の後に人喰い人種が襲ってくるに違いないと思うようになる。
親族達に塔に幽閉されている アドリアノ ゴマラ(ウェンセンスラオの父)は自分も参加させろと言わんばかりに 助けてくれ 殺してくれと叫び続けた。気狂いの叫び声にベントゥーラ家は彼に狭窄衣を着せ猿轡を噛ませた。
親達が出発した少し後ウェンセンスラオは父(アドリアノ ゴマラ)の叫び声が病んでいる事に気付いた。鎮痛剤で眠らされている事に気付き急いで塔に向かう。その途中図書館にこもりきりのアラベラ(13)♀に会う、彼女は親達に旅行の話が持ち上がった時、的確な情報をさりげなく補足し彼らの注意を旅行へと引きつけたのはアラベラだった。
ウェンセンスラオはアラベラにこんなにたくさんの本を読んでどうするのかと聞くとアラベラは本を見てみたいかと言う、見てみると本は背表紙だけで中身はページも文字もない空っぽだった。
2
アラベラは本当に博識なのか単なる思い込みではないかと思った。本の中身がない事は大人達は皆知っていた、祖父がこの部屋を作らせた理由は見掛け倒しの自由党員に「いかにもエリートらしい無知な人物」と評された事がきっかけだった。
ウェンセンスラオは人喰いの話などはなから信用していなかった。原住民達は今は肉も食べずむしろその肉はベントゥーラ一族の食卓に並んだ、そんな今の原住民わ見ても残忍な種族をなしていた事など想像もできなかった。
使用人をまとめるのはエルモヘネスの妻リディアだけ、子供達を24時間体制で厳しく管理させていた。しかし子供達もまた使用人一人一人を知り尽くしていてうまく利用する事も心得ていた。
いとこの中で最年長のフベナル(17)♂はハイキングへの参加を拒んでいた。大人達も留守中大人達の代わりをしてくれるだろうと期待した。
大人達と使用人すべて出払った、ウェンセンスラオは大人達は帰ってこないとみんなに伝えた。
ウェンセンスラオは四年ぶりに父に会いに行った、狭窄衣にくるまれ口には猿轡、目は包帯で覆われていた。ナイフを取り出しすべてを取り除いた鎮痛剤のために眠ったままだったウェンセンスラオはちょくちょく父の唇に水を滴らせたやがてゴマラは横にいるのが息子だと気づく。
第二章 原住民
1
マルランダで過ごす三ヶ月のバカンスはベントゥーラ一家にとってははるか昔から変わる事なく続けられてきた行事。
一族の繁栄の基盤であるという信念を子供達に植え付けるためにこの三ヶ月はある。もし家族が離散するような事があればそれはゴマラが原因である、アドリアノ ゴマラは腕ききの医師であった、白痴女のバルビナ ベントゥーラはゴマラに惚れ込んで結婚した。
2
あまりにも素性の違う一家に入ったアドリアノ ゴマラは、程なくして表面上はベントゥーラ一家に溶け込んだ。結婚後初めてのバカンスでは別荘の近くの集落の原住民を治療するのが医師の務めと考え主張したが一族にいやな顔をされ夜明け前に集落に行き内密に診療していた。
アドリアノは原住民に病気が流行しているのは汚水のためだと気付き集落を引っ越しさせ原住民の生活は清潔になり一変した。
バルビナは三人目の子供を出産しウェンセンスラオと名付ける。ベントゥーラ一族らしい金髪と青い瞳の可愛い男の子。その前に生まれた2人の娘は色黒で醜かった白人の2人からなぜ生まれたのかわからないくらいだった2人の娘は自分たちも哀れに思われている事に気づいていた。ミニョン妹(6)♀と(アイーダ)姉(8)♀はある日喧嘩してミニョンはアイーダの髪の毛に火をつけた、アイーダは坊主にするしかなかった。
3
アドリアノは今日は自分の誕生日だから他の家族から解放されて自分と妻と子供達だけで水入らずで過ごそうと提案する。バルビナは原住民のところには行って欲しくなかった、アドリアノは今日一緒に行ってくれたら明日からは行かないと約束し原住民のもとに行く事に。
屋敷に隠された地下を降りて原住民に会いに行く、アドリアノが家族を先導する中に入っていくと豪華絢爛な綺麗な洋服やアクセサリー、絨毯、毛皮など様々なものがあった。アドリアノはここで見たものはすべて忘れろ、ベントゥーラ一族のものも誰も知らないと言う。
ベントゥーラ一族はこの土地に越してきて原住民達の服や装飾品を取り上げた、それがこの地下の装飾品である。そして土地も奪い自分たちの立派な別荘を建てた、取り上げた装飾品を取り返されるのを恐れ地下深くに装飾品を隠した。地下通路を抜けて川べりに原住民がいた。アドリアノの誕生日を祝福し豚を殺して捌いていた、これからその肉を持ってきてくれるというが人肉かもしれないし食べられないとバルビナは言った。アドリアノと子供達は食べるという、バルビナは呆れて集落の外に止めてある馬車に向かって歩き出した。アドリアノと子供が釜に近づくとリンゴを口にくわえ頭にハーブの冠をした豚の頭が出てきた。娘2人は驚いて母のもとに走り一緒に馬車に乗って先に別荘に帰った。
ウェンセンスラオとアドリアノが別荘に戻るとミニョン(6)妹がお父さんにプレゼントがあると地下に案内する。かまどで何か焼いておりお父さんに食べて欲しいという。かまどから出てきたのはリンゴを口に詰め込まれ笑顔を浮かべたアイーダ(8)姉の顔だった。アドリアノは気が狂ったように鞭でミニョンを殴り続けたこの騒動に駆けつけた使用人や従兄弟達もかまわず殴り続け血まみれになっていった。ようやく数十人で押さえつけ手足を縛り猿轡を噛ませ塔の中に押し込んだ。
ベントゥーラ一族の女達はミニョンがアイーダの頭を丸焼きにしたのは原住民の儀式を見た影響だと噂しあっていた。その後の捜索でアイーダの頭は見つからなかった。バルビナは徐々に事件のことは忘れていったが息子のウェンセンスラオを男として受け入れようとせず女の服を着せスカートを履かせ髪を巻き毛にしたウェンセンスラオは母のためにそれを受け入れた。バルビナは幼年期に退行した。バルビナはウェンセンスラオのことを決して離そうとはしなかったがハイキングには特例としても連れて行くことはできないと断られ35人の子供達は例外なく残ることになった。
第三章 槍
1
大人達は出かけ子供達だけになった。ウェンセンスラオはいつもの女の子のかっこうではなく髪を乱暴に切って青いズボンをはいた姿で現れみんな驚いた。
2シルベストレとバレリオの間に生まれた四兄弟
マウロ(16)♂バレリオ(15)♂アラミロ(13)♂
クレメンテ(6)♂は常に模範の家族であったが四兄弟が仲違いする象徴的な事件があった。10歳の時マウロはマルランダの柵の本数を数えた一万八千六百三十三本ある日父が誕生日プレゼントに欲しいものと聞くと鉄の槍が欲しいと言った父が自作の槍を作って渡すと本物と違うからいらないという同じものを作ることはできないときつく叱られる。マウロは表面上おとなしく振る舞いよく見ると一本一本が違う槍を事細かく調べその中の完璧な一本にメラニアと名付け愛を注ぐことにした。その間いとこのメラニア(16)♀はマウロより早く成熟し周りからの存在感を高めていったマウロは大勢の中のひとりでしかなかった。そんな自信に満ちた彼女を自分のものにするとはどういうものなのか?槍のメラニアを抜くことにする早朝にばれないように慎重に槍を抜き抱きしめて芝生に横になったそれ以来、来る日も来る日もその一角に足を運び槍を抱きしめ横になった。
マウロはしきりにアデライダ家へ赴きメラニアにすり寄ったが槍のメラニアの感触を取り戻すためにそうしているのかいとこのメラニアと進展したくてそうしているのか自分でもわからなくなっていた。しかし成長したマウロは次第にメラニアとカップルとして認められるようになる。
マウロは弟のバレリオに槍の秘密を教えその隣の槍も抜き槍の隙間から見えるその無限を味わって楽しんでいた。そのうち短時間外に出て歩き回った。その夏2人は9本のやりを抜いた。
来る夏も来る夏もこの意味不明の単純作業を続けた。あまりにも多くの柵の量に弟2人の助けを求めたのはハイキングの前年のことだった。4人は一族のエリートだがそれに反する作業を遂行している。一つだけマウロが確信していたこと作業が完了し柵が崩れ落ちればいとこのメラニアに対する感情が明らかになる。
3.
34本目の槍を抜くとそれはすでに抜いてあり簡単に抜けた。そのあとの槍はすべて抜けていた、マウロは悲しくなった。次々と槍を抜き始めるといとこ達が集まってきてやり抜き遊びに一斉に殺到したすべて抜いてしまい皆はそれぞれの遊びに戻っていった。
ウェンセンスラオは幼いいとこ達だけを集め槍を与えグラミネアの荒野に入っていき自分の周りに座らせた、原住民達は何十年も前から柵を外していた、友好の証にいとこの数と同じ33本を残していた。槍は原住民達の名戦士達の武器でありベントゥーラ家の祖先が彼らを打ち負かし武器を奪い防護柵に使ったと子供達に説明した。ウェンセンスラオ達の周りを年長のいとこ達が囲んでいた、幼い子供達にこっちに来いと声をかけると皆ウェンセンスラオを残して兄達の元へ戻っていった残されたウェンセンスラオは兄達に向けて槍を構えるが押さえつけられる。マウロは後ろでその光景を見ていたがウェンセンスラオの説明には説得力があった。押さえつけられながらウェンセンスラオはいった「親達は帰ってこない何年も前から計画されたことで 今年の夏になって父さんがみんなの頭にハイキングの話を吹き込むことに決めたんだ」

