【別荘】 第一部 ホセ ドノソ 感想

【別荘】第一部 ホセ ドノソ 感想 80/100

第1部 出発
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私がこの小説の中心に据えようとしているハイキングは夜明けと同時に出発するのが絶対条件。(この物語を書いている作者が語っているという。表現が使われている。)
親達は33人の子供達を残してハイキングに出かける計画を立てている。
別荘の周りに出没するという人喰い人種 毎年マルランダに避暑に来ると大人達が不機嫌な顔で触れる程度だったが ウェンセンスラオ(9)♂が不吉なことばかり口走るせいで現実味が帯びてきた。

あの夏、我々がこの物語の出発点として想像した夏、一家がマルランダの別荘に腰を落ち着けるや否や子供達が何かわるだくみを張り巡らせていることに気づいた。大人たちは首を切られナイフで刺される夢を見た。ハイキングに出かけるという計画はあまりの不安に苛まれていたベントゥーラ一家が言葉を失いかけていたちょうどその時だった。子供達が何を企んでいるにせよこれほどよい口実はなかった。
大人たちは原住民に景勝地の存在を確認し計画を立てた、不愉快なことを忘れピクニックの計画を立てる事に夢中なった。他方子供達は自分たちを見捨て安全地帯に逃げる親達の後に人喰い人種が襲ってくるに違いないと思うようになる。
親族達に塔に幽閉されている アドリアノ ゴマラ(ウェンセンスラオの父)は自分も参加させろと言わんばかりに 助けてくれ 殺してくれと叫び続けた。気狂いの叫び声にベントゥーラ家は彼に狭窄衣を着せ猿轡を噛ませた。
親達が出発した少し後ウェンセンスラオは父(アドリアノ ゴマラ)の叫び声が病んでいる事に気付いた。鎮痛剤で眠らされている事に気付き急いで塔に向かう。その途中図書館にこもりきりのアラベラ(13)♀に会う、彼女は親達に旅行の話が持ち上がった時、的確な情報をさりげなく補足し彼らの注意を旅行へと引きつけたのはアラベラだった。
ウェンセンスラオはアラベラにこんなにたくさんの本を読んでどうするのかと聞くとアラベラは本を見てみたいかと言う、見てみると本は背表紙だけで中身はページも文字もない空っぽだった。
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アラベラは本当に博識なのか単なる思い込みではないかと思った。本の中身がない事は大人達は皆知っていた、祖父がこの部屋を作らせた理由は見掛け倒しの自由党員に「いかにもエリートらしい無知な人物」と評された事がきっかけだった。
ウェンセンスラオは人喰いの話などはなから信用していなかった。原住民達は今は肉も食べずむしろその肉はベントゥーラ一族の食卓に並んだ、そんな今の原住民わ見ても残忍な種族をなしていた事など想像もできなかった。
使用人をまとめるのはエルモヘネスの妻リディアだけ、子供達を24時間体制で厳しく管理させていた。しかし子供達もまた使用人一人一人を知り尽くしていてうまく利用する事も心得ていた。
いとこの中で最年長のフベナル(17)♂はハイキングへの参加を拒んでいた。大人達も留守中大人達の代わりをしてくれるだろうと期待した。
大人達と使用人すべて出払った、ウェンセンスラオは大人達は帰ってこないとみんなに伝えた。
ウェンセンスラオは四年ぶりに父に会いに行った、狭窄衣にくるまれ口には猿轡、目は包帯で覆われていた。ナイフを取り出しすべてを取り除いた鎮痛剤のために眠ったままだったウェンセンスラオはちょくちょく父の唇に水を滴らせたやがてゴマラは横にいるのが息子だと気づく。
第二章 原住民
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マルランダで過ごす三ヶ月のバカンスはベントゥーラ一家にとってははるか昔から変わる事なく続けられてきた行事。
一族の繁栄の基盤であるという信念を子供達に植え付けるためにこの三ヶ月はある。もし家族が離散するような事があればそれはゴマラが原因である、アドリアノ ゴマラは腕ききの医師であった、白痴女のバルビナ ベントゥーラはゴマラに惚れ込んで結婚した。
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あまりにも素性の違う一家に入ったアドリアノ ゴマラは、程なくして表面上はベントゥーラ一家に溶け込んだ。結婚後初めてのバカンスでは別荘の近くの集落の原住民を治療するのが医師の務めと考え主張したが一族にいやな顔をされ夜明け前に集落に行き内密に診療していた。
アドリアノは原住民に病気が流行しているのは汚水のためだと気付き集落を引っ越しさせ原住民の生活は清潔になり一変した。
バルビナは三人目の子供を出産しウェンセンスラオと名付ける。ベントゥーラ一族らしい金髪と青い瞳の可愛い男の子。その前に生まれた2人の娘は色黒で醜かった白人の2人からなぜ生まれたのかわからないくらいだった2人の娘は自分たちも哀れに思われている事に気づいていた。ミニョン妹(6)♀と(アイーダ)姉(8)♀はある日喧嘩してミニョンはアイーダの髪の毛に火をつけた、アイーダは坊主にするしかなかった。
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アドリアノは今日は自分の誕生日だから他の家族から解放されて自分と妻と子供達だけで水入らずで過ごそうと提案する。バルビナは原住民のところには行って欲しくなかった、アドリアノは今日一緒に行ってくれたら明日からは行かないと約束し原住民のもとに行く事に。
屋敷に隠された地下を降りて原住民に会いに行く、アドリアノが家族を先導する中に入っていくと豪華絢爛な綺麗な洋服やアクセサリー、絨毯、毛皮など様々なものがあった。アドリアノはここで見たものはすべて忘れろ、ベントゥーラ一族のものも誰も知らないと言う。
ベントゥーラ一族はこの土地に越してきて原住民達の服や装飾品を取り上げた、それがこの地下の装飾品である。そして土地も奪い自分たちの立派な別荘を建てた、取り上げた装飾品を取り返されるのを恐れ地下深くに装飾品を隠した。地下通路を抜けて川べりに原住民がいた。アドリアノの誕生日を祝福し豚を殺して捌いていた、これからその肉を持ってきてくれるというが人肉かもしれないし食べられないとバルビナは言った。アドリアノと子供達は食べるという、バルビナは呆れて集落の外に止めてある馬車に向かって歩き出した。アドリアノと子供が釜に近づくとリンゴを口にくわえ頭にハーブの冠をした豚の頭が出てきた。娘2人は驚いて母のもとに走り一緒に馬車に乗って先に別荘に帰った。
ウェンセンスラオとアドリアノが別荘に戻るとミニョン(6)妹がお父さんにプレゼントがあると地下に案内する。かまどで何か焼いておりお父さんに食べて欲しいという。かまどから出てきたのはリンゴを口に詰め込まれ笑顔を浮かべたアイーダ(8)姉の顔だった。アドリアノは気が狂ったように鞭でミニョンを殴り続けたこの騒動に駆けつけた使用人や従兄弟達もかまわず殴り続け血まみれになっていった。ようやく数十人で押さえつけ手足を縛り猿轡を噛ませ塔の中に押し込んだ。
ベントゥーラ一族の女達はミニョンがアイーダの頭を丸焼きにしたのは原住民の儀式を見た影響だと噂しあっていた。その後の捜索でアイーダの頭は見つからなかった。バルビナは徐々に事件のことは忘れていったが息子のウェンセンスラオを男として受け入れようとせず女の服を着せスカートを履かせ髪を巻き毛にしたウェンセンスラオは母のためにそれを受け入れた。バルビナは幼年期に退行した。バルビナはウェンセンスラオのことを決して離そうとはしなかったがハイキングには特例としても連れて行くことはできないと断られ35人の子供達は例外なく残ることになった。
第三章 槍
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大人達は出かけ子供達だけになった。ウェンセンスラオはいつもの女の子のかっこうではなく髪を乱暴に切って青いズボンをはいた姿で現れみんな驚いた。
2シルベストレとバレリオの間に生まれた四兄弟
マウロ(16)♂バレリオ(15)♂アラミロ(13)♂
クレメンテ(6)♂は常に模範の家族であったが四兄弟が仲違いする象徴的な事件があった。10歳の時マウロはマルランダの柵の本数を数えた一万八千六百三十三本ある日父が誕生日プレゼントに欲しいものと聞くと鉄の槍が欲しいと言った父が自作の槍を作って渡すと本物と違うからいらないという同じものを作ることはできないときつく叱られる。マウロは表面上おとなしく振る舞いよく見ると一本一本が違う槍を事細かく調べその中の完璧な一本にメラニアと名付け愛を注ぐことにした。その間いとこのメラニア(16)♀はマウロより早く成熟し周りからの存在感を高めていったマウロは大勢の中のひとりでしかなかった。そんな自信に満ちた彼女を自分のものにするとはどういうものなのか?槍のメラニアを抜くことにする早朝にばれないように慎重に槍を抜き抱きしめて芝生に横になったそれ以来、来る日も来る日もその一角に足を運び槍を抱きしめ横になった。
マウロはしきりにアデライダ家へ赴きメラニアにすり寄ったが槍のメラニアの感触を取り戻すためにそうしているのかいとこのメラニアと進展したくてそうしているのか自分でもわからなくなっていた。しかし成長したマウロは次第にメラニアとカップルとして認められるようになる。
マウロは弟のバレリオに槍の秘密を教えその隣の槍も抜き槍の隙間から見えるその無限を味わって楽しんでいた。そのうち短時間外に出て歩き回った。その夏2人は9本のやりを抜いた。
来る夏も来る夏もこの意味不明の単純作業を続けた。あまりにも多くの柵の量に弟2人の助けを求めたのはハイキングの前年のことだった。4人は一族のエリートだがそれに反する作業を遂行している。一つだけマウロが確信していたこと作業が完了し柵が崩れ落ちればいとこのメラニアに対する感情が明らかになる。
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34本目の槍を抜くとそれはすでに抜いてあり簡単に抜けた。そのあとの槍はすべて抜けていた、マウロは悲しくなった。次々と槍を抜き始めるといとこ達が集まってきてやり抜き遊びに一斉に殺到したすべて抜いてしまい皆はそれぞれの遊びに戻っていった。
ウェンセンスラオは幼いいとこ達だけを集め槍を与えグラミネアの荒野に入っていき自分の周りに座らせた、原住民達は何十年も前から柵を外していた、友好の証にいとこの数と同じ33本を残していた。槍は原住民達の名戦士達の武器でありベントゥーラ家の祖先が彼らを打ち負かし武器を奪い防護柵に使ったと子供達に説明した。ウェンセンスラオ達の周りを年長のいとこ達が囲んでいた、幼い子供達にこっちに来いと声をかけると皆ウェンセンスラオを残して兄達の元へ戻っていった残されたウェンセンスラオは兄達に向けて槍を構えるが押さえつけられる。マウロは後ろでその光景を見ていたがウェンセンスラオの説明には説得力があった。押さえつけられながらウェンセンスラオはいった「親達は帰ってこない何年も前から計画されたことで 今年の夏になって父さんがみんなの頭にハイキングの話を吹き込むことに決めたんだ」