見張りが寝たのを見計らってウェンセンスラオは父と話していた、何年か前に父さんに言われ自分の母に楽園の話をすると、それは親戚中に広まったアラベラに地図を作らせ子供達も親達に質問するようになると親達はやがてその楽園が実際に存在するかのような話をし始め次第に自分達で楽園が現実のものであるかのように作り上げていった。とウェンセンスラオは皆に説明すると皆あっけにとられた、マウロはでも楽園は存在するんだろうと質問するとウェンセンスラオは「知らないよ」と言った。
ラニア(16)は槍を抜いたりする悪童達から離れサロンの中に隠れていた。フベナル(17)♂とメラニアはこの騒動を解決する術を考えていた。
第四章 侯爵夫人
1
盲目のセレステ(52)♀はメラニア(16)♀に自分の夫オレガリオの注意がいってほしいと思っていた。
2
フベナルはイヒニオ(15)♂とフスティニアノ(15)♂を呼び出したが2人は互いの性器を触りあって興奮していた。フベナルは2人を叱りつけた、呼び出した理由は隠してある武器を盗むため、イヒニオは反対して走り去り、フスティニアノは酔いつぶれて寝てしまった。
フベナルは1人で銃を取りに行った盗んだ鍵と会う扉を見つけ開けるとたくさんの銃が自分の上に倒れてきて執事に見つかったが執事は散乱した武器を瞬く間に片付け何も罰されなかった。
第5章 金箔
1
この物語で中心的役割を果たすエルモへネス(55)♂と妻リディアには7人の子供がいる、前章の事件は完結していないがここで他の話にも目を向ける。コロンバ(16)♀の双子の姉カシルダ(16)♀が自己救済の為に謀り巡らせていた荒唐無稽な計画の話。
柵の撤去で大騒ぎの時カシルダは父の執務室でファビオ(10)♂と一緒だったカシルダはこの騒動で自分達の作業に気付かれなくて済むと考えた、大人達も帰ってくると信じていたそうでなければ金を置いて行くはずがないと思っていた。
ティオアドリアノが降りてくるという噂だけは本当の危機を意味していた。エルモエネスの執務室へ来て金を押さえにかかると思っていたので2人は作業の手を早めることになる、カシルダはイヒニオを仲間にさそいこむ、ファビオは鉄扉を開ける鍵を作り続けた。
鉄扉は開き3人で中に入った中に金があることを突き止めるとカシルダはこの金を持って別荘から逃げる計画を伝える。馬を調達し馬車が動くか確認する。
2
カシルダとコロンバは双子で瓜二つなのだがコロンバひ美少女でカシルダはお世辞にも美しいとは言えなかった。ファビオはコロンバと付き合っていたが生理が来たことでファビオは汚らわしいと考え遠ざけるようになる、しばらくしてファビオに部屋に誘われたコロンバは生理のきていないカシルダを自分のかわりに行かせた。カシルダは性交の終わった後自分はカシルダだと正体を明かす。
3
エルモエネスはベントゥーラ一族の金の外国人との取引を、一手に引き受けていた。会計士として12歳からカシルダに教育し彼女は金についての知識を正確に把握した。カシルダは父のそばで鉄扉の番号を読み取り鍵の形を写し取っていた。ある時原住民から粗悪な金を受け取り怒ったエルモエネスは鉄扉の中に初めてカシルダを入れ粗悪な金を見せた。それ以来カシルダは鉄扉の中に眠るベントゥーラ一族の金を見てみたいと思うようになる。
第6章 逃亡
1
ファビオとイヒニオは馬車を確認しに行った、カシルダは外を見ると原住民がこっちを伺っていた、それは粗悪な金をエルモエネスに掴ませた、ペドロ クリソロゴだった。なぜあんなところにいるのだろうと思った。部屋の中で声がした、マルビナ(15)♀だった、怒ったカシルダはマルビナを締め上げ床に押し付けた。マルビナはすべての話を聞いていた。自分も連れていってほしいと言う。
2
マルビナはウェンセンスラオと原住民の関係やマウロとその兄弟の事など色々な事をよく知っていた。その中でもカシルダの計画に自分は誰よりも貢献できると考えていた。マルビナは全て話すから連れていってくれと頼む、ペドロクリソロゴを知っているかと話し出す。マルビナには盗み癖がありいつかここを抜け出すために小銭を盗んでいた、隠すところに困っていたところ柵の近くを歩いていると槍を掘り起こす原住民を見た。2人の原住民はシャベルの扱いに長けていたので敷地内に入れ穴を掘ってもらいその中に隠した。やがて原住民が他の子供達を連れてやってくるとみんなで盗んだお金を隠すようになったやがて互いに成長しお互いを理解した。皆につまはじきにされていたマルビナはその辛さをペドロクリソロゴに味あわせるために偽物の金を売らせ原住民は買取を停止されペドロクリソロゴは原住民から白い目で見られその後完全なのけ者となった。マルビナは金の価値と機能を教え込み指導者としてまつりあげられた原住民はやがて労働の対価があまりにも少ない事に気付き始めた。
ファビオとイヒニオは馬車はどうやっても動かない事を痛感した。彼らの元にカシルダとマルビナが近づいてきた、主導権を握っているのはマルビナだった。厩舎のあちこちから原住民が現れマルビナは全員のほおにキスをした、原住民に色々説明をすると馬車を引っ張り動かした、4人は馬車に乗り原住民が引く馬車はグラミネアの荒野を疾走した。暗くなるとマルビナとその部下達は馬車の中に金を運んだ、ペドロクリソロゴの合図で出発し次第に遠ざかっていく別荘はやがて小さくなり暗闇に消えた。
第7章 ティオ
1
ラニアが「侯爵夫人は5時に出発した」の芝居をするという。昔からいとこの子供達でやっている遊びで、外で騒いでいた子供達はすっかり静まり返った。その間にフベナルはマウロを連れてきて芝居を始めさせた。フベナルは飽き始めたいとこ達にも役を振ったアラベラがティオアドリアノが降りてきたらこんなことはしていられないから早く終わらせないければと言う
子供達は置き去りにされたこの別荘で乱痴気騒ぎを始めてしまった、「侯爵夫人は5時に出発した」の最終エピソードが展開している間に起こった様々な事件を契機に子供達は恐怖の事態に巻き込まれる事になる。子供達は大人達のクローゼットをあさりそれぞれに豪華な衣装を身につけた。
2
フベナルは「侯爵夫人は5時に出発した」で皆の気をそらすことは出来たが、日も暗くなり食事と服を求めて母を呼び始める子供達を騙し続ける気力はもうなかった。
ウェンセンスラオはフベナルの目論みが侯爵夫人を口実にいとこ達の気をそらす目的なのを見抜いていた、ウェンセンスラオは塔にいる父に会いに行き、行動計画を聞いた。
マルランダ全体を支配下に置き侯爵夫人に参加する者は容赦なく排除する、問題なのはメラニアとその取り巻きである食料庫の鍵を握っているのはフベナルであり食料配分を効率的にこなすコロンバもいる、これらを敵にまわしてどうなるのか?ウェンセンスラオは父の計画に賛同しかねていた。一方マウロはアドリアノに心酔しており彼の言う事に反対する奴はただではおかないと思っていた。ウェンセンスラオがアドリアノの意見に賛同しかねる事を知り ウェンセンスラオへの不信感が刻み込まれた。
3
テラスから敷地を見たウェンセンスラオは木立の茂みに隠れた見事な衣装をまとった集団に気づいた、遊びにかけるいとこ達の熱気も不穏な夜が近づくにつれ薄れていった。
敷地の外のグラミネアが敷地の中に押し寄せてくる、次第に人間の形を取り始め毛皮やお守りをまとった原住民の姿に変わった。誰もがその光景に目を奪われた先頭に立っていたのは颯爽とした若き戦士であった。その巨人の戦士はよく見ると姉2人を失ったあの日豚の乗ったテーブルの脇から頸動脈に錐を打ち込み女達の支えるどんぶりに血がうまく流れるように見張っていたあの若者だった。


ここまで第一部 終わり

【夜のみだらな鳥】ホセ ドノソ 感想 2

【夜のみだらな鳥】ホセ ドノソ 感想2
100/100
あらすじ
植民地時代からの名門の当主である ドン ヘロニモ アスコティアは、同じ上流に属する従妹のイネスと結婚し、上院議員として政界に重きをなす。やがて待望の子供が誕生するが、これがこの世のものとは思えない、異常な奇形で、初めてわが子に対面したドン ヘロニモは殺害を考えるが 思いなおす。腹心の秘書、ウンベルト ペニャローサにその養育すべてをたくす。ウンベルトはその子供〈ボーイ〉とともにリンコナーダの屋敷で幽閉の生活に入る、主人の伝記の執筆に取り掛かるが、胃病のために大吐血 病み衰え、やがて年もとった彼は、昔からアスコティア家の使用人すべての落ち着き先と決まっていた、エンカルナシオン修道院におくられる、そしてそこで聾啞の〈ムディート〉の仮面をつけて、僧や老婆や孤児たちのなかで暮らしながら、悪夢のような彼自身の伝記を語り始める。
●解説がとてもわかりやすかったので解説からいろいろと
⭕️ルイス ブニュエル 映画監督

映画化の強い願望を表明しながらこう評した
「これは傑作である その狂暴な雰囲気、執拗きわまりない反復、作中人物の変身、純粋にシュルレアリスチックな物語の構造、不合理な観念連合、想像力の限りない自由、何が善であり悪であり、また何が美であり醜であるかについての原則の侮辱的な無視などに、ぼくは度胆を抜かれてしまった」

⭕️カルロス フエンテス 作家 批評家
「精神錯乱的で、詩的で、連想的で、皮肉で、鋭い社会批反に満 ち、要するにボッス的でしかもディケンズ的な…この秀作を読みながら、ぼくは息のあえぐのを覚えた…ラテンアメリカと言うだけではない…われわれの時代の偉大な小説のこれはひとつである」
⭕️「夜のみだらな鳥」の世界
語り手ウンベルトの物語は、貧しい小学教師の子として生れた少年時代から老年の 現在まで、その意識と無意識のなかに蓄えてきた怨念、執念のかずかずによって歪曲され、誇張されている。人物も話もその虚実が明らかではない。 しかしその場所は、 ほんどリンコナーダの迷宮的な屋敷と、これまた迷宮と呼ぶにふさわしいエンカルナシオン修道院のふたつに限られている。 ウンベルトの妄想は常にそれらの場所をめぐって発生し、亢進し、萎靡し、消尽していく。
『夜のみだらな鳥』 のなかでは時間的および空間的な転移が自在に、実に気ままに行われ、合理的な因果の関係もまた思いのままに無視されている。 登場する多数の人物の個々の像も不分明なら、彼らのあいだの関係も曖昧かつ矛盾に満ちていて、常に転倒の可能性をはらんでいる。 ある不可解な魔的な力が「時間と映像と平面とを混乱させてしまった」 (三八二ページ)世界が 『夜のみだらな鳥』 である。
⭕️修道院とリンコナーダは同一
語り手の《ムディート》がさりげなく呟いたように、修道院とリンコナーダは結局、同一の場所なのである。《ムディート》 の錯乱した意識が、鍵も意味も欠けている瞬間、呪縛された現在からその妄想を投影する、同一の、 一個の空間なのである。

⭕️ドノソの作者自解
「この『夜のみだらな鳥』は、 いわば迷宮的な、分裂病的な小説です。そこでは、現実、非現実、夢想、覚醒、夢幻的なもの、空想的なもの、経験的なもの、 これから経験されるもの、といったさまざまな次元のものが入りまじり、絡まりあっていて、果たして何が現実なのか、決して明らかではありません…わたしはただ、縺れあったオブセッション、テーマ、記憶などを小説に仕立てる可能性を試みただけです。もっとも恣意的なものを現実とみなした上で、分裂病的な世界を語ること。 三十八の、いや四十もの可能な現実がそこにはあるでしょう」
まさに百花繚乱の感があるラテンアメリカ小説のなかにあっても独自の世界を誇る『夜のみだらな鳥』 についてのこの作者の自解は、冒頭に引いたブニュエルフエンテスの言葉とともに、読者にとってもっともよい手引きになるにちがいないのである。

●一旦は納得した事がまた変化を見せていくあたりはめまいを覚えるが新たなつかみなおしにエネルギーは使うものの読み考える楽しみでもある。
●4回書き改められ8年の歳月をかけて完成した作品である。
終わり方の人知れず静かに何かが終わっていくあの感じがたまらなく良い。
今語っているのは誰なのか?どの時間軸の話なのか?屋敷なのか修道院なのか?ムディートなのかウンベルトなのか?幻想なのか現実なのか?頭の中を激しく揺さぶられるがそれが読み進めるうちに苦痛にはならずむしろグイグイと読み進めてしまう何か中毒性のある魅力的な作品だった。