見張りが寝たのを見計らってウェンセンスラオは父と話していた、何年か前に父さんに言われ自分の母に楽園の話をすると、それは親戚中に広まったアラベラに地図を作らせ子供達も親達に質問するようになると親達はやがてその楽園が実際に存在するかのような話をし始め次第に自分達で楽園が現実のものであるかのように作り上げていった。とウェンセンスラオは皆に説明すると皆あっけにとられた、マウロはでも楽園は存在するんだろうと質問するとウェンセンスラオは「知らないよ」と言った。
ラニア(16)は槍を抜いたりする悪童達から離れサロンの中に隠れていた。フベナル(17)♂とメラニアはこの騒動を解決する術を考えていた。
第四章 侯爵夫人
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盲目のセレステ(52)♀はメラニア(16)♀に自分の夫オレガリオの注意がいってほしいと思っていた。
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フベナルはイヒニオ(15)♂とフスティニアノ(15)♂を呼び出したが2人は互いの性器を触りあって興奮していた。フベナルは2人を叱りつけた、呼び出した理由は隠してある武器を盗むため、イヒニオは反対して走り去り、フスティニアノは酔いつぶれて寝てしまった。
フベナルは1人で銃を取りに行った盗んだ鍵と会う扉を見つけ開けるとたくさんの銃が自分の上に倒れてきて執事に見つかったが執事は散乱した武器を瞬く間に片付け何も罰されなかった。
第5章 金箔
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この物語で中心的役割を果たすエルモへネス(55)♂と妻リディアには7人の子供がいる、前章の事件は完結していないがここで他の話にも目を向ける。コロンバ(16)♀の双子の姉カシルダ(16)♀が自己救済の為に謀り巡らせていた荒唐無稽な計画の話。
柵の撤去で大騒ぎの時カシルダは父の執務室でファビオ(10)♂と一緒だったカシルダはこの騒動で自分達の作業に気付かれなくて済むと考えた、大人達も帰ってくると信じていたそうでなければ金を置いて行くはずがないと思っていた。
ティオアドリアノが降りてくるという噂だけは本当の危機を意味していた。エルモエネスの執務室へ来て金を押さえにかかると思っていたので2人は作業の手を早めることになる、カシルダはイヒニオを仲間にさそいこむ、ファビオは鉄扉を開ける鍵を作り続けた。
鉄扉は開き3人で中に入った中に金があることを突き止めるとカシルダはこの金を持って別荘から逃げる計画を伝える。馬を調達し馬車が動くか確認する。
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カシルダとコロンバは双子で瓜二つなのだがコロンバひ美少女でカシルダはお世辞にも美しいとは言えなかった。ファビオはコロンバと付き合っていたが生理が来たことでファビオは汚らわしいと考え遠ざけるようになる、しばらくしてファビオに部屋に誘われたコロンバは生理のきていないカシルダを自分のかわりに行かせた。カシルダは性交の終わった後自分はカシルダだと正体を明かす。
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エルモエネスはベントゥーラ一族の金の外国人との取引を、一手に引き受けていた。会計士として12歳からカシルダに教育し彼女は金についての知識を正確に把握した。カシルダは父のそばで鉄扉の番号を読み取り鍵の形を写し取っていた。ある時原住民から粗悪な金を受け取り怒ったエルモエネスは鉄扉の中に初めてカシルダを入れ粗悪な金を見せた。それ以来カシルダは鉄扉の中に眠るベントゥーラ一族の金を見てみたいと思うようになる。
第6章 逃亡
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ファビオとイヒニオは馬車を確認しに行った、カシルダは外を見ると原住民がこっちを伺っていた、それは粗悪な金をエルモエネスに掴ませた、ペドロ クリソロゴだった。なぜあんなところにいるのだろうと思った。部屋の中で声がした、マルビナ(15)♀だった、怒ったカシルダはマルビナを締め上げ床に押し付けた。マルビナはすべての話を聞いていた。自分も連れていってほしいと言う。
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マルビナはウェンセンスラオと原住民の関係やマウロとその兄弟の事など色々な事をよく知っていた。その中でもカシルダの計画に自分は誰よりも貢献できると考えていた。マルビナは全て話すから連れていってくれと頼む、ペドロクリソロゴを知っているかと話し出す。マルビナには盗み癖がありいつかここを抜け出すために小銭を盗んでいた、隠すところに困っていたところ柵の近くを歩いていると槍を掘り起こす原住民を見た。2人の原住民はシャベルの扱いに長けていたので敷地内に入れ穴を掘ってもらいその中に隠した。やがて原住民が他の子供達を連れてやってくるとみんなで盗んだお金を隠すようになったやがて互いに成長しお互いを理解した。皆につまはじきにされていたマルビナはその辛さをペドロクリソロゴに味あわせるために偽物の金を売らせ原住民は買取を停止されペドロクリソロゴは原住民から白い目で見られその後完全なのけ者となった。マルビナは金の価値と機能を教え込み指導者としてまつりあげられた原住民はやがて労働の対価があまりにも少ない事に気付き始めた。
ファビオとイヒニオは馬車はどうやっても動かない事を痛感した。彼らの元にカシルダとマルビナが近づいてきた、主導権を握っているのはマルビナだった。厩舎のあちこちから原住民が現れマルビナは全員のほおにキスをした、原住民に色々説明をすると馬車を引っ張り動かした、4人は馬車に乗り原住民が引く馬車はグラミネアの荒野を疾走した。暗くなるとマルビナとその部下達は馬車の中に金を運んだ、ペドロクリソロゴの合図で出発し次第に遠ざかっていく別荘はやがて小さくなり暗闇に消えた。
第7章 ティオ
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ラニアが「侯爵夫人は5時に出発した」の芝居をするという。昔からいとこの子供達でやっている遊びで、外で騒いでいた子供達はすっかり静まり返った。その間にフベナルはマウロを連れてきて芝居を始めさせた。フベナルは飽き始めたいとこ達にも役を振ったアラベラがティオアドリアノが降りてきたらこんなことはしていられないから早く終わらせないければと言う
子供達は置き去りにされたこの別荘で乱痴気騒ぎを始めてしまった、「侯爵夫人は5時に出発した」の最終エピソードが展開している間に起こった様々な事件を契機に子供達は恐怖の事態に巻き込まれる事になる。子供達は大人達のクローゼットをあさりそれぞれに豪華な衣装を身につけた。
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フベナルは「侯爵夫人は5時に出発した」で皆の気をそらすことは出来たが、日も暗くなり食事と服を求めて母を呼び始める子供達を騙し続ける気力はもうなかった。
ウェンセンスラオはフベナルの目論みが侯爵夫人を口実にいとこ達の気をそらす目的なのを見抜いていた、ウェンセンスラオは塔にいる父に会いに行き、行動計画を聞いた。
マルランダ全体を支配下に置き侯爵夫人に参加する者は容赦なく排除する、問題なのはメラニアとその取り巻きである食料庫の鍵を握っているのはフベナルであり食料配分を効率的にこなすコロンバもいる、これらを敵にまわしてどうなるのか?ウェンセンスラオは父の計画に賛同しかねていた。一方マウロはアドリアノに心酔しており彼の言う事に反対する奴はただではおかないと思っていた。ウェンセンスラオがアドリアノの意見に賛同しかねる事を知り ウェンセンスラオへの不信感が刻み込まれた。
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テラスから敷地を見たウェンセンスラオは木立の茂みに隠れた見事な衣装をまとった集団に気づいた、遊びにかけるいとこ達の熱気も不穏な夜が近づくにつれ薄れていった。
敷地の外のグラミネアが敷地の中に押し寄せてくる、次第に人間の形を取り始め毛皮やお守りをまとった原住民の姿に変わった。誰もがその光景に目を奪われた先頭に立っていたのは颯爽とした若き戦士であった。その巨人の戦士はよく見ると姉2人を失ったあの日豚の乗ったテーブルの脇から頸動脈に錐を打ち込み女達の支えるどんぶりに血がうまく流れるように見張っていたあの若者だった。


ここまで第一部 終わり

【夜のみだらな鳥】ホセ ドノソ 感想 2

【夜のみだらな鳥】ホセ ドノソ 感想2
100/100
あらすじ
植民地時代からの名門の当主である ドン ヘロニモ アスコティアは、同じ上流に属する従妹のイネスと結婚し、上院議員として政界に重きをなす。やがて待望の子供が誕生するが、これがこの世のものとは思えない、異常な奇形で、初めてわが子に対面したドン ヘロニモは殺害を考えるが 思いなおす。腹心の秘書、ウンベルト ペニャローサにその養育すべてをたくす。ウンベルトはその子供〈ボーイ〉とともにリンコナーダの屋敷で幽閉の生活に入る、主人の伝記の執筆に取り掛かるが、胃病のために大吐血 病み衰え、やがて年もとった彼は、昔からアスコティア家の使用人すべての落ち着き先と決まっていた、エンカルナシオン修道院におくられる、そしてそこで聾啞の〈ムディート〉の仮面をつけて、僧や老婆や孤児たちのなかで暮らしながら、悪夢のような彼自身の伝記を語り始める。
●解説がとてもわかりやすかったので解説からいろいろと
⭕️ルイス ブニュエル 映画監督

映画化の強い願望を表明しながらこう評した
「これは傑作である その狂暴な雰囲気、執拗きわまりない反復、作中人物の変身、純粋にシュルレアリスチックな物語の構造、不合理な観念連合、想像力の限りない自由、何が善であり悪であり、また何が美であり醜であるかについての原則の侮辱的な無視などに、ぼくは度胆を抜かれてしまった」

⭕️カルロス フエンテス 作家 批評家
「精神錯乱的で、詩的で、連想的で、皮肉で、鋭い社会批反に満 ち、要するにボッス的でしかもディケンズ的な…この秀作を読みながら、ぼくは息のあえぐのを覚えた…ラテンアメリカと言うだけではない…われわれの時代の偉大な小説のこれはひとつである」
⭕️「夜のみだらな鳥」の世界
語り手ウンベルトの物語は、貧しい小学教師の子として生れた少年時代から老年の 現在まで、その意識と無意識のなかに蓄えてきた怨念、執念のかずかずによって歪曲され、誇張されている。人物も話もその虚実が明らかではない。 しかしその場所は、 ほんどリンコナーダの迷宮的な屋敷と、これまた迷宮と呼ぶにふさわしいエンカルナシオン修道院のふたつに限られている。 ウンベルトの妄想は常にそれらの場所をめぐって発生し、亢進し、萎靡し、消尽していく。
『夜のみだらな鳥』 のなかでは時間的および空間的な転移が自在に、実に気ままに行われ、合理的な因果の関係もまた思いのままに無視されている。 登場する多数の人物の個々の像も不分明なら、彼らのあいだの関係も曖昧かつ矛盾に満ちていて、常に転倒の可能性をはらんでいる。 ある不可解な魔的な力が「時間と映像と平面とを混乱させてしまった」 (三八二ページ)世界が 『夜のみだらな鳥』 である。
⭕️修道院とリンコナーダは同一
語り手の《ムディート》がさりげなく呟いたように、修道院とリンコナーダは結局、同一の場所なのである。《ムディート》 の錯乱した意識が、鍵も意味も欠けている瞬間、呪縛された現在からその妄想を投影する、同一の、 一個の空間なのである。

⭕️ドノソの作者自解
「この『夜のみだらな鳥』は、 いわば迷宮的な、分裂病的な小説です。そこでは、現実、非現実、夢想、覚醒、夢幻的なもの、空想的なもの、経験的なもの、 これから経験されるもの、といったさまざまな次元のものが入りまじり、絡まりあっていて、果たして何が現実なのか、決して明らかではありません…わたしはただ、縺れあったオブセッション、テーマ、記憶などを小説に仕立てる可能性を試みただけです。もっとも恣意的なものを現実とみなした上で、分裂病的な世界を語ること。 三十八の、いや四十もの可能な現実がそこにはあるでしょう」
まさに百花繚乱の感があるラテンアメリカ小説のなかにあっても独自の世界を誇る『夜のみだらな鳥』 についてのこの作者の自解は、冒頭に引いたブニュエルフエンテスの言葉とともに、読者にとってもっともよい手引きになるにちがいないのである。

●一旦は納得した事がまた変化を見せていくあたりはめまいを覚えるが新たなつかみなおしにエネルギーは使うものの読み考える楽しみでもある。
●4回書き改められ8年の歳月をかけて完成した作品である。
終わり方の人知れず静かに何かが終わっていくあの感じがたまらなく良い。
今語っているのは誰なのか?どの時間軸の話なのか?屋敷なのか修道院なのか?ムディートなのかウンベルトなのか?幻想なのか現実なのか?頭の中を激しく揺さぶられるがそれが読み進めるうちに苦痛にはならずむしろグイグイと読み進めてしまう何か中毒性のある魅力的な作品だった。



【夜のみだらな鳥】ホセ ドノソ 感想 1

【夜のみだらな鳥】ホセドノソ 感想 1



エピグラフ

“分別のつく十代に達した者ならば誰でも疑い始めるものだ。人生は道化芝居ではないし、お上品な喜劇でもない。それどころか人生は、それを生きる者が根を下ろしている本質的な空虚という、いと深い悲劇の地の底で花を開き、実を結ぶのではないかと。精神生活の可能なすべての人間が生まれながらに受け継いでいるのは、狼が吠え、夜のみだらな鳥が啼、騒然たる森なのだ。”

その子息ヘンリーとウィリアムに宛てた父ヘンリー・ジェイムズの書簡より。


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女中のブリヒダが死んでしまい ラケル夫人がすべて面倒を見た。葬式はブリヒダが晩年を過ごした エンカルナシオン修道院で行われた
修道院は持ち主のドン ヘロニモによって処分されてしまうという。
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修道院 6人の老婆が孤児のイリス マテルーナに 話す昔話、地主の主人に9人の息子と1人の末娘がいた、村に魔女の噂が立つ 末娘を育てた乳母が魔女だということで追い詰められる 末娘は乳母をかばうが 修道院に隔離され乳母は殺される
そしてむらに平和が訪れた。
この話はアスコティア家の領土で生まれ国全体が知っている有名な話 アスコティア家の一族であるイネスも乳母のペータ ポンセに聞かされてもちろんこの話を知っているだろう。