【夜のみだらな鳥】ホセ ドノソ 感想 1

【夜のみだらな鳥】ホセドノソ 感想 1



エピグラフ

“分別のつく十代に達した者ならば誰でも疑い始めるものだ。人生は道化芝居ではないし、お上品な喜劇でもない。それどころか人生は、それを生きる者が根を下ろしている本質的な空虚という、いと深い悲劇の地の底で花を開き、実を結ぶのではないかと。精神生活の可能なすべての人間が生まれながらに受け継いでいるのは、狼が吠え、夜のみだらな鳥が啼、騒然たる森なのだ。”

その子息ヘンリーとウィリアムに宛てた父ヘンリー・ジェイムズの書簡より。


1
女中のブリヒダが死んでしまい ラケル夫人がすべて面倒を見た。葬式はブリヒダが晩年を過ごした エンカルナシオン修道院で行われた
修道院は持ち主のドン ヘロニモによって処分されてしまうという。
2
修道院 6人の老婆が孤児のイリス マテルーナに 話す昔話、地主の主人に9人の息子と1人の末娘がいた、村に魔女の噂が立つ 末娘を育てた乳母が魔女だということで追い詰められる 末娘は乳母をかばうが 修道院に隔離され乳母は殺される
そしてむらに平和が訪れた。
この話はアスコティア家の領土で生まれ国全体が知っている有名な話 アスコティア家の一族であるイネスも乳母のペータ ポンセに聞かされてもちろんこの話を知っているだろう。