イリス マテルーナは妊娠している6人の老婆はそれを隠して自分たちで育てようとしていた。
〈ムディート〉はそれに気付きシスター ベニータに知らせようとするが 老婆達に止められ 出産の為に誰にも気づかれない部屋を探してくるように頼まれる それに見合った地下室を見つけてくると 7人目の魔女として迎えられた。
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アスコティア家には跡継ぎがいない。
イネスがローマにいる間、ヘロニモは突然修道院大司教に贈与するサインをした。〈ムディート〉の住んでいるエンカルナシオン修道院は昔は賑わっていたが今は3人の尼僧と老婆達と一年前に来た孤児達しかいない。
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イリスはまだ生理が来ていないのに妊娠していることがわかる(まだ未成年)それに気づいた6人の老婆達はそれを奇跡の子と喜ぶ。6人の老婆達はこの話を誰にも知らせず出産させる計画を練る、生まれた子供には何も教えず自分たちを頼るしかない子供に育て大きくなっても外に出さずいつまでも世話をするつもり。そして自分たちを天国に連れて行ってくれるだろうと思っている。〈ムディート〉は修道院を手放すのをやめさせるためにイリスの子供をヘロニモの子供として引き渡し修道院を継いで欲しいと思っている。〈ムディート〉はその為にまず6人の老婆達に協力することにする 〈ムディート〉は昔ヘロニモの召使いだった。
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〈ムディート〉はイリスにそそのかされ修道院の出口の鍵を開けてしまう。イリスは外で〈ヒガンテ〉というあだ名の男(ロムアルド)の手伝いをしたりして彼に夢中になった2人は幸福なカップルだった、その日からときおり鍵を開けイリスを外に出すようになった。〈ヒガンテ〉とはトルコ人に借りたお面をかぶりチラシを配るバイトをしている名前はロムアルド ムディートはそのヒガンテのお面を金を払うから貸してくれと頼む、ムディートはヒガンテのお面をかぶりチラシを配るするとイリスはいつものヒガンテと思い一緒にチラシを配る 夜になると2人は空き地の車のなかでセックスをする イリスは〈ヒガンテ〉のお面をかぶっているので〈ムディート〉とは気づいていない。
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〈ムディート〉がイリスの父親なのである。ヘロニモにも成し得なかった女を妊娠させるという単純な能力が自分にはあるということに喜びを覚える。イリスが妊娠したとわかった時から〈ヒガンテ〉のお面は必要なくなった、〈ムディート〉はロムアルドにお面をつけずにイリスと寝れたら金を払うと賭けをする、ロムアルドは拒否されその後お面をつけた〈ムディート〉が現れるとイリスは落ち着いた。そこでロムアルドはお金を稼ぐ為に、イリスと寝れることを教えてお面を様々な人に貸す。すると議員や映画スターなども来るくらい評判になる、そしてある日 ヘロニモが現れる。ヘロニモがイリスと関係を持ったことで〈ムディート〉の計画は完璧になった、イリスの子をヘロニモの子供と信じさせ 修道院の後継となってもらうそうすれば修道院はなくならず、〈ムディート〉は永久に修道院に留まることができる。〈ムディート〉はとても貧しい家庭で育った、子供の時初めてヘロニモを見かけたことがあった背が高く高価なスーツを着て友人達と会話をするヘロニモを見て埋めるすべのない渇望の穴が空いた、その男の影でもいいから一体になりたいと思った、その日から消えることのない羨望と悲哀が耐え難い苦痛となり始めた。
7
金を払ってお面を借りたのにイリスと寝ることができなかった連中が暴れてロムアルドとイリスは痛めつけられる、お面もバラバラになり壊れてしまう。
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イリスはずぶ濡れで中庭に倒れていた、老婆達は看病する 小人の老婆(ダミアナ)を赤ん坊と見立てオムツを替えたり世話をするようになるするとイリスは〈ヒガンテ〉のことはいっさい忘れてしまった。〈ムディート〉はある夜、影に隠れてイリスを見張っているとダミアナが新聞の読み方 文字の読み方を教えすべて自分でできるように教育していた。ダミアナはある日修道院から抜け出した。すべてを知ったイリスもムディートに外に出さないと〈ムディート〉の悪事をバラすと脅す、イリスは本当の父親を探したいだけ
〈ムディート〉は自分が探してくるから待っていろという 外に出ると 内側から鍵をかけられ締め出される。
9
外で泥棒と言われ警官にいためつけられ署に連れて行かれる〈ムディート〉、聾唖ということで釈放される。修道院に行って中に入れてもらう為に向かう。
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ヘロニモはヨーロッパから戻ってきた、叔父にこっちで代議士になれと薦められるがきっぱりことわる。
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議員候補として活動するヘロニモ、パーティでイネスに出会う、一瞬で恋に落ちる。先祖の聖女と同じ名前になれて嬉しいというイネス そんな話は知らないヘロニモ 、ペータ・ポンセに聞いたという。ペータはイネスが具合の悪い時に看病してくれた命の恩人でイネスの大のお気に入り。ヘロニモはペータに会いハンカチをプレゼントされる、それが見事すぎてみすぼらしい老婆が美しいハンカチを生み出すことに恐怖し金だけ渡しすぐその場を去る、イネスは悲しむ、昔原因不明の腹痛の時にペータがお腹を吸ってくれて治ったことがあるとヘロニモに話す、ペータは魔女だから会うなと言うとイネスは怒りヘロニモの顔に傷をつける。結婚式は行われる、ヘロニモはイネスの体を求めるが拒否される、イネスはペータを引き離す事はしないと約束させる。
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ヘロニモは屋敷にいる黄色い犬をなぜそのままにしているのか小作人に尋ねるとイネスの命令という。
ある日投票所から投票箱が盗まれた、民衆が怒り出す、民衆はヘロニモを打ってしまい、騒動は終結するが本当に打たれたのはウンベルト(ムディート)だった。ヘロニモはその血を自分の腕になすりつけ名誉の負傷を自分のものにした。この事件を機に度胸のある男だとイメージアップにつながる。
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ヘロニモがいない時は必ずペータのところに行くイネス。傷を負ったウンベルトは修道院に戻るとイネスが手当をしてくれた、困ったらペータのところに行けと言われよく通ったそのうちペータはヘロニモをこの部屋に連れて来れば子供を授けることができるというがそれは無理な話、しかし教会で傷を分けあってからウンベルトもヘロニモである。ペータの力により隠れ家に吸い寄せられるように向かうウンベルト、部屋にはイネスがいた、イネスはウンベルトをヘロニモと呼んだ、セックスをする2人、ペニス以外には触れようとしないイネス、自分の存在を認めてくれと願うウンベルト、その時から彼は啞となった。
家に帰るヘロニモ、ウンベルトは頭も良いし何でも任せられるという、明日は首府で大切な演説があるのでどうしても眠りたいが黄色い雌犬が窓の下で吠えて眠れない。イネスは「そっとしておいたら」という。この数時間彼女が口を聞いたのはこれが初めて。ヘロニモは黄色い雌犬を殺そうと4匹の飼い犬を連れて行く、止めるイネスを振り切り飼い犬はあっという間に息の根を止めた。しかし後日庭師にウンベルトが確認するが誰も知らず本当に黄色い犬が死んだのかは誰にもわからない。
イネスの懐妊が知らされる、実際はイネスではなくペータと寝たのだろうと考えるウンベルト、それから性を取り戻したペータはウンベルトを追い回す。それが嫌なウンベルト、ヘロニモはイネスが妊娠したのでセックスできずウンベルトを連れて娼館に行く、自分のセックスを見ててくれと頼む、ヘロニモはウンベルトの羨望と軽蔑の眼差しがないとセックス出来ない。ウンベルトの存在が深く中に入ってしまっている、見捨てないでくれと願うヘロニモ。
ペータが修道院の周りをうろついている、しかしわかるはずがないアスーラ博士によって顔がすっかり変わっているから、その目を除いて。