イリス マテルーナは妊娠している6人の老婆はそれを隠して自分たちで育てようとしていた。
〈ムディート〉はそれに気付きシスター ベニータに知らせようとするが 老婆達に止められ 出産の為に誰にも気づかれない部屋を探してくるように頼まれる それに見合った地下室を見つけてくると 7人目の魔女として迎えられた。
3
アスコティア家には跡継ぎがいない。
イネスがローマにいる間、ヘロニモは突然修道院大司教に贈与するサインをした。〈ムディート〉の住んでいるエンカルナシオン修道院は昔は賑わっていたが今は3人の尼僧と老婆達と一年前に来た孤児達しかいない。
4
イリスはまだ生理が来ていないのに妊娠していることがわかる(まだ未成年)それに気づいた6人の老婆達はそれを奇跡の子と喜ぶ。6人の老婆達はこの話を誰にも知らせず出産させる計画を練る、生まれた子供には何も教えず自分たちを頼るしかない子供に育て大きくなっても外に出さずいつまでも世話をするつもり。そして自分たちを天国に連れて行ってくれるだろうと思っている。〈ムディート〉は修道院を手放すのをやめさせるためにイリスの子供をヘロニモの子供として引き渡し修道院を継いで欲しいと思っている。〈ムディート〉はその為にまず6人の老婆達に協力することにする 〈ムディート〉は昔ヘロニモの召使いだった。
5
〈ムディート〉はイリスにそそのかされ修道院の出口の鍵を開けてしまう。イリスは外で〈ヒガンテ〉というあだ名の男(ロムアルド)の手伝いをしたりして彼に夢中になった2人は幸福なカップルだった、その日からときおり鍵を開けイリスを外に出すようになった。〈ヒガンテ〉とはトルコ人に借りたお面をかぶりチラシを配るバイトをしている名前はロムアルド ムディートはそのヒガンテのお面を金を払うから貸してくれと頼む、ムディートはヒガンテのお面をかぶりチラシを配るするとイリスはいつものヒガンテと思い一緒にチラシを配る 夜になると2人は空き地の車のなかでセックスをする イリスは〈ヒガンテ〉のお面をかぶっているので〈ムディート〉とは気づいていない。
6
〈ムディート〉がイリスの父親なのである。ヘロニモにも成し得なかった女を妊娠させるという単純な能力が自分にはあるということに喜びを覚える。イリスが妊娠したとわかった時から〈ヒガンテ〉のお面は必要なくなった、〈ムディート〉はロムアルドにお面をつけずにイリスと寝れたら金を払うと賭けをする、ロムアルドは拒否されその後お面をつけた〈ムディート〉が現れるとイリスは落ち着いた。そこでロムアルドはお金を稼ぐ為に、イリスと寝れることを教えてお面を様々な人に貸す。すると議員や映画スターなども来るくらい評判になる、そしてある日 ヘロニモが現れる。ヘロニモがイリスと関係を持ったことで〈ムディート〉の計画は完璧になった、イリスの子をヘロニモの子供と信じさせ 修道院の後継となってもらうそうすれば修道院はなくならず、〈ムディート〉は永久に修道院に留まることができる。〈ムディート〉はとても貧しい家庭で育った、子供の時初めてヘロニモを見かけたことがあった背が高く高価なスーツを着て友人達と会話をするヘロニモを見て埋めるすべのない渇望の穴が空いた、その男の影でもいいから一体になりたいと思った、その日から消えることのない羨望と悲哀が耐え難い苦痛となり始めた。
7
金を払ってお面を借りたのにイリスと寝ることができなかった連中が暴れてロムアルドとイリスは痛めつけられる、お面もバラバラになり壊れてしまう。
8
イリスはずぶ濡れで中庭に倒れていた、老婆達は看病する 小人の老婆(ダミアナ)を赤ん坊と見立てオムツを替えたり世話をするようになるするとイリスは〈ヒガンテ〉のことはいっさい忘れてしまった。〈ムディート〉はある夜、影に隠れてイリスを見張っているとダミアナが新聞の読み方 文字の読み方を教えすべて自分でできるように教育していた。ダミアナはある日修道院から抜け出した。すべてを知ったイリスもムディートに外に出さないと〈ムディート〉の悪事をバラすと脅す、イリスは本当の父親を探したいだけ
〈ムディート〉は自分が探してくるから待っていろという 外に出ると 内側から鍵をかけられ締め出される。
9
外で泥棒と言われ警官にいためつけられ署に連れて行かれる〈ムディート〉、聾唖ということで釈放される。修道院に行って中に入れてもらう為に向かう。
10
ヘロニモはヨーロッパから戻ってきた、叔父にこっちで代議士になれと薦められるがきっぱりことわる。
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議員候補として活動するヘロニモ、パーティでイネスに出会う、一瞬で恋に落ちる。先祖の聖女と同じ名前になれて嬉しいというイネス そんな話は知らないヘロニモ 、ペータ・ポンセに聞いたという。ペータはイネスが具合の悪い時に看病してくれた命の恩人でイネスの大のお気に入り。ヘロニモはペータに会いハンカチをプレゼントされる、それが見事すぎてみすぼらしい老婆が美しいハンカチを生み出すことに恐怖し金だけ渡しすぐその場を去る、イネスは悲しむ、昔原因不明の腹痛の時にペータがお腹を吸ってくれて治ったことがあるとヘロニモに話す、ペータは魔女だから会うなと言うとイネスは怒りヘロニモの顔に傷をつける。結婚式は行われる、ヘロニモはイネスの体を求めるが拒否される、イネスはペータを引き離す事はしないと約束させる。
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ヘロニモは屋敷にいる黄色い犬をなぜそのままにしているのか小作人に尋ねるとイネスの命令という。
ある日投票所から投票箱が盗まれた、民衆が怒り出す、民衆はヘロニモを打ってしまい、騒動は終結するが本当に打たれたのはウンベルト(ムディート)だった。ヘロニモはその血を自分の腕になすりつけ名誉の負傷を自分のものにした。この事件を機に度胸のある男だとイメージアップにつながる。