ヘロニモはイネスを連れ出すことが出来た、子ども〈ボーイ〉を産む事ができたがそれは、いっそ殺した方がいいというような奇形だった。
14
ヘロニモはリンコナーダの屋敷を改造し完全に外と遮断した。〈ボーイ〉に与えるものは下品であってはならず怪異とは美と対等だと考える。ウンベルトに奇形を集めさせその中でボーイを育てようと考える〈ボーイ〉に外の世界があるとわからせないようにウンベルトはいっさいを任されるそして作家なのでそれを記録するように頼まれる。奇形たちはヘロニモにたっぷりの報酬をもらっておりみんな着飾って屋敷に集合したそして部屋を決めそれぞれの生活が始まる。
15
ヨーロッパで優秀な医師で自身が奇形のアスーラ博士を見つける。生まれた時すぐ死ぬだろうと言われていた〈ボーイ〉にアスーラ博士が生命を危うくする異常をすべて取り除いた。しかし奇形ではなくさないで欲しいと頼まれていた。ウンベルトは書斎を作りものを書く準備を始めるが書こうとすると胃が痛む、リンコナーダに閉じ込められてる気がする。〈ボーイ〉がげりをしているという、中庭を歩いていると住人のミス ドーリーが自分の乳をあげているのを見つけるウンベルトはすぐ首にし外に追い出す。
ボーイは1人だけ健常者のウンベルトを見て怖がる、それを見たエンペラトリスのかっこうの餌食になった。みんなが自分を笑っているような気がする、書こうとするがなにもかけず具合の悪さにタイプライターの上に崩れ落ちる。
アスーラ博士が診察する、奇形たちの血をウンベルトに輸血する奇形たちは自分の血を欲しがっている。
自分は奇形たちの寄せ集めなのだ。
17
ヘロニモは手術に全力を尽くせという体の80%は切除され残ったそれは20%しかない。非常に重体で命を落とす寸前だった。ヘロニモは長い間かけた計画がまもなく完了すると言っている。
ウンベルトは若い頃家出してバーエルクレスで働くロシータと同棲していたそこにヘロニモが訪れカウンターのロシータに手紙を渡して帰る、そこにはウンベルトに明日の10時に屋敷に来てくれと書いてあった。
18
最初からすべてがヘロニモの計画だった、イネスは針にくらいつかせるための罠、異形の者たちを支配し彼に代わってその嫡子の父となる事、これが最後の誘惑。ウンベルトはそれに食いついた。ベッドに縛り付けられ死ぬ事も許されずどうするつもりなのだろう。大手術が行われるという、ウンベルトの器官をヘロニモに移植する。ウンベルトにたぶらかされ下の腐った老婆とセックスさせられてからヘロニモの性器は役に立たなくなってしまった一方ウンベルトは従順を装いイネスと寝た、妻の体に触れたこの下衆な男の性器を自分に移植しようとしていた。それを聞いたウンベルトは美しいイネスに触れるという禁じられた壁を超えた事がわかった今自分の性器などどうでもよく平安と愉悦を覚えた。6人の老婆たちがムディートを迎えに来る、すべてが自分のために仕組まれていると気付いてウンベルトはリンコナーダから逃げ出す。実際交換手術がどこまで行われたかはわからない、まだされていないようにも思える。修道院に戻りたい。イネス夫人の帰国の噂が聞こえた来た。
19
ラケル夫人は亡くなったブリヒダの残した莫大な遺産の処分に困っていた、シスターベニータに新しい病院を建てるのでそこにいって欲しいと頼むがシスターは断る。
20
競売人達が来て、ものをすべて運び出していた。イリスの妊娠は長く続いていた、秘密の計画を知るものは7人ではなくなっており噂が噂を呼びたくさんに増えていた。
ムディートはアスーラ博士の手術で20%の体になっていたので小さく縮み病弱な目だけの様な人間になってしまった。〈ムディート〉はイリスの赤ん坊の人形になっておしめを変えられている。イリスはずっと父親を探してきてくれと〈ムディート〉に頼んでいる夜になると〈ムディート〉は外に出て探しに行くが毎回戻ってきてはでっち上げの話をイリスに話す。
21
イネスが戻ってくるという、そうすれば修道院も壊されないだろうという
22
イネスは福者であるイネス・デ・アスコティアの遺体が修道院に埋葬されていると聞いてそれを見つけたい
23
イネスは子宮摘出のためにヨーロッパに行っていた ヘロニモに60を過ぎても体を求められるのが嫌だった。そしてそれをつげたとき修道院の売却が決まった。アスーラとエンペラトリスは結婚して病院を営んでいた、ウンベルトがいなくなりボーイは自由に暮らしていた。ボーイは青年期になるにつれ押し込めておくのは不可能になってきた。
24
イネスは屋敷から自分の服やアクセサリーを持ってこさせてドッグレースの賭けを老婆達とする自分はみすぼらしい服をもらい豪華な服などを老婆達と交換する。
25
イネスが手術をしにヨーロッパへいったのはペータになるためだペータはイネスになりイネスはペータになりたかった、アスーラの病院ではペータの器官が保存してありそれを移植したヘロニモとイネスが電話で話すイネスを養子にして修道院を継がせるというイネス、ヘロニモは反対する。イネス、イリス、ウンベルトは一体と確信した願望はヘロニモを消す事。
26
ある朝イリスのベッドで目覚める〈ムディート〉イリスの赤ん坊が生まれた。奇跡の子と望まれ続けた〈ボーイ〉とは〈ムディート〉だった。
イネスとイリスはかけをやり続けるイリスは賭けるものがなくなり赤ちゃんをかけるという、イネスは賭けに勝ち子供はイネスの物に、イネスこそ福者イネス・デ・アスコティアなのだとみんなが崇めた。イネスは赤ん坊を連れて寝室に行くが寝るときに犯されそうになり修道院から出て行くという。気がおかしくなり救急車で病院に連れて行かれた。
27
アスーラ博士は青年期の〈ボーイ〉が逃げ出した事によりヘロニモが復讐してくると考えエンペラトリスと逃亡しようと考える2人は街を歩いていると乞食に呼び止められる、ウンベルトだった
ヘロニモを抹殺する事を約束して欲しいという。
〈ボーイ〉が屋敷に帰っていた、五日間の外出で自分の父親が何者で何を企んだか、死んだら財産が入る事エンペラトリスとアスーラに虐待され続けてきた事などいろいろと知って帰ってきた
〈ボーイ〉は計画を建てた、ヘロニモがここに来る、ヘロニモの滞在をできるだけ長くする。外の世界を抹殺するつもり、外に出た時、娼館で娼婦に触らせてもらえなかった、五日間外に出てみて生きる事への興味を失ったのでアスーラ博士に手術を頼む、五日間の記憶を消して昔の何も知らない自分に戻して欲しい。手術も終わり父親もいなくなったらいっさいをアスーラとエンペラトリスに譲るという。アスーラは犯罪に手を貸すのはごめんだという。
28
ヘロニモは〈ボーイ〉に会いに来たがボーイは警戒して近づいてこない(演技)何日かかけて慣れてくると近づいてくるようになるが小突かれたり 奇形とセックスを強要させられたりする。
〈ボーイ〉は悩んでいた父の記憶も消して欲しかったそれをすると植物人間になってしまう。ヘロニモはここからは中に入って暮らす事が必要と言われるがその夜、犬の格好をさせられたり奇形に罵られたりした事でその晩そこを出る事に決めた。しかし外に出ることはできず、裸で逃げ回っていると奇形達はみんな綺麗な格好をしてヘロニモを笑い者にした。そこでヘロニモは奇形は自分なのだと精神的に追い詰められ池で溺れて死んでしまう。
29
〈ボーイ〉=(ムディート)が生まれ老婆達はこれで神の子に天国に連れてってもらえると喜んでいる。イリスの事はもうどうでも良いと言う。イリスは〈ムディート〉が夜鍵を開けて外出させてくれていた事などすべて老婆達に話すがイリスが嘘つき呼ばわりされ老婆達に仕打ちを受ける。娼婦の格好をさせられ無理やり外に出され 男に連れて行かれてしまった。
老婆達は食いぶちがなく外に出るようになる。万引きやたかりをして生活するようになる。老婆達はムディートの面倒を見なくなっていた理由は奇跡といった受動的なイメージを投影する物質に過ぎなくなってしまったため。イリスを外で見かけたものがいた。ここに来たがっているように見えたそう、子供は絶対に渡さないと誓う老婆達、奇跡を早くと願う老婆達 ムディートはくる日もくる日も何重にも袋を縫い重ねられもう何も見えない。かすかに老婆達の祈りが聞こえる。
30
神父が、37人の老婆達を迎えに来た。新しい修道院に向かうという。ブリヒダの遺産でラケル夫人がシスター・ベニータと協力して建てたものだ
一週間後に取り壊しが始まりそこには図書館や体育館、その他いろいろな施設ができるという。点呼を取るとイリスがいない事に気づく神父、老婆達に聞くと 誰も知らないと言う。
出発しようとすると人夫が次から次へと大きなカボチャを持って現れた、1年前にラケル夫人が送った五百個の大きなカボチャだった。
老婆達は新しい修道院に向かう