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ヘロニモがいない時は必ずペータのところに行くイネス。傷を負ったウンベルトは修道院に戻るとイネスが手当をしてくれた、困ったらペータのところに行けと言われよく通ったそのうちペータはヘロニモをこの部屋に連れて来れば子供を授けることができるというがそれは無理な話、しかし教会で傷を分けあってからウンベルトもヘロニモである。ペータの力により隠れ家に吸い寄せられるように向かうウンベルト、部屋にはイネスがいた、イネスはウンベルトをヘロニモと呼んだ、セックスをする2人、ペニス以外には触れようとしないイネス、自分の存在を認めてくれと願うウンベルト、その時から彼は啞となった。
家に帰るヘロニモ、ウンベルトは頭も良いし何でも任せられるという、明日は首府で大切な演説があるのでどうしても眠りたいが黄色い雌犬が窓の下で吠えて眠れない。イネスは「そっとしておいたら」という。この数時間彼女が口を聞いたのはこれが初めて。ヘロニモは黄色い雌犬を殺そうと4匹の飼い犬を連れて行く、止めるイネスを振り切り飼い犬はあっという間に息の根を止めた。しかし後日庭師にウンベルトが確認するが誰も知らず本当に黄色い犬が死んだのかは誰にもわからない。
イネスの懐妊が知らされる、実際はイネスではなくペータと寝たのだろうと考えるウンベルト、それから性を取り戻したペータはウンベルトを追い回す。それが嫌なウンベルト、ヘロニモはイネスが妊娠したのでセックスできずウンベルトを連れて娼館に行く、自分のセックスを見ててくれと頼む、ヘロニモはウンベルトの羨望と軽蔑の眼差しがないとセックス出来ない。ウンベルトの存在が深く中に入ってしまっている、見捨てないでくれと願うヘロニモ。
ペータが修道院の周りをうろついている、しかしわかるはずがないアスーラ博士によって顔がすっかり変わっているから、その目を除いて。
ヘロニモはイネスを連れ出すことが出来た、子ども〈ボーイ〉を産む事ができたがそれは、いっそ殺した方がいいというような奇形だった。
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ヘロニモはリンコナーダの屋敷を改造し完全に外と遮断した。〈ボーイ〉に与えるものは下品であってはならず怪異とは美と対等だと考える。ウンベルトに奇形を集めさせその中でボーイを育てようと考える〈ボーイ〉に外の世界があるとわからせないようにウンベルトはいっさいを任されるそして作家なのでそれを記録するように頼まれる。奇形たちはヘロニモにたっぷりの報酬をもらっておりみんな着飾って屋敷に集合したそして部屋を決めそれぞれの生活が始まる。
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ヨーロッパで優秀な医師で自身が奇形のアスーラ博士を見つける。生まれた時すぐ死ぬだろうと言われていた〈ボーイ〉にアスーラ博士が生命を危うくする異常をすべて取り除いた。しかし奇形ではなくさないで欲しいと頼まれていた。ウンベルトは書斎を作りものを書く準備を始めるが書こうとすると胃が痛む、リンコナーダに閉じ込められてる気がする。〈ボーイ〉がげりをしているという、中庭を歩いていると住人のミス ドーリーが自分の乳をあげているのを見つけるウンベルトはすぐ首にし外に追い出す。
ボーイは1人だけ健常者のウンベルトを見て怖がる、それを見たエンペラトリスのかっこうの餌食になった。みんなが自分を笑っているような気がする、書こうとするがなにもかけず具合の悪さにタイプライターの上に崩れ落ちる。
アスーラ博士が診察する、奇形たちの血をウンベルトに輸血する奇形たちは自分の血を欲しがっている。
自分は奇形たちの寄せ集めなのだ。
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ヘロニモは手術に全力を尽くせという体の80%は切除され残ったそれは20%しかない。非常に重体で命を落とす寸前だった。ヘロニモは長い間かけた計画がまもなく完了すると言っている。
ウンベルトは若い頃家出してバーエルクレスで働くロシータと同棲していたそこにヘロニモが訪れカウンターのロシータに手紙を渡して帰る、そこにはウンベルトに明日の10時に屋敷に来てくれと書いてあった。
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最初からすべてがヘロニモの計画だった、イネスは針にくらいつかせるための罠、異形の者たちを支配し彼に代わってその嫡子の父となる事、これが最後の誘惑。ウンベルトはそれに食いついた。ベッドに縛り付けられ死ぬ事も許されずどうするつもりなのだろう。大手術が行われるという、ウンベルトの器官をヘロニモに移植する。ウンベルトにたぶらかされ下の腐った老婆とセックスさせられてからヘロニモの性器は役に立たなくなってしまった一方ウンベルトは従順を装いイネスと寝た、妻の体に触れたこの下衆な男の性器を自分に移植しようとしていた。それを聞いたウンベルトは美しいイネスに触れるという禁じられた壁を超えた事がわかった今自分の性器などどうでもよく平安と愉悦を覚えた。6人の老婆たちがムディートを迎えに来る、すべてが自分のために仕組まれていると気付いてウンベルトはリンコナーダから逃げ出す。実際交換手術がどこまで行われたかはわからない、まだされていないようにも思える。修道院に戻りたい。イネス夫人の帰国の噂が聞こえた来た。
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ラケル夫人は亡くなったブリヒダの残した莫大な遺産の処分に困っていた、シスターベニータに新しい病院を建てるのでそこにいって欲しいと頼むがシスターは断る。
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競売人達が来て、ものをすべて運び出していた。イリスの妊娠は長く続いていた、秘密の計画を知るものは7人ではなくなっており噂が噂を呼びたくさんに増えていた。
ムディートはアスーラ博士の手術で20%の体になっていたので小さく縮み病弱な目だけの様な人間になってしまった。〈ムディート〉はイリスの赤ん坊の人形になっておしめを変えられている。イリスはずっと父親を探してきてくれと〈ムディート〉に頼んでいる夜になると〈ムディート〉は外に出て探しに行くが毎回戻ってきてはでっち上げの話をイリスに話す。