〈ムディート〉は袋に包まれたままだが、近くに気配を感じる、咳が聞こえる。その気配を見たいと袋をかじり懸命に剥いでいくと皺だらけの手がまた縫い付けてくる。【新しい包み】ができる。老婆は大きな袋の中にマテ茶やいろいろな物やゴミと一緒に【新しい包み】も入れ外に出る
外で焚き火をしている。牝犬が近くに寄ってくる、火が消えそうになり袋のものを全部開けて火の中に放り込む。

“老婆は立ちあがり、袋をつかむ。 口を開いて激しく振り、なかのものを火の上にあける。木つば、ポール紙、靴下、ぼろ切れ、新聞、紙切れ。がらくた。 なんでもいいのだ、火が少しでも強くなって、寒さをしのげれば。 燃えにくい布や紙などの、きなくさい
臭いも気にならない。風が煙や臭いを吹き飛ばしてしまう。老婆は石の上にうずくまって眠ろうとする。もうひとつのぼろ包みのように見捨てられた人間のそばで、しばらく火が燃えているが、やがて火勢が衰え始める。残り火も弱まり、ひどく軽い灰に蔽われて消える。風が灰をさらっていく。あっという間に橋の下には何も無くなる。火が石の上に残したまっ黒な跡と、針金の把っ手のついた黒ずんだ空缶だけになる。風が空缶を引っくり返す。空缶は石の上をころがり、河のなかに落ちる。”


感想は次に

http://kawa06shin08.hatenablog.com/entry/2016/04/02/055353

【華氏451度】 レイ ブラッドベリ 新訳 感想 2

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挿絵が良い。

 

面白かったところ。

 

エピグラフ

 

‘ もし連中がルールド・ペーパーをよこしたら、逆向きに書きなさい’

                                ファン・ラモス・ヒメネス 

 

〔ルールドペーパーとは、ふつう罫紙のことだが、ルール(規則)つきの紙とも解せる。その場合この文は「もし連中がルールを押しつけてきたら、反逆しなさい」の意味になる。

 

★始まりの文章

 

火を燃やすのは愉しかった。

 

この一行からの始まりに ぐっと引き込まれる。

 

あとがきから

 

今ではアメリカの国民文学に準じる地位まで押し上げられている。

 

トリュフォー火星年代記を映画化しようとブラッドベリに連絡すると 答えはノー 代わりに 華氏451を推薦された 理由は ブラッドベリ火星年代記の脚本を自分で書いていたため

 

 

個人的感想。

先にトリュフォーの映画を見た。 とても気に入り 原作を読んだ。

 

  全てが急速に発展し何もかもが便利になっていく世の中で、失いつつある大切なものを 大事にしなくてはならない、という事がとてもシンプルに書かれていると思う。

 

まさに自分達の生きる時代のテーマでもあるような話であり、普遍的なものに感じる。

 

ジョーオーウェル1984年も似たような題材であるが、個人的には華氏451にとても惹かれるものがある。決められた日常から抜け出そうと懸命にもがくモンターグに深く共感し物語に強く引き込まれる。

 

本が焼かれる時代に森に隠れて暮らし、本を丸ごと頭に入れて未来に残そうなんて、 本好きにはとても魅力的なテーマである。

 

自分達の生きる現代も紙の本、 レコード、 カセットテープ、ビデオテープなど 古いアナログなツールはことごとくデジタル化されていき、 自分のように古い映画、本 、音楽 が好きな人間には、情報を集めにくくなるが、世界にはたくさんの  “渡り労働者のキャンプ” があちこちにあり、これからなくなっていくような愛すべき物たちを後世に残していこうとしている人々がたくさんいると思うと。

とても勇気づけられる 自分もそういう側の人間でいたいと強く思う。

 

 

 

 

 

 

【華氏451度】 レイ ブラッドベリ 新訳 ネタバレ あらすじ

 

100点/100点     274ページ

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あらすじ

 

舞台は、情報が全てテレビラジオによる画像や音声などの感覚的なものばかりの社会。そこでは本の所持が禁止されており、発見された場合はただちに「ファイアマン」(fireman ― 本来は『消防士』の意味)と呼ばれる機関が出動して焼却し、所有者は逮捕されることになっていた。

(表向きの)理由は、本によって有害な情報が善良な市民にもたらされ、社会の秩序と安寧が損なわれることを防ぐためだとされていた。密告が奨励され、市民が相互監視する社会が形成され、表面上は穏やかな社会が築かれていた。だがその結果、人々は思考力と記憶力を失い、わずか数年前のできごとさえ曖昧な形でしか覚えることができない愚民になっていた。

そのファイアマンの一人であるガイ・モンターグ(Guy Montag)は、当初は模範的な隊員だったが、ある日クラリスという女性と知り合い、彼女との交友を通じて、それまでの自分の所業に疑問を感じ始めた。ガイは仕事の現場で拾った数々の本を読み始め、社会への疑問が高まっていく。そして、ガイは追われる身となっていく。

 

第1部

モンターグは、ファイアマンの仕事に誇りを持っている。ある日仕事帰りに、クラリスという不思議な少女に会い「あなた幸福?」と聞かれファイアマンの仕事は昔は火を消すのが仕事だったと教えられ、その後いろいろと話す。彼女のことが気になりだす。

家に帰ると、妻が睡眠薬の過剰摂取で倒れている。すぐに救急を呼び治療をしてもらう30分程度で簡単に終わり 最近は同じような事件が頻繁にある、と救急の人は言う。

朝起きて出かけると、クラリスが外にいて、モンターグがファイアマンをやっている理由がわからないという。

仕事場に行くと、機械猟犬に唸られる、モンターグは猟犬に嫌われているというが、猟犬はデータで動くので、感情で嫌うことはないと同僚に言われる。

モンターグは自宅を出ると、毎日のようにクラリスがそこにいた。

クラリスは学校に行っていない、他の子供達と違うから、今のような社会になる前の事を、叔父が色々と教えてくれるらしい。

しばらくするとクラリスを見かけなくなる。

仕事で老女の家に捜索に入る、本を燃やす作業に入ると老女は外に出て来ようとしないので、モンターグが助け出そうとするが、自らマッチをすり、火をつけ自殺する。

家に帰る。モンターグは本を持ち帰り枕の下に隠した。

ミルドレッド(妻)に自分たちの出会いを聞くが二人とも思い出せない。ミルドレッドと自分の間には壁があり、死んでも泣かないだろうと思う。

翌朝、モンターグは具合が悪く会社に行かないという、昨夜の老女の事件が忘れられないのだ、仕事に行かずにいると、隊長のベイティーが家に来る。ベイティーは昔の事もよく知っておりモンターグに説明する。人間を皆平等にする為に、本は排除され、家は防火建築に変わり、ファイアマンの仕事は始まった 。ベイティークラリスの事を話すと、ベイティーは知っていた。反社会的な家族なのでマークしていたらしい。ベイティーも試しに本を読んだ事があるが、何の為にもならなかったという。モンターグに、明日から出勤するようにうながして帰る。

モンターグは、隠してあった20冊余りの本を妻に見せる。 読みたいので協力してくれというが反対される。

 

第2部

この国は2度核戦争をして勝利している。自国は裕福だが、他国は貧しいらしいのだが、何の情報も入ってこない。本を読めば何かわかるのではないかと思う。

昔、公園で会った不思議な老人の事を思い出し、その時住所をもらっておいたので会いに行く。老人は耳の中に入れておけば会話出来るレシーバーのようなものをモンターグに渡す。それをつけてベイティーに会いに行けという。

一旦、 家に帰ると妻がパーティーをしている。モンターグは本を持ってきて、客の前で詩を読む、反社会的な行動のため参加していた客は泣き出す。モンターグは罵倒して追い返す。

ベイティーに会いに仕事場に行く。話していると、出動のベルが鳴る。緊急に出勤したどり着いたのは、モンターグの家の前だった。

 

第3部

家の前に立つと 妻は 飛び出してきてタクシーに乗りそのまま去って行ってしまう。

モンターグは自分で本や家具を焼き尽くす、するとベイティーがモンターグを逮捕すると告げる ベイティに顔を殴られると 耳に入れていたレシーバーが外れベイティーに取り上げられ通信していた事がばれる。

モンターグはベイティー火炎放射器を向け「僕らは 一度だって正しい理由で物を燃やした事はなかった…」と言い ベイティーを焼き殺す。他の二人のファイアマンも殴りつけて倒す。機械猟犬が襲ってくるが火炎放射器で倒すも 足を刺され片足が麻痺してしまう。

足を引きずりながら本を抱えその場を去る。行く当てもないので老人の家に向かう 途中ファイアマンの家に本を一冊置きそれを通報する。

老人の家に行きこれで逃げてくれと金を渡す。川を目指し線路をつたっていくと渡り労働者のキャンプにハーバードの学位を取った人達や優秀な人たちが都市部ではお尋ね者になっており、隠れて集団で生活しているからそこを目指せと教えてもらう

機械猟犬が多数放たれ 住民全員に外を監視するように警察から指令が出るが 間一髪逃げ延びる

火を見つけ近づくと五人の老人がいた テレビで状況を知っており 歓迎される

警察はモンターグを見つけられず代わりの標的を殺し事件は解決したと住民に告げる。

モンターグは本を持っているか聞かれると 頭の中に覚えているというと 喜ばれる。一度読んだものをいつでも思い出せる技術が完成しているので 知識をキープできるという。なので覚えた本は自分たちで焼き捨てている。

戦争が終わったら知識が必要とするものに本の情報を伝えていくしかし知識をひけらかしてはならない自分達は重要人物ではなく 本のホコリよけのカバーに過ぎない、いつの日かまた本が書かれる日が来たら 自分達の知っている内容をタイプして 本にする。とキャンプのリーダーはいう。

色んな話をしていると 戦争はものの三秒で終わった、都市は息絶えた。

これから何人もの孤独な人に会った時 何をしているか尋ねられたら 自分達は記憶をしているのだとこたえればいいと教えられる。それが勝利に結びつくと。

モンターグは自分の話す時が来たら何を話そうかいろいろ詩を思い出し考える 一編の詩を思い出し街に着いた時の為に大事にとっておこうと考える。     

終わり

感想は次

 

 

 

 

【蜘蛛女のキス】 マヌエル プイグ 感想

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【蜘蛛女のキス】   マヌエルプイグ   感想

100/90

 

1976年 アルゼンチン マヌエル プイグの作品

 

◉舞台は、ブエノスアイレスの刑務所の獄房の一室。

未成年に対する性犯罪で投獄されているゲイのモリーナと、社会改革を目指す若き活動家のヴァレンティンが徐々に心を通わせていく物語。

 
◉ストーリー
刑務所の監房で2人の人物が会話をしている
この時点では性別名前もわからない 1人は女性言葉で1人は男性言葉 黒豹女の映画の話を女性言葉の方が語って聞かせている。
映画の話に、男言葉が茶々を入れるので女言葉は話を途中でやめる。
女言葉はモリーナ 男言葉はバレンティンと明かされる。
モリーナはいつだってヒロインに感情移入するらしい。
モリーナは37歳 ホモセクシュアルで子供2人にいたずらして捕まった
バレンティンは26歳 革命家で政治犯
バレンティンブルジョアの女マルタが好きだった。黒豹女の話は報われない話で終わる。
次の映画の話が始まる ナチスの将校とフランス人女の話
バレンティンにナチ映画とバカにされ途中でやめる。
モリーナには妻子持ちのウェイターの彼氏がいたが面会には来たことはない。
映画の続きを語るがバレンティンは乗り気ではない。
食事が来るがモリーナは腹痛で食べれない、紛らわせるために映画の続きを話す。
ヒロインは最後撃たれて死ぬ。
モリーナはバレンティンがいちいちうるさいので自分1人で映画を思い出し想像する。
盲人と青年と醜いメイドの話。
今度はバレンティンが腹痛で眠れず 映画のはなしをしてもらうが途中で弁を漏らしてしまいモリーナが自分の毛布を使って丁寧に処置してくれる。
途中青年と母親、農場主、パリの女、娘の話が挟まれる(バレンティンの自分の過去の回想?)バレンティンは自分の過去の話を打ち明けようとするがモリーナは知りたくないと拒む。
バレンティンの腹痛は収まらない、仲間から来た手紙をモリーナに見せる。過去のことを語り涙する、また漏らすがモリーナが処置してくれる 上流階級のマルタという女が好きだった。
青年がゲリラに入る話(バレンティンの回想?)
モリーナは刑務所長に呼ばれている
政治犯バレンティンの尻尾をつかもうと食べ物の中に腹を壊すように何かを混ぜて与えていた。それによって何かを喋りだした場合、モリーナはそれを伝える役目を担っていた。
その見返りに恩赦が受けれることになっている。モリーナはバレンティンが何も喋らないから伝えることはないと所長に伝える。母との面会ということにしているので 大量の差し入れを持って監房に帰る。
バレンティンはまだ調子が悪いので気を紛らわすために映画の話を頼む ゾンビの話。
バレンティンは精神的にも弱っていき、モリーナに頼み、マルタという好きだった女に手紙を書いてもらう。
かいた後それを破り捨てる。
バレンティンは少し回復する 映画の続きを頼む。
映画の話は途中で終わりつぎの日へ
バレンティンは具合が良くなる、 するとモリーナに自分の行動をとやかく言われると腹が立ち怒りをぶつけてしまう。
すぐに謝るがモリーナは返事をしない。
モリーナは刑務所長と面談、 政治犯の件について、所長は大統領筋から圧力をかけられているらしい。
モリーナは自分が他の監房に移されることで何かをしゃべるのではないかと提案する。
戻ってバレンティンに監房を移ることを話すと、頭が混乱したから横になるという。
ゾンビの話のラストはハッピーエンドで終わる。モリーナは急に悲しくなり喉が痛いというとバレンティンがさすってくれる すると2人はそのままセックスをする。
翌日 バレンティンは気分が良さそう
モリーナはバレンティンの笑顔を初めて見た。
映画の話 新聞記者と元女優と富豪の夫の話
モリーナは途中悲しくなり黙ってしまう
 
所長は電話をしていて もう待てないから
モリーナを出所させたうえでアジトを密告したと新聞に載せ、組織を誘い出す作戦を立てる
モリーナは翌日の出所が言い渡される。
 
バレンティンに出所できることを告げると
仲間に伝言を頼みたいと提案されるが断るモリー
映画の続きを話す、 最後の夜2人はセックスするモリーナは前回してくれなかったキスをしてほしいという。バレンティンは搾取される人生を繰り返すなと告げる、そしてモリーナは伝言を仲間に伝えることを決断する。
 
出所から二週間の尾行と盗聴の記録が語られる。組織がモリーナと接触する可能性をつかみ モリーナの密告を新聞に載せる作戦は中止になる。
25日目 何者も接触のない場合はモリーナを検挙する命令が出ていた。
誰も現れないので警察が検挙すると、走行中の車から発砲がありモリーナは死亡
過激派はモリーナの自白を防ぐため行動を起こし射殺した。
警察の調書にはモリーナは過激派とともに逃げるか、抹殺されるか覚悟を決めていたとみられると書かれている。
 
バレンティンは食事抜きと激しい拷問で
激しく衰弱している。医務室でモルヒネを打たれる 。幻覚の中で 愛するマルタが現れる
マルタと話す 、モリーナには満足して死んだのであってほしいと思っている。 マルタは自分から殺されたと、決して正義のためではないという。
蜘蛛女の話を語るバレンティン 蜘蛛女は自分の蜘蛛の巣に絡まり動けない、 微笑んでいるのに涙(ダイヤの涙)している。蜘蛛女は山のような食べ物をあたえてくれた、
それを食べた後急激な眠気に誘われた
マルタの事がどれくらい好きか語る
マルタはこの夢は短いけれどハッピーエンドの夢だという。
終わり

 

 

あとがき含め461ページ 地の文が一切なくて

会話がほとんどなので すらっと読める

一週間かからずに読めた。

 

プイグは小説家の前は、ローマに留学し映画の製作に関わっていたらしい、だからなのかこの小説自体が映画や舞台の脚本を読んでいるよう。

 

映画の話の語り方がとても面白い

特に気に入ったのは、新聞記者の青年と元女優と富豪の夫の話のラストで、 元女優を心から愛していた青年が病気で死んでしまう。

それを悲しんだ元女優は青年の故郷に行くと

そこでは、青年が作った元女優に対する愛の歌が漁師に歌い継がれていてみんなが歌っていた

 

そして沈みかけたタ日を見つめながら、独りで歩いて行くんだわ、すると聞えてくるの、

 

〈…ぼくは幸せだ、そして君も 君はぼくを愛してる ぼくの愛はそれ以上 。君を深く愛するぼくは、過去のことは忘れてしまった そして今日、ぼくは幸せを味わっている、なぜなら君が …ぼくのために …泣くのを…見たから〉

もう暗くなりかけていたんで、彼女の姿はシルエットにしか見えないの、それがはるか彼方を、当てどなく、歩き続けるのよ、彷徨える魂のようにね。そのとき急に、彼女の顔がアップになったわ、目には涙が溢れているの、でも口許には微笑みが浮んでるのよ。これでこの話はおしまい」

 

本当にある映画の話なのかわからないが

終わらせ方が秀逸。

 

モリーナは釈放の前にバレンティンと話した会話以降、本人の語りは一切ないのでモリーナの心象というのは謎になっている。

彼にとって無念の死だったのか、 決意していたのか、それは彼にしかわからない。

 

ラストの蜘蛛女のくだりはモリーナの事を語っている。

 