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イネスが戻ってくるという、そうすれば修道院も壊されないだろうという
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イネスは福者であるイネス・デ・アスコティアの遺体が修道院に埋葬されていると聞いてそれを見つけたい
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イネスは子宮摘出のためにヨーロッパに行っていた ヘロニモに60を過ぎても体を求められるのが嫌だった。そしてそれをつげたとき修道院の売却が決まった。アスーラとエンペラトリスは結婚して病院を営んでいた、ウンベルトがいなくなりボーイは自由に暮らしていた。ボーイは青年期になるにつれ押し込めておくのは不可能になってきた。
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イネスは屋敷から自分の服やアクセサリーを持ってこさせてドッグレースの賭けを老婆達とする自分はみすぼらしい服をもらい豪華な服などを老婆達と交換する。
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イネスが手術をしにヨーロッパへいったのはペータになるためだペータはイネスになりイネスはペータになりたかった、アスーラの病院ではペータの器官が保存してありそれを移植したヘロニモとイネスが電話で話すイネスを養子にして修道院を継がせるというイネス、ヘロニモは反対する。イネス、イリス、ウンベルトは一体と確信した願望はヘロニモを消す事。
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ある朝イリスのベッドで目覚める〈ムディート〉イリスの赤ん坊が生まれた。奇跡の子と望まれ続けた〈ボーイ〉とは〈ムディート〉だった。
イネスとイリスはかけをやり続けるイリスは賭けるものがなくなり赤ちゃんをかけるという、イネスは賭けに勝ち子供はイネスの物に、イネスこそ福者イネス・デ・アスコティアなのだとみんなが崇めた。イネスは赤ん坊を連れて寝室に行くが寝るときに犯されそうになり修道院から出て行くという。気がおかしくなり救急車で病院に連れて行かれた。
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アスーラ博士は青年期の〈ボーイ〉が逃げ出した事によりヘロニモが復讐してくると考えエンペラトリスと逃亡しようと考える2人は街を歩いていると乞食に呼び止められる、ウンベルトだった
ヘロニモを抹殺する事を約束して欲しいという。
〈ボーイ〉が屋敷に帰っていた、五日間の外出で自分の父親が何者で何を企んだか、死んだら財産が入る事エンペラトリスとアスーラに虐待され続けてきた事などいろいろと知って帰ってきた
〈ボーイ〉は計画を建てた、ヘロニモがここに来る、ヘロニモの滞在をできるだけ長くする。外の世界を抹殺するつもり、外に出た時、娼館で娼婦に触らせてもらえなかった、五日間外に出てみて生きる事への興味を失ったのでアスーラ博士に手術を頼む、五日間の記憶を消して昔の何も知らない自分に戻して欲しい。手術も終わり父親もいなくなったらいっさいをアスーラとエンペラトリスに譲るという。アスーラは犯罪に手を貸すのはごめんだという。
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ヘロニモは〈ボーイ〉に会いに来たがボーイは警戒して近づいてこない(演技)何日かかけて慣れてくると近づいてくるようになるが小突かれたり 奇形とセックスを強要させられたりする。
〈ボーイ〉は悩んでいた父の記憶も消して欲しかったそれをすると植物人間になってしまう。ヘロニモはここからは中に入って暮らす事が必要と言われるがその夜、犬の格好をさせられたり奇形に罵られたりした事でその晩そこを出る事に決めた。しかし外に出ることはできず、裸で逃げ回っていると奇形達はみんな綺麗な格好をしてヘロニモを笑い者にした。そこでヘロニモは奇形は自分なのだと精神的に追い詰められ池で溺れて死んでしまう。
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〈ボーイ〉=(ムディート)が生まれ老婆達はこれで神の子に天国に連れてってもらえると喜んでいる。イリスの事はもうどうでも良いと言う。イリスは〈ムディート〉が夜鍵を開けて外出させてくれていた事などすべて老婆達に話すがイリスが嘘つき呼ばわりされ老婆達に仕打ちを受ける。娼婦の格好をさせられ無理やり外に出され 男に連れて行かれてしまった。
老婆達は食いぶちがなく外に出るようになる。万引きやたかりをして生活するようになる。老婆達はムディートの面倒を見なくなっていた理由は奇跡といった受動的なイメージを投影する物質に過ぎなくなってしまったため。イリスを外で見かけたものがいた。ここに来たがっているように見えたそう、子供は絶対に渡さないと誓う老婆達、奇跡を早くと願う老婆達 ムディートはくる日もくる日も何重にも袋を縫い重ねられもう何も見えない。かすかに老婆達の祈りが聞こえる。
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神父が、37人の老婆達を迎えに来た。新しい修道院に向かうという。ブリヒダの遺産でラケル夫人がシスター・ベニータと協力して建てたものだ
一週間後に取り壊しが始まりそこには図書館や体育館、その他いろいろな施設ができるという。点呼を取るとイリスがいない事に気づく神父、老婆達に聞くと 誰も知らないと言う。
出発しようとすると人夫が次から次へと大きなカボチャを持って現れた、1年前にラケル夫人が送った五百個の大きなカボチャだった。
老婆達は新しい修道院に向かう