モリーナの死後、バレンティンモルヒネを打ってからのマルタとの幻覚での会話は、バレンティンの思いを語っているがこのシチュエーションがないと地の文がないだけに、心象を語ることをができないところだが、うまく設定しているなと思った。

 

映画も見たが 原作の面白さにはかなわなかった。

 

 

全体にとても綺麗にまとまっていて、いわゆるラテンアメリカ文学の他の作者とは違った面白さがあった。

 

個人的には ラテンアメリカ文学の土の匂いを感じるような 土着的な空気感にあてらてしまったので多少ライトに感じた部分もある。

 

◉序盤の印象深い会話

序盤では 普通の会話のやり取りに思えるが、 悲しい結末を迎えるモリーナを知った後に読み返すと、 とても印象深く モリーナの生き方をシンプルに表す素晴らしい会話だと思った。

「あんたは誰のつもりなんだい? イレーナそれとも女建築家?」

 

「イレーナよ、何考えてんのよ。ヒロインなのよ、バカみたい。あたしはいつだってヒロインのつもりよ。」 

 

最初の黒豹女は、禁断のキスをすることで悲劇の結末を迎えてしまった。

モリーナも出所の前 バレンティンにキスを頼んだ、 何よりもヒロインに憧れていたモリーナは その時 自分に悲劇の結末が訪れるかもしれないことを決断していたのかもしれない。

 

 
 
 
 
 
 
 
 

【都会と犬ども】マリオ・バルガス・リョサ 感想その1

【都会と犬ども】 マリオ・バルガス・リョサ  感想その1

 

◉あらすじ

厳格な規律の裏では腕力と狡猾がものを言う、弱肉強食の寄宿生活。首都リマの士官学校を舞台に、ペルー各地から入学してきた白人、黒人、混血児、都会っ子、山育ち、人種も階層もさまざまな一群の少年たち=犬っころどもの抵抗と挫折を重層的に描き、残酷で偽善的な現代社会の堕落と腐敗を圧倒的な筆力で告発する。’63年発表。

 

◉ストーリー

★第一部

ジャガー、アルベルトらが、新入生の時(3年生が新入生になる)四年生に激しく暴行(洗礼)を受ける。それを受けて仕返しのため、組織と呼ぶチームを結成する。 しかし、夜な夜な集まって、悪だくみをしているのを中尉に見つかり、組織は解散させられる。映画館での上級生との乱闘など、学校での出来事なども問題になる。

 

〈僕〉は学校に入る前、近所に住むテレサ

が好きでいつも家に行って一緒に勉強していた。

リカルドアラナ(奴隷)は、厳しい父親に暴力を振るわれていた。

テレサは近所に住むアラナに映画に誘われたと叔母に話す。

アラナは外出できないので、会えない事を伝えるために唯一の友達アルベルトに、テレサにあって伝えてもらうが、アルベルトは自分がテレサと映画に行ってしまい、次もまた会おうと告げる。

学校で試験が盗まれたのがバレる。 その時、歩哨(見張り)をしていたのは、奴隷とアルベルト、やったのはカーバ(ジャガー達、組織の賭けに負けてやる事に)

〈僕は〉テレサに会いたくて学校までつけて行った事がある。

奴隷は外出禁止をくらっていたので、テレサに会いたくても会えず。

奴隷は外出したいために、カーバが試験を盗んだ事を中尉に密告する。

奴隷は密告により外出できる事になる。

カーバが処分された事でジャガー達に、クラスの中に密告者がいる事がバレる。

アルベルトは外出してテレサに会うが奴隷は来ていないという。そしてテレサに好きだと伝える。

ガンボア中尉というどの同僚達よりも真面目な中尉がいる。

銃を使った野外演習の最中、頭から血を流し倒れている生徒を発見 奴隷だった。

★第2部

ボアがやせっぽちという犬を可愛がっていた話。

アルベルトは治療中の奴隷に会いに行くが、会わせてもらえない。

〈僕〉はテレサにケーキを買ってあげた。

カーバは放校処分になった。

アルベルトは学校に来ていた奴隷の父と会う。

外出できた日は、奴隷は父親にせっかく久しぶりに出てきたのだから家の中にいろと言われた事がわかる。(本当はテレサのところに行きたかった)

大佐をはじめ学校側は、奴隷の葬式の準備を始める。 診察結果で後ろから銃弾を受けているという結果も出ているが、“表向き”自殺として公表する事にする。

〈僕〉は世話になっている イゲーラスに泥棒に誘われる。テレサに会うための金がないので 手伝う事にする。

奴隷の死後、アルベルトは別人のようになってしまった。誰とも口をきかずみんなから離れている。

アルベルトは偶然テレサに会うが、しばらく会えないが手紙はくれと行って別れる。

〈僕〉は泥棒に参加し、金が手に入り、テレサに漫画をプレゼントする。

アルベルトはガンボア中尉に電話し、奴隷を殺した犯人を知っていると告げ、中尉の家に行く。

ジャガーはカーバの放校処分の後、誰彼なく突っかかるようになった。とにかく密告者を許せず見つけたがっていた。

アルベルトは全てを告げる。アラナがいじめられていた事、クラスの者が、酒タバコ、博打をしている事、ジャガーが、密告者がアラナという事を知り、腹を立て殺した事。

ジャガーはガンボア中尉に呼び出される。

〈僕〉はイゲーラスと何件も泥棒にはいるようになった。テレサともうまくいっていた。

アルベルトの告発を、大尉に掛け合うが取り合ってくれない。しかしガンボア中尉が報告書を作り自分が直接少佐に掛け合うという。

大尉はガンボア少尉に、我々二人とも来年の昇進があるからこの事件を報告するのはやめようというが、正義感の強いガンボアはそれはできないという。

アルベルトの密告により、クラス全員ロッカーを検査される。生徒達はジャガーが密告したせいだと言い出す。

ガンボアはジャガーを呼び出して話す。 ジャガーは答案を盗んだりはみんな共犯だと言う。見たやつも悪いという。 奴隷を殺してはいないといった。

〈僕〉は、海でテレサと男が遊んでいるのを見つける。

その男をボコボコにし、テレサに暴言を吐き警察に連れて行かれる。出所すると家には帰らずイゲーラスの所にすませてもらう。

アルベルトは大佐と面談。 証拠がないのでなにもできないと言われ、逆に自分がクラスメイトに売っていたエロ小説の事について問い詰められなにも言えなくなる。

面談が終わり独房に戻るとジャガーと同じ部屋になる。

〈僕〉はイゲーラスと共に昔のボスに雇われ、泥棒にはいるが、はめられてイゲーラスは捕まる。〈僕〉は逃げて、自分の家に2年ぶりに帰るが、母親は死んでいた、テレサも引っ越していなかった。

アルベルトとジャガーは言い合いになり、自分が密告者だと告げると、ジャガーにボコボコにされる。

〈僕〉はおじさんの家で働かせてもらい、士官学校の入学費まで出してもらう。

アルベルトは、奴隷が密告してカーバが捕まった事を言ったら、ジャガーは知らなかった。

アルベルトはジャガーが奴隷を殺した事を、疑って悪かったと謝る。

兵舎に戻ると、ジャガーは密告者だとクラスメイトに責められ乱闘になる。ジャガーは、アルベルトが密告者だとは、クラスメイトに言わない。

アルベルトはジャガーに、なぜアルベルトが密告者だと言わないかと尋ねる。  

「自分は奴らにどう思われようが気にしちゃいない、お前も消え失せろ」と言われるが 友達でいてくれとアルベルトはいうが、ジャガーは断る。

◉エピローグ

ガンボアは寒冷地に左遷になった。

ジャガーは奴隷を殺した事を手紙にしてガンボアに渡した。2人は学校の外で話す。ガンボアは蒸し返す事はせず、アラナの死を無駄にしないように頑張れ、と告げる。ジャガーは密告者の奴隷(アラナ)からクラスの皆を守ってやったつもりが全員から罵倒された事に腹を立てていた。

アルベルトは奴隷を守ろうとして行動していたので許した。

アルベルトは昔の仲間と楽しくつるみ、新しい彼女も出来た。アメリカに行ってエンジニアになる予定がある、奴隷の事も少しずつ忘れられるようになった。

ジャガーは、捕まっているイゲーラスに面会に来て色々と話す。テレサと再会して結婚した。

今は堅気で幸せに暮らしている。 

 

この書き方にはトリックがあり、〈僕〉という人物でイゲーラスと関わり、テレサと恋愛をしている登場人物は最後まで明かされないがジャガーの過去の話である。(テレサの近所という事で奴隷の過去と勘違いさせられる。)

 

終わり

 

感想は次に