〈ムディート〉は袋に包まれたままだが、近くに気配を感じる、咳が聞こえる。その気配を見たいと袋をかじり懸命に剥いでいくと皺だらけの手がまた縫い付けてくる。【新しい包み】ができる。老婆は大きな袋の中にマテ茶やいろいろな物やゴミと一緒に【新しい包み】も入れ外に出る
外で焚き火をしている。牝犬が近くに寄ってくる、火が消えそうになり袋のものを全部開けて火の中に放り込む。

“老婆は立ちあがり、袋をつかむ。 口を開いて激しく振り、なかのものを火の上にあける。木つば、ポール紙、靴下、ぼろ切れ、新聞、紙切れ。がらくた。 なんでもいいのだ、火が少しでも強くなって、寒さをしのげれば。 燃えにくい布や紙などの、きなくさい
臭いも気にならない。風が煙や臭いを吹き飛ばしてしまう。老婆は石の上にうずくまって眠ろうとする。もうひとつのぼろ包みのように見捨てられた人間のそばで、しばらく火が燃えているが、やがて火勢が衰え始める。残り火も弱まり、ひどく軽い灰に蔽われて消える。風が灰をさらっていく。あっという間に橋の下には何も無くなる。火が石の上に残したまっ黒な跡と、針金の把っ手のついた黒ずんだ空缶だけになる。風が空缶を引っくり返す。空缶は石の上をころがり、河のなかに落ちる。”


感想は次に

http://kawa06shin08.hatenablog.com/entry/2016/04/02/055353

【華氏451度】 レイ ブラッドベリ 新訳 感想 2

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挿絵が良い。

 

面白かったところ。

 

エピグラフ

 

‘ もし連中がルールド・ペーパーをよこしたら、逆向きに書きなさい’

                                ファン・ラモス・ヒメネス 

 

〔ルールドペーパーとは、ふつう罫紙のことだが、ルール(規則)つきの紙とも解せる。その場合この文は「もし連中がルールを押しつけてきたら、反逆しなさい」の意味になる。

 

★始まりの文章

 

火を燃やすのは愉しかった。

 

この一行からの始まりに ぐっと引き込まれる。

 

あとがきから

 

今ではアメリカの国民文学に準じる地位まで押し上げられている。

 

トリュフォー火星年代記を映画化しようとブラッドベリに連絡すると 答えはノー 代わりに 華氏451を推薦された 理由は ブラッドベリ火星年代記の脚本を自分で書いていたため

 

 

個人的感想。

先にトリュフォーの映画を見た。 とても気に入り 原作を読んだ。

 

  全てが急速に発展し何もかもが便利になっていく世の中で、失いつつある大切なものを 大事にしなくてはならない、という事がとてもシンプルに書かれていると思う。

 

まさに自分達の生きる時代のテーマでもあるような話であり、普遍的なものに感じる。

 

ジョーオーウェル1984年も似たような題材であるが、個人的には華氏451にとても惹かれるものがある。決められた日常から抜け出そうと懸命にもがくモンターグに深く共感し物語に強く引き込まれる。

 

本が焼かれる時代に森に隠れて暮らし、本を丸ごと頭に入れて未来に残そうなんて、 本好きにはとても魅力的なテーマである。

 

自分達の生きる現代も紙の本、 レコード、 カセットテープ、ビデオテープなど 古いアナログなツールはことごとくデジタル化されていき、 自分のように古い映画、本 、音楽 が好きな人間には、情報を集めにくくなるが、世界にはたくさんの  “渡り労働者のキャンプ” があちこちにあり、これからなくなっていくような愛すべき物たちを後世に残していこうとしている人々がたくさんいると思うと。

とても勇気づけられる 自分もそういう側の人間でいたいと強く思う。